■非難の矛先はプーチンからゼレンスキーへと変わった。 | タマちゃんの暇つぶし

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MAG2 NEWS:非難の矛先はプーチンからゼレンスキーへと変わった。“クーデター未遂”で露呈、ウクライナ人による「キーウ政権打倒」の動き2024.07.08より転載します。
 
貼り付け開始、

https://www.mag2.com/p/news/603018
 
Kyiv,,Ukraine,-,Mar.,29,,2022:,War,In,Ukraine.,Shopping
 

7月1日、国内で計画されていたクーデターを阻止したと発表したウクライナ保安局。ロシアからの軍事侵攻を受ける中で発覚したこの事態は、一体何を意味しているのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、クーデター未遂を引き起こしたウクライナ国内の「分裂のもと」を分析するとともに、プーチン大統領の次なる狙いを予測。さらに中国やロシア、トルコが絡む上海協力機構が国際社会に与える影響について考察しています。

※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:戦争の連鎖が生み出す分断の加速とドミノ倒しの危険性

止めようのない戦争の連鎖。分断の加速にあまりに無力な国際社会

ロシアによる一方的なウクライナへの侵攻によって始まった“戦争”においては、ロシアサイドの目的は、微調整はあったようですが、基本的には不変と思われます。

その目的に私としては同意できませんが、長年にわたるやり取りから私なりに理解している内容としては「ロシア政府(プーチン大統領)の方針に公然と異を唱え、ロシアが最も嫌がる欧米勢力の東進を嬉々として進めたゼレンスキー大統領とその政権の排除」「ロシアにシンパシーを抱くウクライナ東部・南部のウクライナからの切り離しと、ロシアへの“再”編入によるロシア勢力の再結集」「NATOおよび欧米勢力をロシアの(旧ソ連の)勢力圏から追い出すこと。そのためにロシアに背を向けた旧ソ連共和国の打倒のための足掛かりをウクライナに作ること」などが、ロシアが抱いている“達成目標”と思われます。

ウクライナ全土の物理的な支配を念頭に戦闘を実施しているのではなく、ゼレンスキー大統領を引き摺り下ろし、親ロシア政権(ロシアの傀儡とまでは言わないとしても)を作り上げ、親ロシアの新しいウクライナを起点として、ロシアの勢力圏の拡大と“ソ連”の再興、そしてNATOおよび親欧米勢力の勢力圏からの排除が目的のようです。

ウクライナにおいては、ゼレンスキー大統領とその政権の転覆のみならず、ウクライナをそれぞれの宗教・民族的なバックグラウンドを基盤に3分割することも計画の一環にあるようです。

以前にもお話ししたように、ウクライナ西部はポーランドに接しており、民族的にもポーランド系が多く、また宗教もカトリックが大多数を占めています。大都市のリビウなどには、ロシアによる侵攻後しばらくはロシアのミサイルが飛んでくることもありましたが、最近はそれもなく、比較的、ウクライナ西部地域は落ち着いた情勢下にあるとされています。また、あまり報じられませんが、ウクライナ国民の中でも“避難を必要としない”グループであり、海外に避難した人たちも、皮肉な表現をしますと、“これを機にちょっとバカンスへ”といった感覚の人たちもいると噂で聞くことがあるほど、私たちが聞いているウクライナ人の“現状”とのギャップがあり、実はその“ギャップ”は他のウクライナ国民も感じている内容であり、国内での分裂の“もと”になっていると言われています。

“ウクライナ”といえば、キーウが位置するウクライナ中央部を指すという意見もありますが、ここは“ウクライナ人”であり、ロシア正教会とその正統性を争い続けているウクライナ正教会がマジョリティを占めるエリアで、ロシアサイドの話を聞く限りは“この中央部のみを切り離す”ことも獲得目標の一つのようです。

ロシアが復讐を企てる4つの「裏切り者」国家

このウクライナの3分割がそれなりに達成できたと判断するか、うまく進んでいると判断した場合には、次のステージに移り、ロシアの支配地域と勢力圏を拡げる魂胆のようです。

それはロシアの表現を借りると“裏切り者への復讐”であり、その矛先はバルト三国諸国とモルドヴァに向いていると思われます。

ただフルスケールの侵攻と占領は、現実的にも能力的にも考えておらず、attacks and runs方式を取って部分的な被害を与え、すぐに撤退することで、NATOの本気度を試し、それをまた反ロシア諸国・親欧米諸国に「NATOはすぐには助けに来ない」ことを見せつけ、NATO内での結束を崩し、ロシアに面する東欧諸国(と北欧諸国)のNATO離れとロシアへの“それなりの”接近を後押ししたいとの思惑があるようです。

それらがうまく行くかどうかは分かりませんが、心理的な影響は少しずつ出てきているのではないかとの分析も出てきました。

ゼレンスキーに向き始めたウクライナ国民の非難の矛先

ではウクライナサイドはどうでしょうか?

