「ふる」 西 加奈子

 

 

28歳の池井戸花しす(かしす)は、2つ年上の珠刈さなえとネコのベンツとジャグジーと一緒に、東京のアパートで暮らしている。

花しすはウェブデザインの会社でモザイクかけの仕事をしており、趣味はICレコーダーで会話を隠し撮りすることで、人にまとわりつく白いものが見える。

 

 

花しすは万事控えめで、人に逆らわず、ことを波立てず、「オチ」であることを望み、基本受け身で生きている。

そういう生き方をする花しすは、周りに人には「やさしい」と言われるが、花しす本人は、自分はやさしいのではなく誰かを傷つけるのが怖いだけだと自覚している。

 

かわいいし、やさしい子だと思う。

でも同じくらい、寂しいしかわいそうな子だと思う。

 

何がかわいそうって自分がないこと、自分をさらけ出すのを怖がってること。

 

みんなも自分も全然変わらない、いいとこもダメなとこもあるし、同じ体のつくりを持ってるし、きれなところも汚いところもある、同じなんだよ、同じ。

なんにも怖いことなんてないんだよ、とよしよししてあげたくなる。

 

こういう子は今も昔もたくさんいて、誰かに無条件に大丈夫だよと言われるのを、待っていると思う。

そしてある時、誰かを待たず自分で自分をよしよしできることを知るんだろうな。