■TVが報じなかったパリ五輪のダークサイド。 | タマちゃんの暇つぶし

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MAG2 NEWS:TVが報じなかったパリ五輪のダークサイド。カネとルッキズムの祭典に漂う「持続可能性」とは真逆のオワコン臭2024.08.14より転載します。
 
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https://www.mag2.com/p/news/613317
 
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パリ2024オリンピックが11日の閉会式をもって閉幕した。オリンピック旗は2028年の開催地であるロサンゼルスに引き継がれたが、「次回の五輪が楽しみだ、という手放しの楽観はできない」と指摘するのは米国在住作家の冷泉彰彦氏だ。今回のパリ五輪でもいたるところで見られたという近代オリンピックの闇、「カネ」と「ルッキズム」の問題とは?(メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』より)

※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:解消すべき五輪の闇

五輪は「ほぼ米国マネーの都合」だけで動いている

パリ五輪が無事に終了しました。直前に鉄道への放火テロが疑われる事態があり、非常に緊張感を経験したのは事実ですが、結果的に大きな混乱はなく終わったのは良いことだと思います。伝えられている範囲では、過剰警備に関する指摘はなく、仮にそうであれば高度な警備ノウハウが発揮されたのだと思います。

それにしても、日本の視点、あるいは世界の視点ということでも良いのですが、近代五輪のあり方にはかなり暗雲が漂ってきました。このまま五輪というものが持続可能なのかという問題がまずあり、その中心は経済なのですが、経済問題を別にしても多くの難問が重なっているのは否定できません。

そう考えると、今回の閉会式を見ていると、過去の五輪がそうであったような「やはり、オリンピックというのはいいものだ」そして「次回の五輪が楽しみだ」という手放しの楽観はできなくなっているのを感じます。

まず大きな全体的な問題としては、やはりカネの問題があります。今回のパリの場合は、とりあえずは経営的な問題は話題になっていません。例えば東京のような予算オーバーとか、ソチのような露骨な汚職という話は聞こえてきていないのです。

ですが、アメリカから五輪を見ていますと、やはりその異常性を感じます。それはアメリカの視聴率と購買力に強く依存しているということです。例えばですが、開会式と閉会式の演出は、次回開催都市であるLAの紹介部分は仕方ないにしても、それ以外の部分も露骨なまでにアメリカの視聴者への迎合が感じられました。

フランスの大会であるのに、どうしてレディー・ガガやセリーヌ・ディオンなのか、というのはやはり疑問が残ります。閉会式の主役だったバンドのフェニックスについてもそうです。確かにフランスのバンドだと言われればそうですが、楽曲の多くは英語だし、リーダーのトマス・マーズは妻がソフィア・コッポラで、現在の拠点はNYです。

競技におけるアナウンスが、まるでアメリカの格闘技のアナウンサーのように、絶叫調の英語というのも気になりました。勿論、フランスはEU統合の優等生と言いますか、中核国家であり、EUの公用語は英語であるのは間違いありません。そのフランスというのは、ビジネスやスポーツの世界では準英語圏になっていると言っても過言ではないと思います。

ですが、やはり競技の全体がアメリカという巨大市場のマネーで動いているというのは異常です。その金額については、具体的にはTVの独占放映権です。NBCが結んでいる契約ですが、現時点では「北京(冬季、2022)」から「ブリスベン(夏季、2032)」までの6回で77億5千万ドル(約1兆1230億円)に達します。夏冬ワンセットで約4000億ですから、途方もないカネです。ちなみに、日本の今回(北京+パリ)の放映権料はその10分の1の400億を払っています。

今後も続く、五輪「8月開催」という米国の横暴

いずれにしても、この米国マネー依存というのは、前回の東京大会の場合にも問題になりましたが、具体的には開催時期を縛ってくるという問題があります。NBCとしては、最大の広告収入を上げて、この投資を回収したいわけです。その際に障害になるのは、他のメジャーなスポーツとの日程の重なりです。

アメリカの地上波(3大ネットワーク、現在はNBCが独占権)と、これに一部ケーブルやネットを加えたメディアとしては、五輪と次の重なりは避けたいのです。

・バスケのNBA(シーズンはファイナルまで入れると、10月末から6月末)

・野球のMLB(公式戦とのダブりはいいが、7月上旬のオールスターと、10月丸々一ヶ月のプレーオフとのダブりはイヤ)

・アメフトのNFL(公式戦が9月上旬にスタートして2月のスーパーボウルまで)

