遠い思い出 その8 眉毛がはげた話し


1月22日放送の特異な場所を巡る人を紹介するTBSの人気番組「クレイジージャーニー」で旧ソ連セミパラチンスク核実験場に潜入取材の様子が放送されていました。
59年前に行われた核実験で出来た怖くも美しい丸い巨大なクレーター湖や広島原爆の1000倍以上の威力の水爆実験で何も知らされずに放射能を浴びて未だに苦しんている人々の様子が紹介されていました。

私が幼少の頃は世界各国で地下ではなく大気圏で何百回も核実験が行われていました。
大気圏で核実験が行われると原爆や水爆の煙が風下中に広がり目に見えない放射性物質が撒き散らされる事になります。
中国では砂漠での大気圏核実験が1980年まで行われていました。
一昔前は共産圏に関する報道は少く、放射能に対する一般知識や意識も乏しく黄砂に乗って原爆の煙と放射性物質が降り注いていても、目に見える訳でもなく、放射能を測定する訳でもなく誰も判らなかった事でしょう。

その中でも私が暮らしている地域は、広島の隣県で又原爆を知る人が多く存命していた関係からか得体のしれない怖さを何となく感じていたのかも知れません。
私が小学校低学年のある時期、誰言うとなく「雨には当たるな」と言われていました。
雨に当たり眉毛が禿げて死んだ子がいるとの根拠の無い噂が流れていました。
眉毛が禿げると死んでしまうと。
理由もわからず雨に当たるのが漠然と怖かった時期がありました。

そんなある日の事でした。
雨の中登校した私は、身体は雨には直接当りませんでしたが、帽子のつばに水滴が付いているのを見た同級生が、私の顔を覗き込み「眉毛がはげとる」と言いました。
それを聞いた私は、すぐに指で右左交互に眉毛を触って確認しましたが、本当に薄くなっている様に感じて激しく動悸がしました。
息荒くすぐに保健室に駆け込んで行きました。
先生に「眉毛がとれた」と泣きそうな声で言うと、先生は何事かわからず戸惑っていましたが、親指で眉を撫でてくれて「立派な眉毛が付いとるよ」と言って安心させてくれました。
その日は授業中も何度も眉毛が付いているか触っていたのを覚えています。
ある女の子は、髪を触っていたら数本抜けて、周りの同級生に色々言われ泣き出した事がありました。 

ソ連や中国の原爆実験の事を親から聞かされ、子供に広がった一時的なパニックだったのでしょうか。
或いは広島の原爆の子の像のモデルとなった女の子の悲劇を誰かが知っていたのかも知れません。

時が経ち、やがて雨に濡れても誰も騒がなくなり、パニックは収まっていきました。

そんな事を思い出しながら、今回の「クレイジージャーニー」を見ていました。
番組の中では、核実験の煙を浴びて様々な病気に苦しんでいる名も無き人々がやがて忘れ去られ、亡くなり消えて行く事に警鐘を鳴らしていました。

広島の原爆の子の像のモデルとなった女の子の悲劇も実際の被爆者が亡くなり、今生きている人々も消え行く百年後にも心に留める人がいるのでしょうか。

像は崩れ去ってもきっと未来に語り継がれていると願っています。

去年の8月に書いた原爆の子に付いてのブログをリブログしてみます。

以上です。