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トランプ前大統領とのテレビ討論会における「大惨敗」を受け、身内の民主党内から選挙戦撤退を求める声が大きくなるばかりの状況となっているバイデン大統領。英米を代表するメディアもバイデン氏に厳しい意見を突きつけているようです。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』ではジャーナリストの高野孟さんが、英誌『エコノミスト』と米有力紙『ニューヨーク・タイムズ』がバイデン氏についてどのように伝えているかを紹介。さらに同氏の「代役」としてハリス現副大統領が相応しいか否かについて考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:米欧主要メディアがバイデンに突き付けた厳しい「撤退」勧告/代わるとすればハリス副大統領が有力か?
プロフィール:高野孟(たかの・はじめ)
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。
「撤退」以外の選択肢なし。米欧主要メディアがバイデンに突きつけた厳しい勧告
6月27日の米大統領候補の第1回テレビ討論会は、バイデン大統領にとって最悪の結果となった。いつもは米国を皮肉っぽいけれども上品さを失わずに批判する英『エコノミスト』誌も、「なぜバイデンは撤退しなければならないのか」と題した最新号の論説の第1パラグラフでこう述べていた。
『エコノミスト』が数行の文章に押し込めた9つもの強い否定・非難の言葉
大統領討論はジョー・バイデンにとって酷い結果となったが、それを庇おうとするのはなお悪い。酔って正気を失ったような老人が言葉や事実を思い出そうともがくのを見るのは苦痛だった。弱い相手なのに議論を決着させられない彼の無能ぶりは、見るに堪えなかった。しかし、何千万人もの米国人が自分の目で見たことを否定しようとしたバイデン陣営の作戦は、それに劣らず不愉快で、なぜなら不正直は軽蔑を呼ぶだけだからだ。
わずか数行の文章に、酷い(awful)、なお悪い(worse)、苦痛(agony)、正気を失ったような(befuddled)、無能ぶり(inability)、見るに堪えない(dispiriting)、不愉快(toxic)、不正直(dishonesty)、軽蔑(contempt)……と、強い否定・非難の言葉が9つも押し詰められているのが、異様である。
途中の論旨は全て飛ばすが、英誌の論説が末尾で勧告しているのは次のことである。
▼本誌が最初に、バイデンは高齢であり再選を目指すべきではないと言ったのは、2022年のことだ。
▼〔8月の〕党大会で新しい候補者が選ばれても、自分を売り込むには投票まで10週間しかなく、明らかに負けるだろう。しかしそうであっても、バイデンの自己犠牲が生むカタルシス効果は、アメリカ政治を修復するのを助けるだろう。
▼とは言え、我々の見るところ、民主党は勝利する十分なチャンスを残している――バイデンよりマシな候補がいればだが、たとえそれが余り人気がない彼の副大統領カマラ・ハリスであっても、バイデンよりはマシかもしれない。
▼アメリカの刷新が今始まらなければならない。それには、トランプを負かせるだけの新しい候補者を選ぶしか道はないだろう。……
『ニューヨーク・タイムズ』が撤退を勧告した衝撃
『ニューヨーク・タイムズ』は討論会の翌日28日付で「この国を救うため、バイデン大統領は選挙戦から離脱すべきである」と題した社説を掲げた。
同紙は、単に米国きっての有力紙というにとどまらず、選挙の度ごとに公然と民主党支持の立場を表明し、同党のあるべき方向について大所高所からの提言や苦言を呈する、言わばご意見番のような存在であって、そこが、前夜の討論会の翌朝早々に、個人名ではなく論説委員室(エディトリアル・ボード)の総意として、バイデンに選挙戦からの撤退を勧告したことの衝撃は大きい。さすがに、格調ある堂々たる文章だが、言っていることの中身は厳しい。要点は……、
▼木曜日の討論会では、バイデンは4年前と同じ人ではなかった。……彼は自分が2期目に達成したいことを説明しようと奮闘した。彼はトランプの挑発を跳ね返そうと奮闘した。彼はトランプの嘘、失敗、恐るべき計画の責任を追及すべく奮闘した。……しかし、偉大なる公職者であるバイデンが今〔公共の利益のために〕成し得ることは、自分が再選のための選挙戦を続けるつもりがないことを宣言することだけである〔ことが明らかになった〕。
