ある少年団で中心的に活躍している小5のお子さんをお持ちのお父さんとお話する機会がありました。そのお宅には中3のお姉ちゃんがいて、彼女の方は高校受験の真っ盛りです。
そのお父さんは小5の坊やの方の進路について悩んでいます。
① 公立中学に進学させ、部活を選ぶ。
② 公立中学に進学させ、クラブチームを選ぶ。
③ 中高一貫校に進学させ、部活を選ぶ。
④ 中高一貫校に進学させ、クラブチームを選ぶ。
⑤ 中高大一貫校に進学させ、部活を選ぶ。
⑥ 中高大一貫校に進学させ、クラブチームを選ぶ。
そのお父さんはシビアな方で、
「いくら少年団の中で上手いとおだてられても息子がプロサッカー選手になることはありえない」
「そもそも日本ではサッカーで食っていくのはプロでも大変」
「ふつうにいい大学に入っていい就職をすべきだ」
とお考えです。
となると
「その子のサッカーを究極までレベルアップする」
ことよりも
「よい大学に進学させる」
ことの方が大事、ということになります。いい悪いということではなく、そういうタイプの考え方ということです。
さてそのお父さんの持論では、
「本当にいい大学は受験しないと入れない」
ということだそうです。どうも「本当にいい大学」というのは、「東大」とか「京大」とか「一橋」とか「東工大」のことのようです。ということは、選択肢の⑤と⑥が消えます。
また、そのお父さんは、「中学の勉強は3年間もかけてやるほどの内容ではない」ともおっしゃいます。また、同時に「国公立大学受験に必要な試験勉強の範囲は大変広大である。3年間で詰め込むより4年くらいかけたほうがよい」とのことです。
となると、中高一貫校で、中学の内容は最初の2年でやってしまい、高校の内容は続く3年でやってしまい、最後の1年は模擬試験的な問題演習を繰り返すという受験校型の中高一貫がよいわけです。筑駒とか開成とか麻布とか灘とか甲陽とか東大寺とかラ・サールとかですね。
しかし、そうした超進学校に行くには遅くとも小4の春からしっかりした塾に通わせなければならないそうです。そのお父さんはうっかり、小5の夏である現在まで、塾に行かせず、むしろサッカースクールに通わせていた(現在も通わせている)のでした。
これで、③④が消えます。
残るは①か②かです。
公立中学から「本当にいい大学に行く」には、「なかなかな高校に入らねばならない」とおっしゃいます。「なかなかな高校」というのは、毎年「本当にいい大学」に1人以上進学させている高校です。
「ここで注意しなければならないのが中高一貫校への高校編入です」とおっしゃいます。開成とか筑駒とかに高校から入るということですね。
「昔は中学からの入学組はたるみきってしまって、高校から入ってきた秀才軍団が東大進学の数を支えていたらしいのですが、近年は逆で、中学から効率的に勉強を叩き込んだ子たちが東大に進学し、学校側は3年間で東大の学力まで引き上げるノウハウを失いつつある、とのことようなんです。つまり、ここはむしろ、高校単体の進学校を狙いたいわけです」
となると目指すは、日比谷とか西とか戸山とかですね。ギリ下限が新宿・国分寺で町田・駒場はアウトというかんじでしょうか。
「中学ではサッカーよりも勉強をガシガシさせたいということなんですね」と確認したら、そのお父さんは、悩ましい表情になるのです。
「いやー、サッカーもさせたいんですよ。中体連のレベルの低さはさすがに知っていますからね。そこでやるのはストレスだと思うのです。できればレベルの高いチームでやらせたいですね」
単純に「①で塾にも通う」で決まりかと思っていたら思わぬ心情が吐露されました。
②となると大変です。「クラブチームに通わせながら、新宿・国分寺以上の高校に進学させる」というのが命題になってきます。
クラブチームは普通、「週5」で練習があります。「定期テスト直前でも練習」があります。「引退(休部)は高円宮杯が終わるまで」のようです。このことを伝えると、そのお父さんは、「えー、そうなんですか。内申も上げにくく、塾には11月からだから3ヶ月しか通えない!」と驚いていらっしゃいました。
「じゃあ、クラブチームの子たちは、日比谷とか西高にはいけないじゃないですか」
とおっしゃいました。私もそのあたりは調べたわけじゃないのでわからないのですが、感覚としては、「ゼロじゃないでしょうが、ほぼいないでしょうね」と言わざるを得ません。
「となると新宿高校とか国分寺高校を目指すしかないですね、しかも内申は上げにくい環境で、そして3年の秋まで塾にも通わず」
なかなかめげない方です。下方修正してきました。
「勉強受験の子のために夏休み前の休部が許されているクラブチームもありますよ。またそのチームは定期テスト直前と期間中は勉強優先で練習を休んで勉強しなさいと言われます」
とお伝えしたら、「え、そんなチームがあるのですが」と食いついて来られました。そこで「エフタマ」の存在をお教えしたわけです。
その方のお住いの地域が多摩市からは程遠く、多摩市内の各中学には片道1時間はかかりそうです。
「往復で2時間ですか」
とため息をつかれました。
「往復2時間以上かけて多摩に通う子たちもたくさんいますよ。それだけの価値のあるチームなんでしょうね」
「23区内にそうした勉強優先の強豪チームはありませんか」
「調べたわけじゃないのですが、あまり聞きませんね。ひょっとしたらあるのかもしれませんが」
「往復2時間ですか……」
「ご自宅の近所にクラブチームがあるなら、そこに行くのも手ですね。エフタマに行った場合と比べて、2時間浮くわけですから、その2時間を毎日自宅学習に当てれば、高校受験なんて楽勝でしょう」
「家のすぐ近くのクラブチームですか。◯×かなぁ」
「あー、地域リーグのチームですね。中体連のストレスとさほど変わらないかもしれませんね」
「30分位かかりますが、◇◯というチームはどうでしょう」
「お、それは全都の中位くらすですから、ストレスはないでしょう。ただ、レギュラーだと、中3の秋まで休部できなさそうですが」
「うーむ。難しいですね」
「難しいです」
「どうして多くの親御さんは、ぱしっとクラブチームか部活というふうに決断できていらっしゃるのでしょう」
「お子さんが上手くて地アタマがよさそうな場合だけですよ、悩むのは。普通は、サッカーが下手ならクラブチームは目指しませんし、地アタマがさほどでもないようだと東大や東工大も目指しませんから」
「そうですか、なるほど」
「贅沢な悩みですよ」
「そうですか。ありがたいですね」
「そうそう。よくよく悩んで下さい。まだ一年あります」
「はあ」
という感じで、結局結論には至らなかったのですが、なかなか楽しい方でした。