「決定的瞬間」を僕は聴き逃さなかった…。
通訳さんの「誤訳」のミスは良くあるのだが、多くの場合相手が素人なので公になる事は少ない。
分からないから通訳して貰うのだから「当たり前」のことだ。
そんな中でも、「特殊なケース」ではバレてしまう事もある。
もう、20年以上も前のことなのでどんな事件だったのかも覚えていないが、その「誤訳」の内容だけは覚えている。
外国の戦闘機が日本に緊急着陸した時か「亡命」した時だった様な気もする…。
飛行機と管制との英語でのやりとりが生中継で、それも「同時通訳」と言う形で放送された。
「管制より侵入機、応答願います」…。
ここまでは良かった。
「了解、ロジャー君!」。
僕は、これを聞いたトタンに吹き出してしまった…。
通訳さんは、「英会話」の専門家でも、「無線」については全く知らなかったのだ。
声や態度から察するに、通訳さんは百戦錬磨のベテランであり、彼には「誤訳」など想像も出来ない…。
管制官は日本人だし、「名前」なんて名乗っていない…。
通訳さんは、無線のやり取りが「了解!」から始まることは分かっていたものの、「ラジャー、ラジャー!」と2回繰り返すのは当たり前なのを知らなかった。
それにしても、彼が持ち前の経験で最初の誤訳をものともせず、まるで「何も無かった様」に最後まで新しい誤訳をしなかったのは立派であった…。