特にバスケ(NBA)は五輪競技にしていることもあり、逆算するとこの8月というのがほとんど「唯一の選択肢」になってきます。昔はもっと五輪の時期というのはフレキシブルに組めたのですが、バスケが五輪の競技になって、プロが出るようになったバルセロナ(1992年)以降は、ほとんどが8月開催になっているのはこのためです。

更に、アメリカのスポーツ市場で大きいのはアメフトのNFLで、これは9月に公式戦が始まると週末の1試合1試合が重要となり、巨額なマネーが動くのでダブりは避けたいわけです。同じ理由で、野球の関係で10月と7月上旬はイヤというわけです。

92年以降の例外は2000年のシドニーで、これは恐らく正式決定後に、どうしても寒い冬ではなく暖かくなってからという理由で10月に「ねじこんだ」のだと思います。2021年の東京も、10月開催にすれば有観客で押し切って経済効果もある程度実現できたのにと思います。まあ冷静に考えれば10月でも有観客は難しかったのかもしれませんが。

それはともかく、米国マネーによって五輪が支配されているというのは、どうしようもない現実です。開会式や閉会式の内容がアメリカンになるのは、開会式でも感じましたが、パリ大会の実行側に「オリンピックなんてそんなもの」という「こだわりのなさ」が出たのだと思います。閉会式の演出を見ると益々そうした感じがあります。そうした理解でとりあえずはいいのだと思います。ですが、開催時期がほぼ一択、7月下旬から8月下旬という一択に絞られているというのは、やはりいただけません。

今後の五輪に必要なのは「アメリカのシェア低下」だ

この米国マネー依存ですが、次に詳しく述べますが、日本の場合はもう対抗できる余力がなくなっています。ですから、EUあるいは中国にもっとカネを出すようにさせるか、あるいは五輪運動にそんなに積極的でない中東やインドを引っ張り込むか、何らかの新しい五輪変革をやってアメリカのシェアを下げる必要があると思います。あるいは、徹底的に省マネーの大会にして、カネで歪められるのを避けるとか、とにかく抜本改革が必要です。

日本の事情ですが、例えば日本の民放+NHKの放送権全体が今回の夏冬セットで400億円というのは、アメリカの国力と比較すると高すぎます。

https://www.nhk.or.jp/pr/keiei/otherpress/pdf/20191114.pdf


次回の「コルティナ・ダンペッツォ冬季」+「LA夏季」については、2019年の時点で475億円だそうです。当時のドル円が110円程度ですから、今の換算レート(147円)で計算し直すと、635億円です。NHKと民放の比率は、7対3になっているそうですが、どう考えても民放に夏冬で200億円出す余裕はあるのかは疑問です。

ここは、どうしても「値切り交渉」が必要だと思います。その意味でIOCという組織はカネを取る側であり、日本側は値切る必要があるのですから、利害の対立をしっかり受け止めて日本経済の利害で行動できる人物が交渉に臨むべきと思います。

更に言えば、もうNHKと民放でいい加減な分担をするのは止めて、共同制作にするのがいいと思います。最高の専門家が専門のスポーツの解説ができないなどという滑稽な「大人の事情」などというのは、止めるべきだからです。

それはともかく、カネまみれの五輪、また開催時期の縛りというのは、今後の「五輪ムーブメント(運動)」に暗雲を投げかけています。過去には、様々な文化圏からの招致の動きがありました。

少なくとも、イスタンブール、バクーなどは、まだ開催の能力があるし、開催意義は大きいと思います。ですが、こうした新しい都市が主催するのは難しくなっているというのは問題だと思います。

パリ五輪で目立った「スポーツとルッキズム」の大問題

それはともかく、今回の五輪でもう一つ大きな問題だと思ったのは、セクシズムとルッキズムの問題です。ジェンダー差別の問題については、確かに一定の意識はされていました。例えば、マラソンの順番を従来と変えて、男子が先ということにして、最後の大イベントは女子マラソンにして、表彰式を閉会式に組み込んだのは良かったと思います。

ちなみに、21年の東京はこのぐらいやっても良かったのだと思います。そうした発想ができなかったというのは、既に3年経過していますが、今からでも反省すべきと思います。それはともかく、男女混合の種目が増えたことなども含めて、ジェンダーの問題に一定の前進があったことは認めましょう。

問題はとにかく、セクシズムとルッキズムです。これは巨大な「闇」だと言えます。具体的には、全体的に男性も女性も「外見の感じの良い」選手が目立つようになっているということです。以前からその傾向はありましたが、自信をもってプレーするアスリートは美しく見えるという現象で説明できる範囲については、それはそういう現象だということですし、悪いことではないとも言えます。

