酔人 夢遊録 その1


酔人浅き夢から醒め行き着くは愉悦の光か暗愁の闇か


梅雨の晴れ間に猛暑に見舞われ、束の間の涼を求めビアガーデンは大繁盛となっているそうです。


昔の職場では春の歓送迎会、夏の納涼飲み会、冬の忘年会など節目節目で宴会が模様され楽しい時間を過ごしました。

今は思い出になりましたが、お酒の席での楽しくお茶目な「酔人」の記憶を辿って行こうと思います。



【乾杯】
乾杯の音頭を任された「酔人」は一足早く宴会場に着き、少し緊張気味に乾杯の口上を繰り返していました。緊張をほぐす為に宴会前に味見と決め込みお酒を口にしていました。

時間となり、上司の労いの挨拶が進み、来賓の長い挨拶が済み、いよいよ乾杯の口上です。

事前の練習の成果もあり、お酒の効果も有り、少し噛んだ程度で滑らかに口上が済み、各人のグラスにビールが注がれいよいよ乾杯の音頭となりました。
「酔人」はグラスを手に取り元気良く
「皆さんのご健康とご活躍を祈念し乾ぱーい!」
口上が済みホッとしたのか勢い良くグラスを突き上げました。
それが度が過ぎたのでしょう。
グラスのビールは、慣性の法則でグラスを飛び出し隣に座っていた上司の涼やかな御髪に落下しました。
上司は「グォっ」と声を上げて驚いた表情で、乾杯の「酔人」を見上げました。
「酔人」は慌てました。
おしぼりで上司の涼しげな御髪を慌てて拭き上げてしまいました。
きれいに右から左に流していた御髪は、爆発状態となり落ち武者の様になってしまいました。
上司は慌てて化粧室に向け出て行きました。

そんなドタバタがあったのに周りの人達は無関心に自分の料理をむしゃむしゃ食べていました。
ただ新人の女性はつぼにはまったのか、真っ赤になって笑いを堪えていました。
乾杯の「酔人」は、その日は借りてきた猫の様に大人しくしていました。
上司から何か言われたのか判りません。


続く