■算数の説明が、どこかおかしい…不定方程式に「解があるとは限らない」 | タマちゃんの暇つぶし

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講談社:2024.06.27算数の説明が、どこかおかしい…不定方程式に「解があるとは限らない」という「数学の本質」を突いた、あまりに鋭すぎる「小学生の疑問」より転載します。
 
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https://gendai.media/articles/-/132278
 
 


なるほど! そうだったのか、数学。

数学を納得して理解するには、小学校から高校まで学ぶ算数・数学のうち、とくに押さえておくべき「重要キーワード」を一つひとつ理解して、体系的・構造的に学ぶことが大切です。


いまや、数学は、受験対策などの交換価値や、便利な道具として使用価値の有無ばかりが強調されるようになってしまいましたが、本来は、生活経験や体験によって得られた知識をベースにした素晴らしいな思想体系です。そして、その思想は、小学校の算数という初歩の段階から、しっかり流れ続けているのです。

学生のころに新鮮な気持ちで学んだ算数や数学を、いまふたたび深めることこそ、数学の本質に迫る「近道」といえるでしょう。

好評の『なっとくする数学記号』(ブルーバックス)の著者にして、数学教育を知り尽くした専門家による「学びなおし」の決定版『学びなおし! 数学 代数・解析編』。そこで取り上げた数学を理解する29のキーワードから、さらに厳選したトピックをご紹介していきます。

今回は、2つの未知数がある不定方程式「ディオファントス方程式」についての解説です。
 

【書影】学びなおし! 数学
 

*本記事は、『学びなおし! 数学 代数・解析編 なっとくする数学キーワード29』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。

ディオファントス方程式

ここではディオファントス方程式の話題についてお話ししましょう。

係数が整数である多変数の方程式で整数解を求める問題をディオファントス問題といいます。そして、そのための方程式をディオファントス方程式といいます。

ディオファントスについては後ほど説明しますが、250年頃にエジプトのアレキサンドリアで活躍した古代ギリシャの数学者で生没年不詳です。「代数学の父」と呼ばれています。

小学6年生の算数では、次のような問題が出てきます。

問.1箱3個入りのドーナツと2個入りのドーナツが売られています。子ども会でドーナツ30個が欲しいとき、それぞれ何箱買えばよいですか?


3個入りをx箱、2個入りをy箱とすれば、次のような方程式ができます。

3x+2y=30 ……(ア)


未知数が2つで方程式が2個であれば普通の連立方程式ですが、このように未知数が2個で、方程式が1個の方程式はxとyに数値を入れて求めていくしか方法がないようにみえます。このような方程式がディオファントス方程式です。一般には不定方程式といいます。

算数の場合は、数表を書いて答えを見つけます。まずx=0, y=15やx=10, y=0は、すぐわかります。小学生でも次のようにして解けます。

【図】x、yの数表

数表を書けば、小学生でも解ける

ところが、次のような子どももいます。

鋭い! 問題に作為的な匂いを嗅ぎ取った小学生!?

この問題について質問をされたお父さんは、教科書のように表を使って説明したそうです。すると、"教科書の解き方は知っている。それでいつも答えがうまく見つかるのか? その理由を教えて”というのです。

いやいや、子どもは予想以上に鋭いのです。この問題にどこか作為的な匂いがしたの でしょうし、関心もあるようです。

確かに、ディオファントス方程式にはいつも解があるとは限りません。

(ア)は上の表のように整数解を持ちます。しかも、ただ一通りではありません。

ここからは、この子どもさんの質問に答えることにしましょう。

次ページ:この問題の解き方は、ユークリッド互除法と密接な関係がある

ユークリッド互除法と密接な関係がある

この問題の解き方は、前回の記事で紹介した最大公約数を求めるユークリッド互除法と密接な関係があります。

まず、最初に次のような定理を紹介しましょう。

二つの正の整数a, bの最大公約数をdとするとき、次の等式を満たす整数u, vがある。

ua+vb=d……(イ)


いま、a = 385, b = 105として考えてみましょう。

これは前節の壁貼りの問題の数値です。最大公約数は35でした。

そこで、そのときのユークリッド互除法のプロセスを振り返ってみます。

  1. 385=105×3+70(385を105で割る)
  2. 105=70 ×1 + 35 = 70 + 35(105を1. の余りの70で割る)
  3. 70=35×2(70を2. の余りの35で割る)


