万城目さんの本は好きで、タイトルにも惹かれてしまった

 

沙悟浄出立

DSC_0050.JPG

作者は高校時代に現国のテストの文章題の文章に惹かれ、それが中島敦の短編連作の「わが西遊記※」と知り、続きを読みたかったのだが、中島はすでに亡くなられたあとだった。

※「悟浄出世」「悟浄歎異(たんに)」の二編収録。

そして、出版社から読み切り短編の依頼があった時、その続きを書こうと思い、タイトルも「悟浄出立」に決め、その1編を皮切りに5年を掛け、古代中国史の出来事から題材を得て、主人公の周囲の人物を中心に書いた計五編。

 

ネタバレているのでお気をつけなさいましペコリ

 

「悟浄出立」

三蔵法師以下、孫悟空猪八戒沙悟浄一行の旅の途中、雪になりそうな寒い夕刻の山道を歩いていると、山のくぼみに立派な邸が見えてきた。

そこに行こうと騒ぐ八戒に、悟空は妖怪の仕業だと言い、如意棒を伸ばし円を書いて結界を築き、この円から出ないように言い置いて托鉢に出かけた。

しかし八戒は悟空の言いつけを聞かず、彼の言に惑わされた三蔵と悟浄はあっさり妖怪に捕まり、天井から吊るされる。

闇に浮かび上がる無数の夜光石を天の川に見立て、悟浄は天界にいた頃聞いた、稀代の名将と天界中にその名を轟かせた天蓬元帥、すなわち今の八戒に、聞きそびれていた当時の話となぜ天界から落とされたのかを聞く。

 

「趙雲西航」

三国志で蜀の劉備傘下の宿将として名を馳せた趙雲はや50歳になる。

彼は今劉備、関羽と共に桃園の誓いを行った張飛と同じ船に乗り、船酔いに苦しみながら行軍を続けている。

戦に向かうモチベーションが上がらない、船酔いとは違う不快さについて考える。

船団停止の太鼓が止んだしばし後、自分の名を呼ぶ声に目を向けると、扇を手にする諸葛亮でがいて、中洲に上がり食事に誘われた趙雲は、船酔いでもしていなければ誘いを受けなかったであろう、とても苦手な彼の申し出を受け船を降り食事をしながら、これからのことについて話を聞く。

 

「虞姫静寂」

史記にもあるの滅んだ後、共に戦った項羽劉邦は袂を分かち、大陸の覇権をかけて戦う。

最初項羽が権力者になるものの、人望のある劉邦のもとに人が集まり、項羽に反旗を翻す。

そして、気性が荒くワンマンな項羽軍を次第に追い詰めていく。

劉邦軍に四方を囲まれ、項羽の故郷の楚歌が響く中、最後の戦いの前に愛妾を前に、項羽はかつて与えた玳瑁※(たいまい)のかんざし(いびつな真珠)を返し、好きな所に逃げるように言い渡す。※ウミガメの一種で甲羅がべっ甲が採れる。

虞の出立の準備をいいつかった范賈は、この場に留まるという虞に、彼の叔父貴の范増の話として、項羽の正妃の話を伝える。

項羽が楚の再興を叫び、秦討伐の名乗りを上げた頃、名家の女を娶り妃とした。

それから2年後、項羽の遠征の折り、秦の軍勢に攻め込まれ、敵兵の辱めを受ける前に自らの首に刀を当て命を断った。

范増が駆けつけた時に、血の海の亡骸から形見として引き取ったのが、先程項羽に渡した品で、正妃の名は虞と言い、目の前の虞美人に生き写しだったという。

その話を聞いた虞は、戦いの前の剣舞を舞うべく項羽の前に行く。

 

他、史記を原典とする秦が中国統一して始皇帝が登場する6年前、暗殺者荊軻が咸陽に乗り込む「法家孤憤」

 

漢を興した劉邦から七代目の武帝の時代、司馬遷と彼の子供達の周りの出来事を、娘の目線で書いた「父司馬遷」

 

歴おばさんのわたくしは中国史も大好きで、西遊記も三国志も項羽と劉邦も大好きで、史記もざっくりですが読んだことがあり、この本は主人公の傍の人物がまるで本当にあったように描かれていて、とても面白かったです音譜

 

わたくし実は三国志の中で趙雲子龍が好きで、劉備に仕えるまでの不遇や劉備に再会して仕えてからの忠誠や、爺になっても勇猛な姿はめちゃカッコいい。

劉備の子阿斗を鎧の中に隠し連れ帰った長坂坡の戦いの件は若い頃何度も読みました。

 

中学の時習った(たぶん)「四面楚歌」の「虞や虞や若を奈何せん」の件がクラスで流行ったことがあり、そこから項羽と劉邦のお話に興味を持ち、なかなかエグい所はありますが、とても面白いお話でした。

 

司馬遷は史記をかなり盛って書いてあると、作者の万城目学も書いてあるように、、そうでないとこんなに面白くないとわたくしも思うし、先日TVで浅田次郎も同じことを言っていたのでその通りなのでしょう。

 

このお話も史実を作って盛って面白くしていると思うし、読んでいるうちにそれが本当にあったことと錯覚しそうになります。

 

中国史の好きな方に、いつも脇役の人が主役になったお話、オススメです。