ロシアによる侵攻直後は、ロシアにその後一方的に編入された地域は別として、ウクライナのintegrityの確保と領土・国土の保全が目的として示されていました。

しかし、戦闘が長期化し、ウクライナ軍兵士と一般市民の犠牲がかなり増加し、家族が強制的に離れ離れにされている責任と非難の矛先が、当初の対ロシア非難から、次第にゼレンスキー大統領とその政権に向けられており、半ば強制的な徴兵(18歳から60歳の国内在住男性の徴兵)というやり方も、ゼレンスキー大統領とその政権への非難の増大に繋がっているようです。

そして対ウクライナ支援の拡大と確保のためという目的を掲げて、軍の最高司令官でもある大統領が外遊を繰り返しているという事実と、それがあまり好ましい成果を達成していないことに対するウクライナ国民とウクライナ軍、そして反ゼレンスキー大統領の勢力からの非難が拡大していることも背後にあるようです。

それが今週、未遂に終わったクーデター事件という形で表出してきており、プーチン大統領が望む通りかどうかは分かりませんが、【ウクライナ国内でウクライナ人によるゼレンスキー大統領とその政権の打倒に向けた動き】が起きてきていることを示していると言えます。

欧米からの支援が滞り、欧州各国では極右勢力の躍進を受けて、対ウクライナ支援の見直し、廃止、または大幅な縮小や停止に向けた動きが加速している中、ウクライナにとっての状況はあまり好ましいものとは言えないように感じます。

頼みのアメリカも、先日合意した支援については8月末までに到着する方向ですでに動いていますが、11月の大統領選の結果が判明するまで一切の追加支援も議論もないとのことですので、非常に心もとないものと思われます。

そしてゼレンスキー大統領の積極的な外遊と訴えかけに反して、残念ながら国際社会の関心はもうウクライナの今には向いておらず、イスラエルとハマスの終わらぬ戦闘とガザにおいて悪化の一途を辿る人道状況、イスラエルが始めようとしているヒズボラとその仲間たちとの“本格的な”戦闘の有無と規模、そしてその影響、新しい戦争の火種が燻りだしたアゼルバイジャンとアルメニア(ナゴルノカラバフを含む)やコソボを巡るセルビア共和国とアルバニア共和国、そしてコソボ共和国の緊張の高まりなどが、相互に飛び火し、一つの大きな紛争として繋がり、歯止めの聞かない大戦争に発展することへの懸念にむき出しています。

具体的な戦争拡大への予防策を持たない国際社会

私もオン・オフで参加した最近の会合でも、すべての紛争を包括的に議論し、相互の影響についての対応について話し合うことが多くなり(個人的にはやっとあるべき姿になったかなと感じています)、一つ一つのケースについて別々の対応について話すこと・協議することが無くなってきています。

イスラエル政府関係者の言葉を借りると、国際的な非難を浴びている中でフォーカスがイスラエルに集中的に向かない状況はラッキーとのことでしたが、今、さらなるフォーカスと支援を必要とするウクライナとしてはあまり好ましくない状況と言えるかもしれません。

ただ、この協議スタイルを採用することで、私が「忘れられた紛争」と呼ぶコンゴでの30年以上にわたって繰り広げられる悲劇(300万人以上の犠牲)やスーダンで2,500万人を巻き込む人道危機と内戦の拡大、エチオピアで繰り広げられるティグレイ紛争、そしてミャンマー情勢への対応と相互作用に再び目が向くようになったことに対しては、私はポジティブな評価をしています。

しかし、見方を変えると、複数の紛争・戦争・内戦などが飛び火し、世界的な戦争に発展しかねない状況が生まれてきており、それを隠し切れないという状況が生まれているということを認めざるを得ないという実情を示しているということでもあります。

今後、もしイスラエル政府が、ネタニエフ首相が宣言するようにヒズボラとの本格的な戦闘に突入し、ヒズボラとその仲間たちが参加し、かつその背後にいるイランの内政が落ち着いたら(新大統領が選出され、新政府が発足したら)、中東発の紛争の広がりに発展する状況が生まれるかもしれません。

そして、ロシアとウクライナの戦いが今後拡大するような事態がタイミング的に重なるような場合には、もう消すすべのない火災のように、一気に周辺地域から世界全体に燃え広がる事態を避けることはできなくなると懸念しています。

紛争調停のグループも、戦争の拡大を好まない国々も、それぞれに考えや方策、戦略を持っていますが、現時点ではそのすり合わせは行われておらず、何かしら具体的な予防策などは成立していない状況です。

上海協力機構という無視できないパワーハウス

いろいろな見方を総合すると、極右化・右傾化を受けてそう遠くないうちに欧州各国とEUは国際情勢の最前線からは脱落し、アメリカも散々かき回した後で、国内政治に追われて、しばらくは国際舞台で活躍することはできない状況になってくるものと考えます。

そうなってくると影響力を増してくるのが、中国であり、交戦中であるにも関わらず勢力を伸長させているロシアであり、そして同時進行の複数の紛争のど真ん中に地理的に位置するトルコですが、これらがすべて含まれる上海協力機構(SCO)の存在感の高まりは決して無視できない状況になるものと思われます。

今週7月3日と4日にカザフスタンのアスタナで開催されているSCO首脳会談では、ロシア・プーチン大統領と中国の習近平国家主席が対面で首脳会談を行うだけでなく、SCOへの公式な加盟を希望するトルコのエルドアン大統領も集い、そしてロシアに忠誠を誓う隣国ベラルーシも10か国目の加盟国となることで、中央アジア・コーカサス地域に一大勢力が、無視できないパワーハウスとして成立することになります。

それが意味するものが何なのかは、現時点では分かりかねますが、今年の夏が終わるころ、国際情勢はどのような様相を示しているのか?

希望と大きな懸念が入り混じる状況が今、私たちの前に存在していて、私たちは恐らくまだその深刻さに気付けていないように感じています。

これから酷暑の毎日を迎えることになりますが、私の紛争調停の日々も非常に熱いものになりそうです。

以上、今週の国際情勢の裏側のコラムでした。

(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』2024年7月5号より一部抜粋。続きをお読みになりたい方は初月無料のお試し購読をご登録下さい)

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世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。


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