暑さがちょっとだけ和らいできたので読書を再開して、同僚から最近のお気に入りを押し付けられ借りました。

 

あなたのなどりません

ちょっとネタバレます。

 

ーああ、時が巻き戻せるなら。

あの言い伝えが本当なら、どうかこの願いを叶えてほしい。

どんなことをしてでもー

 

灰色のローブで全身を覆う謎の魔術師は、時を遡る術を持つという。

彼の前に立つ人がこれまでの出来事を灰色のローブの男に話すと、左手で空中に何かを書き「今度こそ幸せになれ」と言い、何もなかった空間が光りを帯び、すべてが光に包まれ時は巻き戻る。

ーあの日、あの時の、運命の瞬間へ。

 

祭壇の前で華やかに着飾った新郎新婦は愛を誓う。

新婦の伯爵令嬢ラシェル・シュリンゲンは、武門の誉れ高きバームガウラス公爵家当主の娘であり,現王国騎士団長で国の英雄でもあるヘンドリックに嫁ぐが、彼には最愛の平民の女性アリーがいて、ラシェルには跡継ぎを生む事だけを課せている。

本来なら、ありえない事であるが、ラシェルは一度ヘンドリックに命を助けられ、その時彼に恋してしまったから、その事をすべて承知で嫁ぐことを承諾してしまう。

そして結婚式の夜、ヘンドリックに、お前を愛することはない、お前は子供を産む道具、医師に子供のできやすい日を算出してその日だけここに来ると告げられ、現実をまだ知らないラシェルはヘンドリックを思いを汲むことにした。

しかし、初めての床入りは惨憺たるもので、口づけも名前も呼ばず、行為だけしてヘンドリックは部屋を出て行った。

ここに至ってもまだラシェルは、結婚すれば、子供が出来れば、ヘンドリックの心が少しは近づくだろうと考えていたが、子供が出来たと知っても彼は一度も帰って来ず、男の子を生んだ翌日彼はやってきて、もうここへ来る必要もないと言い放ち、子供が騎士の訓練ができるようになった年に迎えに来るから公爵家に相応しい人物になる様に育てろと言い放ち、それから一度も帰ることはなかった。

そんな彼の要求に縋るしかないと考えてしまったラシェルは、ランスロットと義祖父に名付けられた息子を、公爵家の嫡男として相応しくあるようにと、人の意見も聞かずことさら厳しく育てた。

ヘンドリックの弟の騎士団副隊長キンバリーは、厳しすぎるラシェルを諫めようとするが、彼女は聞く耳持たず、更に自分を追い詰め、ランスロットの虐待に発展してしまった。

仕方なくキンバリーはランスロットに、彼の母がランスロットが生まれるのをそれほど楽しみにしていたか、生まれた時どれほど喜んだかなどを話して聞かせるようにした。

そして、会った事のないランスロットの父親が、どれほどの功績をあげたか語って聞かせた。

キンバリーは、当主の仕事をラシェルに丸投げして、愛人宅から返って来ない兄と、母の教育で痩せてしまったランスロットを見て、この歪な家庭から甥を助けるため、騎士団を辞めて彼を預かろうと腹をくくる。

 

ある日、キンバリーがバームガウラス家の門をくぐると、ヘンドリックの馬がいた。

なぜか胸騒ぎがして急いで家の中に入る。

 

時間はその少し前、父のヘンドリックがやってきて、来月12歳になるランスロットを見てなぜ痩せているのか、食事はどうなっているとか一方的に問いただし、母のいる二階の部屋に乱暴に入ると、母を役立たずとなじり始めた。

ランスロットが急いで部屋に入ると父が剣を抜き、怒鳴りながら母に振りかざしていた。

ランスロットが「母上!」と叫ぶと、ヘンドリックの気が逸れて振り下ろした剣がラシェルの肩に沈む。

怒りに燃えたランスロットは、自分の子供用の剣を握り、父の前に立ち、母を壊した貴様が言うなと怒鳴るが父には通じず、今度は自分に向かい剣を振り上げると、恐怖で一歩も動けない自分を庇って母が斬られてしまう。

背中を斬られ、血しぶきが飛び散る中、ランスロットは自分を抱きしめた母が、大切なのはランスロットなのにと謝って息絶る。

そこに飛び込んできたキンバリーは、人を呼んで後処理をして、重罪を犯したヘンドリックは騎士団員に連れていかれる途中逃げ出し、少し離れた時計塔の上から飛び降り亡くなる。。。

 

引き込まれました。

 

まず第一にヘンドリックは時間が巻き戻っても、どこまでもクズでした!

 

ヘンドリックは愛人のいる父を反面教師にしていたのだけれど、一生一人を愛さないとと頭で決めつけてしまった事になぜかこだわり、ラシェルに惹かれる自分の感情に気づかず、認めず、彼女を魔女と呼び、すべてをラシェルの所為にしていました。

 

ラシェルも一番大切な子供より、帰って来ないヘンドリックの言葉に縛られ、誰に頼ることもしないで、自分で自分をどんどん追い詰めてしまった。

 

でも一番かわいそうなのがランスロットで、父は返って来ないのに、母は自分より父の言葉を守り、子供の目にも壊れていくのがわかったんでしょう。

だから、父が亡くなり当主を継いだ時に支えてくれたキンバリーが病で亡くなった後に、爵位も土地も売り、母の幸せだけを願い、時を戻してもらいに行ったのでしょう。

 

とても悲しいお話ですが、時を戻しても記憶のあるラシェルは、生まれてくるランスロットを愛する為に離婚はせずに、ヘンドリックには割り切って接し、代わりに義父母やキンバリーの助けを借りて、本当の幸せを掴みます。

 

ヘンドリックが何を考えていたのか、巻き戻った後の彼も、結局最後まで理解できませんでした。