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自民党総裁選で“同志”の河野太郎氏を応援する一方、派閥内拘束はかけない方針の麻生太郎副総裁。麻生派唯一の候補者である河野氏を全力で担がないのは不自然にも思えるが、これを小泉進次郎氏との決選投票を見越した戦略とみるのは元全国紙社会部記者の新 恭氏だ。負ければ政界引退の可能性も高い麻生氏が描いているに違いない一か八かの大逆転シナリオを見てみよう。(メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:最後は派閥パワーが決め手か。麻生太郎が描く一か八かの大逆転シナリオ
自派の河野太郎氏を全力で担がない、麻生太郎副総裁の腹の内
8月27日、横浜のホテルで盛大に開かれた自民党麻生派の研修会。総裁選についてどんな号令がかかるのか、参加者の誰もが固唾をのんで見守るなか、御大将の麻生太郎副総裁が淡々と語り始めた。
「同じ釜のメシを食って育ってきた河野太郎を同志としてしっかり応援していきたいものだと思っています。・・・今から色んな方が手を挙げられるだろうし、そういう方々と仲が良かったという方々もいっぱいいらっしゃるんだと思いますから、こういう大会を開いて一致結束弁当みたいに縛り上げるつもりは全くありません」
総裁選への立候補を表明している同派所属の河野太郎氏を応援する。しかし、派閥が一体になって取り組むよう縛るつもりはない。それぞれ、別に応援したい人がいれば、自由に活動してもらってけっこう。そう言うのである。
裏金問題に端を発して自民党の派閥が批判のマトになり、ほとんどの派閥は解散したフリをしている。ただ一人、派閥を死守し続ける麻生氏が、自派唯一の候補者を全面的に担ぎ出すことをしない。どういうことなのか。
尾を引く河野氏の「脱原発」、甘利明氏との確執
前回、2021年の総裁選にも河野氏は出馬した。このときは河野氏のたび重なる来訪を受けながら、麻生氏が明確に河野氏への応援を約束することはなかった。
河野氏、または現首相の岸田文雄氏を「基本的に支持」との方向性を派閥として打ち出しただけだった。あくまで「方向性」だ。このため河野氏は“小石河連合”と呼ばれたように、石破茂氏や小泉進次郎氏と手を組み、そのバックには退陣を表明した菅首相(当時)がついた。
今回、麻生氏は「河野氏を応援する」と明言した。前回との違いははっきりしている。だが「一致結束」はしない。その点では、前回と変わりがないようにも思える。麻生氏の真意はどこにあるのだろうか。
一つには、河野氏では派内がまとまらないという現実的な問題がある。そこには、麻生派の重鎮として派内に一定の勢力を有する甘利明氏の存在が関わっている。
甘利氏は、河野氏の唯我独尊的な言動を忌み嫌う。なにより、福島第一原発の事故後、脱原発を唱えた河野氏が、大手電力会社と関係の深い甘利氏を名指しし、「次の選挙で落とすしかない」と朝日新聞のインタビュー記事で語ったことが尾を引いている。
前回総裁選で、甘利氏が支援したのはもちろん河野氏ではなく、岸田氏だった。そして、今回の総裁選では、小泉進次郎氏とともに若手のホープと目される小林鷹之氏(二階派)を推している。経済安全保障の分野で同志的なつながりがあるからだ。麻生派にはほかに、上川陽子氏(岸田派)や小泉進次郎氏(無派閥)を推す議員もいる。
小泉進次郎氏との「決選投票」を見越した戦略
もう一つは、決選投票を見越した戦略だ。総裁選で勝利するためには過半数を獲得する必要があるが、今回の総裁選は候補者が多いために議員票が割れ、1回目の投票では決まらない可能性が高い。つまり、上位2人の決選投票になると予想されている。勝ち残る二人のうち、一人はおそらく小泉進次郎氏になるだろう。
決選投票なら、367の国会議員票と47の都道府県連票で競うため、国会議員票への影響力がある実力者の意向がものをいう。つまり決選投票では、自民党伝統の“派閥パワー”が炸裂する余地があるのだ。
自民党総裁選で小泉進次郎氏に勝つ方法は存在する
21年総裁選は、国民的人気の高かった河野氏の勝利を阻止すべく、高市早苗氏を担ぎ出した安倍晋三元首相の計略が際立っていた。高市氏に一定の票を集めて安倍氏の影響力を見せつけ、河野氏の過半数獲得を阻止する。そうなれば、岸田・高市の連合で決選投票を制することができるという計算だ。
それは、安倍氏が自ら体得した総裁選のセオリーの実践だった。安倍氏が返り咲きを狙って石破茂氏ら4人と戦った2012年の総裁選。5人による混戦となって票が分散したため、決選投票にもつれこんだ。
このとき、第1回投票での1位は石破氏で、議員票34、党員票165。安倍氏は議員票54、党員票87で2位だった。ところが、議員のみによる決選投票では、安倍氏108票、石破氏89票と逆転し、安倍総裁が誕生した。