▼選挙戦のこの終盤になって、新しい候補者を求めるという決断は軽々にできることではない。しかし、我が国の価値と制度を破壊しようとするトランプの挑戦の大規模さと深刻さ、そしてそれと対決するバイデンの力不足を思えば、その決断はやむを得ない。
▼思い出して欲しいのだが、この異例の時期の候補者討論にトランプを連れ込んだのはバイデンであって、彼がルールも日取りも決めた。彼は前々から自分の精神的能力に関して公けに懸念が出ていること知っていて、それに応えなければならないと思ってそうした。彼は自分で課した試練に失敗したのである。
▼トランプ第2期という危険が差し迫った今、それを打ち破るために民主党が成し得る最も明瞭な道筋は、「バイデンが選挙戦を続けるのは無理でありそれに代わってトランプを負かすことのできる誰かを選抜する手続きに入らなければならない」という本当のことを、公に宣言することである。……
いい加減に「パートナー」を選んだ訳がないバイデン
NYタイムズの社説は、バイデンの代わりを誰にすべきかには触れていない。が、同紙7月2日付オピニオン欄ではライディア・ポルグリーンの論説で「ハリス大統領候補は今のところ(right now)悪くない(pretty good)のでは」と言わせている。
▼討論会の直後、CNNにカマラ・ハリスが登場し、滅多撃ちにしようとするアンダーソン・クーパーの詰問に冷静かつ順序立てた話ぶりで答えているのを見て、バイデンが自ら陥った窮境を脱するには彼女に頭を下げて自分の代わりになってくれるようお願いするしかないと確信した。
▼そもそも2020年にバイデンがハリスを副大統領候補に選んだのは、普通の意味ではなく、すでにその時、本人が任期途中で執務できなくなる可能性があり得ることを考慮し、その場合に後継者になるに相応しい者として彼女を選んだのだった。
▼もしハリスが大統領になれば、最初の女性大統領になる。バラク・オバマは最初の黒人大統領となったが、彼女は最終的に最も高いガラスの天井を破るという最も困難な仕事を成し遂げることになる。私としては、女性大統領が生まれるとすれば、こういう奇妙で変則的なプロセスではなく、もっと公明正大な環境の下であって欲しいと希求してはいるのだが。……
私も、米マスコミがことさらにハリスを悪く言うのを前々から「異常だな」と思っていて、その陰にカラードの女性に対する二重の差別意識が働いていないかという疑いを抱いていた。しかし、それを判断する手段がないので、今でも確かなことは言えないのだが、バイデンほどの老練の政治家が、しかもボケが始まる前の4年前に、そうそういい加減にパートナーを選んだ訳がないので、「やらしてみたらいいじゃないか、トランプよりマシだろうが」という直感的な見方を保っていて、ポルグリーンに賛成である。
「もしトラ」の可能性急上昇でバタつくばかりの日本
バイデンはこれまでの予備選を通じて、民主党の党大会代議員の99%の支持を得ており、これは単なる支持率ではなく、各州ごとのルールに従ってどの候補者を支持するかを競い合った結果なので、党大会で急に新しい候補者が出てきて自由投票で選び直すということにはならない。従って、バイデンが自ら撤退を言い出さない限り、選び直しのプロセスは始まらない。
それが始まったとして、そこでバイデンがハリスにせよ他の誰かにせよ、代役を指名する権利があるのかどうかは分からないが、まあ恐らく現職大統領の身を捨てた遺言には従わざるを得ないのだろう。
日本では、「もしトラ」の可能性が急上昇して、さて防衛・経済両面でどういう影響があるか、バタバタした近視的評論が盛んだが、それ以前に「どういう米国になって貰うことが世界にとって望ましいのか」という観点で見渡すことが必要ではないか。
(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2024年7月8日号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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