第168回_大学の存在価値を問う | 【松下幸之助、創業者、名経営者、政治家に学ぶ】          

第168回_大学の存在価値を問う

ここ最近、不景気の影響か就活している学生の安定している公務員、大手企業への就職希望者がますます増えているようだ。なかには有望なベンチャー企業に内定をもらったのに、親に反対され就職浪人させられ大手企業を受けさせられているという話もあり驚かされる。


アメリカでは優秀な学生は自ら起業する、次に優秀な人はベンチャー企業に就職し、それ以外の人が大手企業や役所に就職すると聞く。エジプト革命で日本でも話題になった世界最大のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)フェイスブックもハーバード大学の学生寮の一室で産声を上げている。当時ハーバード大学の学生であったマーク・ザッカーバーグが創業したのがフェイスブックであった。


しかし日本の大学はいつから大手企業へ就職するための受皿となってしまったのだろうか。大手企業に就職することが悪いことではないが、もう少しチャレンジ精神や独創性があり大きく社会に貢献出来る人材を育てる教育が施されてもいいのではないか。そこにこそ大学の本当の存在価値があると思うのは私だけであろうか。



実はかつての日本にもアメリカの大学にも負けないぐらいの優秀な人材を輩出した大学があった。それは福沢諭吉が創設した慶応義塾であるが福沢の薫陶を受けた人達といった方が正しいかもしれない。

 



明治時代になると若くて有能な人材は商工業を敬遠し皆、政・官・軍へ就職した。当時は賤商観、いわゆる官尊民卑の思想が根強かったためである。



しかし実業を目指す人材がいなければ日本の産業の発展はありえるわけがないと考えこのことに危機を感じたのが福沢諭吉であった。



そこで福沢はビジネスに対する根強い反感と闘い、慶応義塾の弟子達にビジネスの意義、重要性を教え学問を実業に活かすことを促し、卒業生に官吏などにならず民間のビジネスマンになることを奨励した。福沢の最も大きな功績は実業界への啓蒙活動、ビジネスマン育成、企業家を育てたことであったと私は思う。


福沢が育てた人材を思いつくままに記すと、中上川彦次郎(三井の大番頭、山陽鉄道社長、三井銀行理事)、荘田平五郎(三菱の大番頭)、武藤山治(鐘淵紡績社長)、日比翁助(日本初の百貨店、三越を創設)、藤山雷太(精糖王、大日本精糖社長)、久原房之助(鉱山王、久原財閥)、藤原銀次郎(製紙王、王子製紙社長)、小林一三(阪急グループ創業者)、松永安左エ門(電力王)等、三井、三菱の財閥の幹部となる人材や、何とか王と呼ばれるようになった人達は皆福沢の門下生であり、彼らが日本の新しい産業を次々と起こしていった。



文責 田宮 卓