ですが、今回はどうにも目立つように思うのです。では、どうして「見た目の良い」選手が多くなるのは問題かというと、実は深刻な背景があるのを感じます。それは、「美しい選手は意図的に作られる」ということです。それは、「スポーツの才能が見出された男女は整形手術をする」ということでありません。そういった動きはあるかもしれませんが、限られた範囲と思います。

そうではなくて、もっと根深い、深刻な問題があると思うのです。それは、

世界中の多くの親や指導者は、子供の才能と意欲、体格があるだけでは、子どもに対してスポーツエリートへ育てるという投資をしない

才能、意欲、体格に加えて、商品価値を生み出すような外見を備えている場合にのみ、子どもへの投資をする」

という問題です。

この問題は、以前から「欧米の白人社会における、テニスとゴルフのプロ選手」に関しては密かに語られてきた「嫌なストーリー」です。(後は、韓国の女子ゴルフにもそうした傾向はあると思います)極めて不快な考え方ではありますが、行動として確かに合理性はあります。そして超長期投資として実行されるので、あまり表には出ません

ですが、今回の五輪を見ていて思うのは、個々のケースとしてはそうした判断というのはあるということです。そして、このような判断が拡大しているのを感じます。それは、

「アメリカにおいては、白人だけでなくアフリカ系を含む非白人も」

「米英が多かったのが、大陸欧州にも」

「中国を含めた東アジア圏にも」

という広がり方をしているということです。

ルッキズム問題に関して、日本は胸を張っていい

まず、何が問題なのかというと、まず、才能と意欲、体格があっても「投資に不向き」だと判断されて、スポーツエリートへの道を絶たれる若者がいる可能性です。

これは大きな問題だと思います。ちなみに、日本の場合はこの問題は軽微であり、そのことは密かに胸を張っていいと思います。

ただ、一方で、日本では「子どもの勝敗の緊張感に親がメンタル的に耐えられない」のでスポーツエリートの道を断念させる「毒親」の問題があるようで、これはこれで大きな課題だと思います。

いずれにしても、本来ならエリート選手として活躍する可能性を秘めた人材が、その道を断たれるのは問題だと思います。ですが、一番の問題はそこではありません。そうではなくて、セクシズム、ルッキズムの一番の弊害は、

スポーツに集中する人間の躍動の美しさ

というものが、人間の活動としての高度な達成として伝わるのが妨害されるという点です。今回の五輪では、そのような危険な領域に入りかけているスポーツがいくつか出てきたのは問題だと思います。

改めて申し上げますが、日本は巨大選手団を送りながら、この文化に毒されていないのは、誇りにしてもいいと思います。

反対に、その日本からスポーツの躍動に関して、本物の見方、評価の仕方についての発信ができれば素晴らしいと思う次第です。今回の五輪報道を見ていますと、日本の場合は、長年続いた「自国が勝ったら感動」という安っぽい言語表現では満足しない視聴者が増えてきているようで、そのことも良い兆候のように思います。

だが日本は、あまりにも「カネ」がない

一方で、日本の場合は資金不足という問題が大きく暗い影を落としているように思います。

例えば、多くのメダルを獲得して日本選手団全体としては成果があったにもかかわらず、JOCとして優勝パレードは行わないという決定の問題があります。一部には、東京招致と東京開催成功を目指した時期には「パレードを行う理由」があったが、今はないという声もあります。

ですが、それも含めて資金不足ということは明らかです。資金がないので、警備を含めたコストを支えきれないのです。例えばスポンサー企業に頼ろうにも、東京五輪が残した「五輪とカネ」のマイナスイメージがある中では、積極的になれない企業も多そうです。

また、これは関西の例ですが、タイガースの優勝パレード絡みのスキャンダルが十分に解明されていない中では、企業が資金提供する意欲は低いのだと思います。そんな中で、無料イベントとしてのパレードには人は殺到する、けれども地上波TVも含めて、人が殺到したとしてもマネタイズができない、そんな構造が背景にはありそうです。

少なくとも、日本の場合は東京の悪夢が残っている中では、五輪に関心はあるが、カネが絡む話には疑念を持ってしまうという傾向が、今後かなり長い間続くではと思います。これは非常に深刻な話です。

もう少し小さな話としては、女子マラソンの補欠繰り上げ問題があります。女子マラソンでは日本記録保持者として日本代表となっていた前田穂南選手が8月2日の補欠解除後に負傷欠場を発表しました。パリ五輪としては、レース前日まで補欠と変更可能というルールがあったのですが、日本陸連としてはレース9日前の2日で補欠解除にしていたのです。

