東京都知事選で若者や無党派層の支持を集めて2位になった石丸伸二氏。完全無所属の若き候補が、古い政党政治への不満を背景にSNSを駆使した選挙戦で躍進、というストーリーはどこまで本当なのだろうか。石丸陣営の脇を固めるのは旧統一教会や自民党に連なる人脈。さらに八王子では、およそ無党派とは思えない「蓮舫帰れ」コールの100人集団が、石丸街宣の聴衆に紛れこんでいく姿も。メルマガ『有田芳生の「酔醒漫録」』より、ジャーナリストの有田芳生氏が解説する。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:体験的都知事選総括─石丸現象の背後にあるもの
有田芳生氏が「現場目線」で東京都知事選を総括
7月7日に行われた東京都知事選は、小池百合子知事が3選を果たした。2位は広島県安芸高田市長だった石丸伸二候補、3位が蓮舫候補だった。
私は蓮舫候補を応援した立場で最初から最後まで選挙戦を現場から見続けてきた。その視点からいくつかの問題を検討したい。
まずは得票からだ。投票率は前回に比べて5・62ポイント上がって60・62%だった。小池候補は291万8015票(得票率42・77%)、石丸候補は165万8363票(24・30%)、蓮舫候補は128万3262票(18・81%)。
小池知事は投票率が上がったにも関わらず、前回より74万票減らした。その前回には無所属で宇都宮健児候補が野党支持で立ったが、84万4151票だった。
立憲民主党、共産党、社民党などの支援で闘った蓮舫候補の直近の政党の力量を知るには、2022年の参議院選挙(東京選挙区)の結果を見ればいい。立憲民主党(2人)、共産党、社民党の合計は、178万6992票。れいわは、都知事選を「静観」としたが、参院選では56万5925票だった。その得票を足せば235万2917票になる。
都知事選と政党間の競合である参院選を単純に比較はできないものの、蓮舫陣営は、総合的な基礎票に達しなかった。
序盤は有権者の心を掴んでいた蓮舫氏
蓮舫候補への期待は大きかった。候補者の選考委員会では、春の段階で「蓮舫」立候補への期待があった。ところが本人が固辞し、何人もの名前が出ては消えていった。
そして5月の選考委員会で蓮舫さんと女性都議会議員の名前が出た。立憲民主党の情勢調査で蓮舫さんは小池都知事と10ポイントほどの差だとの結果だった。メディアでも「蓮舫」という名前が出ていない段階でこの数字なら追いつくことは可能だ。そう判断して蓮舫議員は立候補を決意した。私の認識では5月15日の決断だった。
『東京新聞』が1面で「蓮舫立候補」を報じたのは、5月27日だ。この日の午後、蓮舫議員は立憲民主党の党本部で記者会見、出馬を明らかにする。こうして都知事選は蓮舫VS小池都知事の構図で進んでいく。
蓮舫議員が最初の街頭に立ったのは、6月2日の有楽町だ。大雨だったこともあり、聴衆はそう多くなかった。次が6月9日の阿佐ヶ谷駅。この日は天候にも恵まれ、駅周辺には時間とともに聴衆は増えていった。あるテレビ局キャスターと立ち話をした共通の認識は「もっと集まるかと思った」だった。
しかし選挙戦がはじまってからは驚くべき聴衆が蓮舫候補を取り囲んだ。私はいつも「周辺」を観察して歩いた。どれだけ一般の有権者が立ちどまっているいるかを実感として確認するためだった。この熱気は最近の都知事選では見られなかった。蓮舫候補への期待は非常に高かった。
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バランスを欠いた蓮舫氏の「オール東京」
しかし私には危惧があった。蓮舫候補は立憲民主党を離党して「オール東京」で闘うと宣言していた。ところが選挙戦の応援には枝野幸男議員、野田佳彦議員、長妻昭議員、さらにしばしば辻元清美議員が同席した。