人気があり党員票を多く集めそうな候補者に対抗するには、立候補者数を多くして票を分散し、決選投票に持ち込むこと。そうすれば、ほぼ議員票だけの勝負となり、派閥の締めつけを効かせることによって、結果をコントロールできる。
その経験則を安倍氏は前回総裁選に生かした。事務所にこもり、高市氏への支援を求めて細田派(当時)の若手ら党所属議員に安倍氏自ら電話をかけまくった。その結果、高市氏は114票の議員票を集めることができ、上位2人の総得票は岸田氏256票、河野氏255票と拮抗、いずれも過半数に届かなかった。
決選投票では、高市氏の票がどっさり岸田氏にまわり、得票数は岸田氏257票、河野氏170票と大差がついた。こうして安倍氏は高市氏を応援しながら、結果的に、岸田政権を手の内に入れることに成功した。その過程で、安倍氏、麻生氏と緊密に連絡をとり、両氏の派閥から岸田氏に票を集める役割を果たしたキーパーソンが甘利氏だった。
派閥こそパワー。麻生太郎氏が描く一か八かの大逆転シナリオ
麻生氏にとって、今回の総裁選の情勢はきわめて厳しい。強い候補者を手駒に持っていないからだ。河野氏に前回のような国民的人気はない。一方、進次郎氏を擁する菅義偉氏が、キングメーカー対決上、有利なことは明らかだ。
追い込まれた麻生氏は一か八かの勝負に出るしかない。多人数の立候補を誘導して、決選投票に持ち込む。それができれば活路が開ける。もちろん、1回目投票の1位、2位が小泉、石破になったら、どうしようもない。進次郎氏は菅氏の掌中にあるし、2009年に“麻生降ろし”の急先鋒を担った石破氏に対しては憎悪の感情しかない。その場合、麻生氏はキングメーカーの座を降り、あっさり引退の道を選んで、長男を後継者にする可能性が高くなるだろう。
決選投票に持ち込めるとして、麻生氏が想定しているのは、小泉氏が決選に残り、あとの一人が石破氏以外であるケースだ。
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それが、支援を約束した河野氏なり、ポスト岸田の候補として麻生氏が目をかけてきた茂木敏充氏、あるいは甘利氏が推奨する小林氏(二階派)なら好都合かもしれない。いや、高市早苗氏(無派閥)、上川陽子氏(岸田派)、林芳正氏(同)であってもかまわないのだろう。
そこではじめて派閥のメンバーに「一致結束」を求め、菅義偉前首相の息のかかっていない候補者に票を集める。その候補者が総裁に選出されれば、キングメーカーとして、新政権に対しても影響力を保持しうるのだ。
むろん、そううまくコトが運ぶとは限らない。とりわけ小林氏については、安倍派の福田達夫氏ら4期生以下の議員が中心に支援していて、長老支配の象徴ともいえる麻生氏の介入を許さない雰囲気があるようだ。それでも、決選投票における票読みしだいでは、麻生氏に頼らざるを得なくなる。
自民党の本質は今も昔も党内派閥のパワーゲーム
「派閥を解消して初めて行う、国民に開かれた新しい時代の総裁選」。これが自民党「総裁選ショー」のキャッチフレーズだが、何度も言うように、騙されてはならない。もし麻生氏の思惑通り決選投票に持ち込まれたら、菅氏の無派閥グループも含む旧来の“派閥パワー”が乗り出してきて、実力者間の裏の取り引きで勝負が決まることになるだろう。
政権交代が行われず、政権にあぐらをかいている限り、たとえ一時的に「看板」が新しくなったとしても、自民党の体質じたいは変りようがない。親分子分の関係、義理人情、世襲。カネやポストをめぐる恩義や貸し借り。そういったものが、党内をおさめてゆく土台、すなわち本質のようなものであるからだ。自民党が新しく生まれ変わるというのは、記者クラブを通じて政権与党に取り込まれているメディアがつくりだした幻想にすぎない。
自民党は1989年、リクルート事件で高まった政治不信を払拭するため、「政治改革大綱」をまとめた。党改革に向けた決意がはっきりと盛り込まれていた。
≪れわれは、派閥解消を決意し、分野を特定して活動するいわゆる族議員への批判にこたえ、さらに、党運営においては、人事・財政・組織の近代化をはかり、世界をリードする政策を立案・実行できる政党への脱皮をはかる。≫
それから35年。この決意は実現しているだろうか。派閥は存続して裏金問題を起こし、またぞろ「派閥解消」のお題目を繰り返しているだけである。これでは「世界をリードする政党」など、未来永劫、夢物語でしかない。
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image by: Pollyanna1919, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
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