この問題ですが、前田選手サイド(天満屋)に細田選手の繰り上げに対して消極的で、そのために発表を遅らせたという可能性はゼロだと思います。また、日本陸連が官僚主義で「補欠繰り上げの手続きが面倒」などの理由で「9日前のカット」をしていたのでもないと思います。

問題はカネです。まず、これは一般世論は全く知らずに驚いたのですが、直前のトラブルに備えて補欠選手を帯同するということは、やっていないのだそうです。このこと事態が驚愕ですが、委員を派遣するチケット代ホテル代を削減してでも補欠を帯同すべき、という価値観は陸連にはないという以前に、そもそも陸連にはそんなカネはないのだと思います。

結果的に、急遽チケットを手配して補欠を飛ばすとなると、格安チケットは無理なので往復50万円とかになるし、ホテル代などを入れると100万円では足りないわけです。そのカネを用意するのは、例えばですが、補欠1位でGMC3位であった細田選手(エディオン)サイドには出来なかったのかもしれません。

そんな場合は、協賛航空会社が「太っ腹」で何とかすればとも思いますが、現状では日本発の欧州往復のマーケットは限りなく細っており、航空会社としてもタダ券を出す投資に見合う効果は計算できないのだと思います。

東京五輪の「2つの闇」は暴かれなければならない

そんなわけで、カネが細っているという問題は、日本の五輪活動に大きな制約を与えていると思います。東京の悪夢は、今後は札幌を含めて「二度と招致をしなければ」再現はしないので、それで「スッキリ」すると考えている人も多いようです。ですが、招致しなくても、参加はするし、参加する以上は多くの期待が寄せられるのは間違いありません。

その場合に、パレードなどは大きな問題ではないかもしれません。ですが、カネがないので選手を送れないとか、カネがないので中継に制約が出るというようでは、これは困った問題になります。そこで東京の悪夢が思い出され、スポンサー企業が躊躇したり、頑張ってカネを出した企業が怪しい目で見られるということがあっては大変です。

そこで問題になるのが「東京の闇」という悪夢です。この問題は、大きく捉えるのであれば、宏池会岸田派による清和会安倍派への政治的プレッシャーとして動いているのだと思います。もっと言えば、森喜朗という人の消しても消しても消えない影響力を完全にマイナスに持っていこうという、執念深い動きの一環とも言えます。

では、問題の追及はしないで忘れてしまっていいのかというと、そうではありません。ここまで染み付いてしまった「五輪とカネ」へのマイナスイメージというのは、とにかく参加費にまで影響を与えることで、延々と悪い影響を残すからです。

まず、悪いのは電通や角川ではないと思います。彼らは被害者という認識が正しいと思います。電通は、通常の広告ビジネスを展開しただけで、そこに収益を期待した部分を犯罪扱いされています。角川に至っては、今どき紙版のガイドブックを出して儲かるはずもなく、「付き合いで頼まれた」ので引き受けたし、「カネを出せ」と圧力を受けたから出しただけだと思います。

問題はそこではありません。2つの闇があると思います。1つは招致にかかったワイロであり、もう1つは本当の開催費です。どちらも現時点では藪の中であり、そこにメスを入れて全てをガラス貼りに解明しなければ、東京の闇は晴れません。

わが国は、国民の「五輪への信頼」を取り戻せるのか?

岸田派による安倍派潰しなどというスケールの小さい話ではなく、森喜朗氏の問題だけでもなく、JOCに加えて歴代の都知事も絡んだ大きな問題です。彼らが私腹を肥やしていたということではありません。そうではなくて、

「招致工作に関して、恥ずかしいような犯罪的な行為を行った」

「マネジメントに失敗して、信じられないような損失を出した」

という2点です。この2つについては、徹底的に解明して関係者を処罰すべきです。そこでガラス貼りの解明ができて、関係者を処罰できれば、国民の五輪への信頼は回復するでしょう。

そうなれば、今後の派遣選手団への資金提供がイメージアップとともに、できるようになるし、札幌招致も改めて可能になってくるのだと思います。

とにかく、東京が大失敗したこと、札幌でも招致ができなくなったこと、によって、日本だけでなく世界の「五輪ムーブメント」が大きく損なわれているのは事実です。改めて徹底的な解明を強く望みます。

※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2024年8月13日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。読者Q&Aの「自動翻訳は日本の活路になるか?」もすぐ読めます


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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。


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