聴衆は群をなして集まった。ところが演者は立憲民主党の議員ばかりだ。最終盤に向けて共産党の志位和夫議員、田村智子議員、小池晃議員たちも表立って応援に立った。
立憲民主党、共産党、社民党が支持しているのだから、それはいい。しかしあまりにもバランスに欠けると私は思った。
1967年から1975年まで続いた美濃部亮吉知事時代の選挙戦を思い出した。
「明るい民主都政を作る会」は青いバッジを陣営として作成、支援者には松本清張、渥美清、勝新太郎、高峰秀子、南田洋子さんたち、社会的に影響力がある著名な文化人が名前を連ねていた。蓮舫選挙にはそうした広がりが見えなかった。
SNS時代にあって「蓮舫に投票した」と書き込む俳優たちもいたが、街頭に出て訴える姿を見ることはできなかった。圧倒的な無党派層に浸透していくには何が必要だったのか。
NHKの出口調査で、2位になった石丸伸二候補が、無党派層では36ポイントと、小池候補や蓮舫候補をしのいだことが注目された。石丸スタイルに新しさはあったのか。
蓮舫氏に「帰れ」コール。石丸支持と思しき謎の100人集団
ある酒場の社長に「石丸って面白そうですね」と言われたのは、都知事選がはじまる前だった。
私にとってはその言説も知らず、広島にお騒がせ市長がいて、無謀にも都知事選に出るというぐらいの存在だった。
その演説を少しだけ聞いたのは八王子だった。
蓮舫陣営の街宣カーが移動したとき、「帰れ」コールを投げつける100人ほどの人たちが、石丸街宣の聴衆に入っていった。あの集団は何だったのだろうか。
石丸氏を全力で支援していた旧統一教会・自民党系人脈
石丸陣営には統一教会系の『世界日報』が主催するYouTube番組の司会者である田村重信氏(元自民党本部職員)や「TOKYO自民党政経塾」塾長代行の小田全宏氏がいた。さらには「選挙の神様」とまで呼ばれる藤川晋之助氏が選対事務局長だった。
石丸現象をYouTubeなどの切り取り動画が若い世代に浸透したとする解説は多い。たしかに新聞やテレビを見ずにスマートフォンで動画を見る世代への影響は大きかったのだろう。
石丸氏の政策には体系的な内容はない。そこにあったのは小泉純一郎元総理や橋下徹氏などのような「強い」=「乱暴な」大衆迎合主義だった。
重要なことは若い世代がそこに惹かれた意味だ。八王子の街宣は不思議な雰囲気だった。聴衆はいた。上手くない演説に静かで整然とした拍手が起きた。政治集会ではなく自己開発セミナーに集まった集団のように見えた。
「石丸伸二とは何者か?」(『月刊Hanada』8月号)は現地匿名座談会だ。「現地」とは安芸高田市で、「匿名」とは元市議と現職市議の4人。「議会で議論は進まず」「何でも『無駄だ』と潰す」「人を見下す発言が多い」は中見出しだ。雰囲気はわかるだろう。
評価が高かったのは教育関連で、学校の冷暖房を充実させ、「生徒が決める百万事業」といって教師が口出しできない100万円を2つの高校に出したことだ。
小中学校と保育園の給食費を無償化するのに1億円を投じ、廃止した施設の管理費などから捻出したが、次年度からの予算をどこから出すのかはハッキリしていなかった。
石丸氏は「政治屋」を批判するが、政治家としての蓄積はそうない。広島1区か広島県知事選に出る可能性はあるが、石丸現象は一過性だろう。その乱暴な言動は政治的魅力にならないからだ。しかし若い世代に接近するためのSNS対策については検討に値する重要な課題だ。
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※ 本記事は有料メルマガ『有田芳生の「酔醒漫録」』2024年7月12日号の一部抜粋です。続きをお読みになりたい方は、初月無料の定期購読にご登録の上お楽しみください。このほか、1ヶ月単位でバックナンバーもご購入いただけます(1ヶ月分:税込880円)。
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