プロジェクト2日目の朝。
麻理子は午前5時に目が覚め、バスルームの浴槽に湯を張りその身を温かいお湯に浸した。
ああ、瀬織津姫様 ありがとうございます。
湯船の中で身体を伸ばしながら ふんだんにお湯を使い身を清められる幸せに感謝していた。
瀬織津姫は水の神であり、清めの神でもある。
バスルームから出て、身支度を整え、朝食をとるため1階のレストランへ向かう。
申し合わせたわけではないが、ほかのメンバーもレストランに向かう途中のロビーにあるソファーに座っていた。
「おはようございます。」
皆口々に朝の挨拶を交わし、レストランに入る。
バイキング形式で用意されている料理を銘々取り、隣り合ったテーブルに着く。
昨日あった出来事を談笑し、今日の事も軽く打ち合わせをしつつ食事を摂る。
集合時間の8:00前にはそれぞれが部屋に戻り荷物を取りロビーに集まる。
皆が集合したのを確認して、今回のプロジェクトの遂行責任者であるメンバーの一人が今日の行程を簡単に説明する。
今日も気が抜けない内容だ。
まずは、白山ひめ神社へ向かい、瀬織津姫様のサポートをお願いする。
前日一番最初に訪れたのも、瀬織津姫様へご挨拶し、サポートをお願いするのためだ。
一の鳥居をくぐると、そこは別世界である。
参道の両脇には、まだ青々とした紅葉が葉を繁らせている。
ところどころに巨木が立つ。
左の側溝には山からの清らかな水が涼やかな音をたてて流れる。
竹で出来た足元を照らす外灯が参道の終わりまで両脇に等間隔に並ぶ。
樹木に覆われ、参道はしっとりとした神気に包まれている。
メンバー全員がその様子に感嘆し、一瞬無言になる。
皆 神気を深く吸い込んだ。
身体にエネルギーが満ちてくるようであった。
拝殿へと続く門の手前に石の鳥居が有り、その右手に手水場がある。
そこで手と口を清める。
門を通り抜けると正面に拝殿がある。
他の参拝者に迷惑にならないように3mほど後ろに下がって2列に横並びになり、祝詞を奏上する。
本殿への参拝が終わると、向かって右側の元宮遥拝所へ移動する。
そこでも祝詞を奏上する。
麻理子は、自分の奏上する声が重苦しく、一語一語が太い鎖をつけられているように感じた。
なぜ、元宮の遥拝場でこんなに重苦しく感じるのだろう?
本殿ではこんな重さは感じなかったのに・・・
不審に思った。
遥拝場に向かってメンバーが横2列に並び祝詞を奏上していたのだが、終了してから、一番右に並んでいた麻理子がふと右側を見ると、石碑と大きな碇が立っていた。
旧陸軍武器戦利品奉納
石碑にはそう刻まれてあった。
「なにか、あの石碑が気になるのですが・・・」
麻理子がリーダーにそう告げると、彼女が霊視をはじめた。
第2次世界大戦時の戦利品である武器をここに奉納したのか。
その時の記念石碑。
「浄化と引導渡しが必要です。
これが・・・これをすることがここでとても重要だったんですね。」
瀬織津姫様からメッセージを受け、リーダーが告げる。
2mほどもある大きな碇と、石碑と、メンバーは二手に別れて浄化を行う。
碇は、旧海軍の戦利品であった。
浄化がすんだら、全員で石碑に向かい引導渡しを行う。
石碑には、戦争で亡くなった兵士やこの地の民間人の想いが沢山つまっていた。
戦利品の武器にもである。
そして全ては石碑に集約されていた。
おそらく、中国や朝鮮等のアジアに於いての武器戦利品も多数あったであろう。
それはすなわち、アジアの多数の犠牲者方の想いもつまっていたということである。
麻理子は、引導渡しの言葉を心の中で語りかけながら、自分の感情が一瞬津波のように激しく押し寄せ、深い哀しみとあわれみが襲ってきたのに驚いた。
戦争で亡くなった人たちへの哀しみかもしれない。
戦争への憤り・哀しみかもしれない。
中国・朝鮮民族の血が哀しみを叫んだのかもしれない。
自分の感情の高まりに思いがけずに驚きながら涙があふれる自分を見つめていた。
時間はかかったが、まだ思い切れない少数を残して他の人々は守護霊と神様方のお導きにより光の場所へと還っていった。
「残りの方々は、納得してからで結構ですのでお還りください。すぐそばに守護霊の方がいらっしゃいます。
その手をとり、一緒に光への方へとお帰りください」
それが1日目の最初に訪れた神社での出来事である。
2日目の今日は、お供えのお菓子・酒などを御供えし、再び引導渡しを行う。
最終的には数人を残し全て光の方へと還っていった。
全てをあわせるとかなりの人数であった。
それから、次の神社へ向かうために門を出る。
門の場所に白い神馬の木製の像が安置されている。
一日目も今日も、メンバー全員その白い神馬に癒された。
神馬を見ていると、浄化と引導渡しが終わり、お守り授与所でおぼえた腹部の痛みがいつの間にか消えているのに気づき、麻理子は驚いた。
白山ひめ神社へ感謝をささげ、次の神社へと向かう。
それから午後過ぎまで、浄化のためのプロジェクトを行う。
ある神社へ向かい、そこで起きた事件の負のエネルギーを浄化する。
その事件を引き寄せるエネルギーが元々その神社にあったがゆえ、起きたのだ。
元からあったもの、最近の事件。そこに留まりつづけている両方のマイナスエネルギーを一気に浄化する。
神社へ向かう車の中で、そこへ近づくにつれてメンバーはそれぞれ異変を感じ取っていた。
気分が悪くなる者、手や肩を刀で切りつけられるような痛みを感じる者。
霊視により、見える者・・・。
神社へ着いたときには、ただならぬ霊気がその敷地を取り巻いていた。
参拝者は一人もいない。
まったく人気がない、その小じんまりとした神社は静かにたたずんでいた。
まず、敷地内を浄化し、祝詞を奏上する。
全てが終わったのは正午である。
敷地の様相はまったく変わり、柔らかな空気が充満してる。
暖かな日差しの中小さな白い蝶がひらひらと飛んでいるかと思うと、上昇気流に乗り高く高く青い空を昇っていく。
「蝶があんなに高く昇って行くなんて・・・。初めて見るわ。」
麻理子はそう言い、羽ばたきもせずに、ただ上昇気流に身を任せ、青い空に高く舞い上がっていく蝶に目を奪われた。
メンバーのひとりが話しかけてきたので、相槌を打つために目をちょっと離した間に、その白い蝶は青い空に吸い込まれて消えてしまった。
最小限の羽ばたきで、上昇気流に身を任せて空高く昇っていく白い蝶の姿はメッセージなのであろう。
メンバーそれぞれが、自分に訪れたメッセージに静かに耳を傾けているようだった。
流れに身をまかせ、恐れずに上昇しなさいということなのだろうか・・・
麻理子は漠然とその風景を見つめていた。
この神社でその日のプロジェクトは終了した。
あとは、1日目最後に訪れたお宮の滝場へと向かうだけである。
プロジェクトで精神と肉体を酷使したメンバーを瀬織津姫様が癒してくださるというのだ。
前日は夜に訪れたため、暗い中滝をよく見ることができず残念に思っていたのでメンバー全員がこの昼の訪問を楽しみにしていた。

