マネーボイス:円安修正の成否は日銀のがんばり次第…為替介入の“実弾”はあと1発?弱い日本円に国民疲弊=斎藤満氏2024年7月20日 より転載します。
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春の大型連休時に1ドル161円台を見て以降、日本の通貨当局が少なくとも15兆円の資金を使って為替介入し、直接的な円安修正を狙いました。為替介入の武器は日本が保有するドルを使うとすれば、あと1回使えばほぼ使い果たすことになり、市場は「武器のない当局」と見れば円売りを仕掛けやすくなります。それだけ今後の円安修正の成否は日銀の肩にかかっていることになります。(『 マンさんの経済あらかると 』斎藤満)
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※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2024年7月19日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
円安修正の成否は日銀の肩に
円安修正の成否は、いよいよ日銀の肩に重くのしかかることになります。先週、米国の6月のCPIが予想以上に改善が進んだために、市場は9割以上9月にFRBが利下げに踏み切ることを織り込み、米国の長期金利が大きく低下しました。これで日米長期金利差はやや縮小しました。
さらにその日、日本の通貨当局がこのチャンスを逃さず、すかさずドル売り介入に出ました。翌日も介入を続けたとみられます。2日間で介入資金を5兆円前後使ってしまったとみられます。18日にも介入を思わせる動きがみられました。春の大型連休時に10兆円弱の介入資金を使ってしまったので、今後、為替介入に使える資金は限られそうです。
米ドル/円 日足(SBI証券提供)
通貨防衛の武器としての為替介入をすでに使い果たそうとしているだけに、ここから円安を修正するうえでは、中央銀行の金利政策に大きく依存することになります。特に市場は米国の9月利下げを織り込んでいるので、あとは日銀の利上げと、FRBの追加利下げの可能性にかかってきます。
武器の威力、ここまでは期待外れ
春の大型連休時に1ドル161円台を見て以降、日本の通貨当局が少なくとも15兆円の資金を使って為替介入し、直接的な円安修正を狙いました。さらに米国のCPI改善で市場は9月にFRBが利下げに動くことを9割以上織り込みました。これで米国の金利が低下し、日米の金利差が縮小しました。
つまり、円安を修正する武器としての米国金利の低下、当局の為替介入が使われた形になりますが、その割に円安修正は限定的でした。1ドル161円台から一旦は157円台前半まで修正しましたが、今週半ばにはまた158円台に戻し、18日にまた介入らしい動きで155円台まで押し上げましたが、すぐに156円台に戻しています。
為替介入の武器は日本が保有するドルを使うとすればあと1回使えばほぼ使い果たすことになり、市場は「武器のない当局」と見れば円売りを仕掛けやすくなります。それでも日米の中銀の関係が良ければ、日本が金利を払ってFRBからドルを借り、それを介入用に売ることもできます。介入資金があるうちは「時間稼ぎ」ができますが、その資金が少なくなると、足元を見られるリスクがあります。
Next: 円安トレンドはもう止まらない?稼げなくなった円の実力
戦力の逐次投入
それだけ今後の円安修正の成否は日銀の肩にかかっていることになります。しかし、日銀のこれまでのやり方から見ると、不安が募ります。日銀が円安を本気で修正しよう思えば、保有国債の大幅な縮小という「量的引き締め(QT)」や、金利の急速な、あるいは大幅な引き上げが「武器」となります。日銀は戦力となる武器をそれなりに持っています。
しかし、日銀はこれらの「戦力」を敵の退治に有効に使う意識がありません。これまでの日銀のやり方は「戦力の逐次投入」で、戦い方としては決して褒められたものではありません。
そもそも、金融政策手段をフルに活用して円安を修正する意識に欠けています。現に日銀幹部は「国際金融のトリレンマ」を引き合いに出し、金融政策の自由と資本移動の自由、為替の安定を同時に達成できないと言っています。
これは金融政策の自由を確保するのを優先するため、為替の安定は放棄せざるを得ない、ということになります。つまり、円安を本気で修正しようと考えておらず、むしろ日銀が使える武器、戦力を温存して将来に備えることに注力している分、円安修正は期待しにくくなっています。
今月末の決定会合で国債買い入れ額を多少減額し、追加利上げは9月に持ち越すとみられます。小出しに使っては効果も限られます。
稼げなくなった円の実力
ここまで円安が進んでしまった要因は、日米の金融政策格差だけではありません。日本が長年にわたって成長戦略を打てず、この30年間、自動車産業に代わるリーディング・インダストリーの育成に失敗したことも大きな要素になっています。
とりわけ、アベノミクスのもと、大規模緩和、円安という「ぬるま湯政策」を続けたために、日本企業は革新努力を怠り、輸出競争力を落としてきました。
かつてシングル・ハンデの腕前で大会のたびに優勝していた日本企業は、甘いハンデを与えられて長い間練習をさぼってきたため、ハンデ36でも勝てなくなりました。貿易赤字がこのところ定着しています。通貨の実力、信認が低下すれば、それを補うために高い金利というプレミアムを付ける必要があるのですが、日銀には円が弱くなったという自覚、円を防衛するという意識がなく、弱い通貨に金利を付けずに放置しています。
Next: 「トランプ大統領」ならドル円はどうなる?米国に2つのリスク
米国に2つのリスク
このようにみると、日銀が金融政策を駆使して円安を修正する期待は持ちにくいのですが、海外、特に米国から為替を動かす「嵐」が吹くリスクが高まってきました。
特に13日のトランプ氏の銃撃事件以来、米国では「トランプ大統領」でまとまろうとしています。このトランプ・ファクターには多くの不確定要素、為替のリスクが内包されています。
一般的にはトランプ大統領はドル高を「大惨事」と認識し、ドルを下げるためにFRBに利下げを求め、日銀は利上げをしやすくなると見られています。そこではドル安・円高が進むと考えられています。
しかし、トランプ氏の利下げへ圧力、規制緩和、減税、財政拡大は株式市場を刺激し、すでに株式3指標は過去最高値を更新しています。これをさらに押し上げ、株式市場にバブルが膨らむ可能性があります。
その一方で、財政拡張政策や中国などへの制裁関税賦課は米国のインフレを助長します。インフレ懸念が高まる中で利下げを続ければさらにインフレを助長し、金融緩和は早晩行き詰まります。
長期金利の上昇がドルへのプレミアムとみられる間はドル高要因となりますが、米国債への不安感、不信感としての金利上昇が意識されると、ドル資産売り、米国株売りにつながります。
そこではドル資産保有のリスクが意識され、株バブルがはじけ、リスク回避の動きが世界に広がる懸念があります。リスク回避が広がると、世界に投下された円が国内回帰(リパトリ)して、円の買戻し、円高要因に転化します。
トランプ政権となれば、日銀の手におえない円安や逆に円高が出現する可能性があり、為替市場にはこれまでにない不確定要素が広がりそうです。
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