第217回_経営者の成功する必須条件とは | 【松下幸之助、創業者、名経営者、政治家に学ぶ】          

第217回_経営者の成功する必須条件とは

船井総研(東証1部)の創業者、船井幸雄は経営コンサルタントという職業柄、数千人の経営者と膝を突き合わせて本音で語りあってきている。浅い付き合いの経営者を多く知っている人はいても、経営者との深い付き合いを船井ほど多くしてきた人間はそうはいないのではなかろうか。そんな船井が上げる経営者の成功する条件は、「プラス思考」「素直」「勉強熱心」の3つだそうだ。


私も既に故人となっていて直接会ったことはないが、書物や直接会ったことのある人から昔の創業者、名経営者のことを聞き、多くの人物を調べてきたつもりである。この船井の上げる3つの成功の条件は過去の偉大な経営者に照らし合わせてもほぼ当てはまるのではないかと思う。そしてこの3つの中でも経営者に絶対に欠かしてはいけないのは「勉強熱心」ではないかと思う。私なりの分析を加えると「素直」というのは「勉強熱心」に含まれると思うし、船井いわく「大企業の社長や会長は、私の知る限り、本当に皆謙虚」というが、この謙虚というのも「勉強熱心」に含まれると思う。素直で謙虚な人というのは皆、勉強熱心である。


では、成功する経営者の条件で「勉強熱心」が何故欠かせないと思うかというと、企業は経営者の器以上にはならないからである。経営者の成長が止まると企業の成長も止まるし、企業が成長しているときは経営者が必ず成長しているはずである。そう考えると経営者に勉強心が無くなると企業は衰退に向かう。それだけではなく、創業者にしろ、サラリーマン社長にしろ、最後の最後で失敗し失脚するケースが少なくないが、それまでどんなに輝かしい実績や業績を築き上げてきた人でも「勉強心、素直さ、謙虚さ」というものが無くなった時に番節を貶(けな)す結果になるのではなかろうか。


そのことを象徴するエピソードをコンサルティング会社、ドリームインキュベータ(東証1部上場)の創業者、堀紘一の著書「人と違うことをやれ」(PHP文庫)に書かれているので引用してみたい。


イトーヨーカー堂グループ(現セブン&アイ・ホールディングス)の創業者、伊藤雅俊とダイエーの創業者、中内功はとにかくメモ魔であったという。伊藤名誉会長は食事中でも、仕事に関係ないことでもとにかく気になることや、これはと思った話は直ぐにメモを取る。中内も50代の頃、息子ほどの年齢差がありまだ無名のコンサルタントだった堀の話をとても熱心に聞き、2時間ほどの話しでメモを20枚以上も取っていたのでその謙虚さというか学習意欲には驚いたと堀は述べている。


ところが、その後の中内は60代半ばにさしかかる頃から堀と会うとメモを取るどころか説教をするようになったという「世の中とはこうこうこういうものなのだ。君、こういうことが分かっているか?」「堀君、君よりもオレの方がよっぽど優秀なコンサルタントだろう? オレを雇ったらどうだ?」こんな調子でそれまでの謙虚さや飽くなき学習意欲がなくなり変身していったように映ったという。


ダイエーは戦後、一時は小売業界の頂点を極め中内はカリスマ経営者と持てはやされたが、終番になるとライバルのイトーヨーカー堂が堅実に成長を続けるのとは裏腹に、中内のダイエーは衰退の道を辿っていった。堀は中内の変身と合わせるようにダイエーの低迷が始まったと指摘している。


中内・ダイエーの衰退の原因は「ダイエーはバブル時代に多角化経営で本業以外に手を出しすぎた」「中内は伊藤雅俊でいう鈴木敏文(セブンイレブン創業者)のような片腕、後継者となる人材を育てられなかった」等、研究者やジャーナリストが様々な理由をあげており、どれもこれも正いと思うが、私が一つ理由を上げるとすれば、堀が指摘したように中内に「勉強心」無くなったことが大きな原因ではないかと思う。「勉強心、素直さ、謙虚さ」が無くなると、ことごとく判断が狂う。善悪の区別がはっきりしなくなる。悪に対しても弱くなり、弱くなると、やがて逃避的か迎合的になる。これは非常に恐ろしいことであるが、このことは何も社長に限らず、社員であっても責任の重さが違うだけで同じことがいえるだろう。


そして私は、逆に生涯、最後まで「勉強熱心」を持ち続けたのではないかと思う人物がいる。それは松下幸之助(現・パナソニック創業者)である。幸之助は父親が米相場で失敗、破産したため尋常小学校を4年で中退し、9歳で丁稚奉公として働くことになった。ろくに学校には行っていない。しかし学校に行くことや読書だけが勉強ではない。幸之助の凄いところは自分以外の物を全て師と思い学び続けたことではないかと思う。私はそのことを幸之助が遺した「学ぶ心」という詩に集約されていると思う。PHP文庫を買うと「しおり」にも載っているので読んだことのある人も多いと思うが、この詩に幸之助の人生観が凝縮されており、常に素直に謙虚に学ぶ気持ちを持って生きてきたことが垣間見える。私はこの詩がこよなく好きである。是非ご覧いただきたい。


松下幸之助詩集(学ぶ心) http://bit.ly/pxwfLX


関連サイト

松下幸之助語録 http://bit.ly/oO0kre

伊藤雅俊語録 http://bit.ly/wrEHOc