「ひと」 小野寺 史宣
柏木聖輔(かしわぎせいすけ)は高2で父を亡くし、東京の大学に進学した二十歳の時に鳥取に暮らす母を亡くし、大学を中退後のある日、砂町銀座商店街の総菜屋でなけなしの50円でコロッケを買おうとする。
3年の間に両親を立て続けに突然失うなんて、なんて経験だろう。
両親が老人であるならまだしも、働き盛りであるし、聖輔はたったの20歳で、今の時代ならまだまだ子ども扱いされる年齢だ。
それは呆然とするし、呆然とした自覚はなしに、とりあえず動く、という状態だろう。
でもそのせいなのか、もともとそういう子なのか、聖輔の人に対する態度はふんわりとしなやかで、やわらかいけど芯はある感じで、とても好ましい。
こんなふうに私もありたいと思う。
信じられる人は信じるし、信じられない人は信じない。
信じられない人を信じないことには痛みを感じるけれど、でも、信じない。
誰も彼もを信じなくていい、気を使って自分を削らなくてもいい、嫌われることは恐れなくていい。
そんなことやそんな人にとらわれている間に、時が過ぎるのはもったいない。
自分と、自分が信じられる人と、信頼と安心で満ちた世界を作り上げていけばいい。
そうやって生きていければいい、と思うのだった。