「街とその不確かな壁」 村上 春樹
その夏の夕方、17歳のぼくと16歳のきみは川を上流へと遡っていた。
きみは周囲を高い壁に囲まれた街があり、そこに本当の自分は暮らしていると言った。
著者が31歳のころに書いたものの、「生煮え」のまま世の中に出してしまった、と
書籍化しなかったものがたりを、71歳で根っこから書き直したもの。
なんと村上春樹が71歳になってる!
17歳のぼくの語りにはそんなことを感じさせない瑞々しさがあふれていることに驚く。
現実(と思っているこの)世界でうまくやっていけないのは
壁に囲まれた街に自分の本体がいるからで
つまりこちらにいるのは影の自分にすぎないからで
だから生きづらく苦しいのだ
と聞けばそれは精神の病だろうと片付けられがちだけど
それはおそらく本当のことなんだろうと信じたとき
自分もその街に行くことができる
どちらが本体でどちらが影なのかは
おそらくどうとでも決められることで
決めた方が自分の人生なのだと受け入れたとき
それが自分だと受け入れるということ
そんな自分と命がつきるまでつきあっていくこと
それが生きるということなんだろうか
と思った。