こうして、3. 式で、35が最大公約数であることが決まりました。これが互除法です。

そこで、2. 式から70=105−35とし、この式を1. に代入します。

385=105×3+70 =105×3+105−35=105×4−35

385−105×4=−35⇔(−1)×385+4×105=35……(*)


(*)より、(イ)を満たすu, vはu =−1, v=4ということになります。

このようにイの性質はユークリッド互除法から出てくるわけです。

(イ)の特別の場合として、次のこともわかります。

二つの正の整数a, bが互いに素であれば(すなわち最大公約数が1)

ua+vb=1を満たす整数u, vがある。……(ウ) 


前節の245, 173の最大公約数は1でした。つまり、互いに素です。

そのときのユークリッド互除法のプロセスを振り返ってみます。

245=173×1+72

173=72×2+29

72=29×2+14

29=14×2+1


このプロセスを逆にたどるのです。

 1=29−14×2 → 1=29−(72−29×2)×2

=29×5−72×2

→ 1=29×5−72×2= (173−72×2)×5−72×2

=173×5−72×12

→ 1=173×5−72×12=173×5−(245−173×1)×12

=173×17−245×12


こうして、

1=173×17+245×(−12)


となります。

これらの性質(イ)(ウ)は、数論で頻繁に使われる基本的な性質なのです。

そこで、小学校の問題に戻ります。

もう一度、(ア)式を見てみましょう。式の左辺を見てもらうと3x+2yであり、3と2は互いに素です。

3x+2y=30 ……(ア)


したがって、ウから3u+2v=1となる整数u, vがあることになります。

ここで、アの右辺は30ですので、上の式の両辺を30倍すれば3(30u)+2 (30v)=30となりますので、x=30u, y=30vとして解が求まることになります。

u, vどちらも負の数にならないために必要な工夫

しかし、3u+2v=1である整数u, vはどちらかが負でないと成り立たないことは明らかです。したがって、x>0, y>0となる解を求めるには工夫が必要になります。どのように解けば良いでしょうか?

次ページ:解がx>0, y>0となる工夫とは

 
  1. 係数a = 3, b = 2の最大公約数は1です。したがって、ウよりua + vb = 1を満たす整数u, vがあります。


    u=1, v=−1とすればよいわけです。

    3×1+2×(−1)=1

    (上式のうち、3と2は方程式の係数、1は最大公約数)

  2. そこで、両辺を30倍します。


    3×30+2×(−30)=30

    最初の方程式は3x+2y=30です。

    下図の式から、さらに変形して

3×(x−30)+2× (y+30)=0

→3×(x−30)=−2×(y+30)

となります。……(3)

(3)より、3と2は互いに素なので、(x−30) は−2で割り切れなければなりません。

よって、(x−30) =−2k(kは任意の整数)とおけます。

これを4. に代入して、

−6k=−2×(y+30)→3k=y+30

(x−30)=−2k,3k=y+30

⇒x=−2k+30, y=3k−30(kは任意の整数)


実は、この最後の式が(ア)の一般解といわれるものです。kに適当な整数を入れて出てくるすべての数値が、(ア)の整数解というわけです。

つまり、無数の解があるということになります。

ドーナッツの問題にあてはめてみる

この算数の問題の場合はx≧0, y≧0なのでkの範囲が決まります。

x=−2k+30≧0とy=3k−30≧0から、30/3=10≦k≦ 30/2=15の範囲の整数です。k=10, 11, 12, 13, 14, 15ということになりますので、答えは次の6通りになります。

k=10のとき、x=10, y=0

k=10のとき、x=10, y=0

k=11のとき、x=8, y= 3

k=12のとき、x=6, y= 6

k=13のとき、x=4, y= 9

k=14のとき、x=2, y=12

k=15のとき、x=0, y=15


算数のように表を書いて答えを見つける場合でも、x=1から順次代入してyの値を求めますので、結構手間がかかるのです。

そこで、この方程式の一般的な定理を述べておきましょう。

不定方程式の一般的な定理

次のような不定方程式を考えます。|a|は「aの絶対値」という意味です。

ax+by=c(a, b, cは整数とする)

この方程式が整数解を持つための必要十分条件は、|c|が|a|と|b|の最大公約数で割り切れることである。

これに照らせば、先ほどの小学校の問題はa=3, b=2, c=30なので整数解を持ちます。こうして、先ほど表で求めたように整数解が見つかることになるのです。

子どもたちに説明するのは少しシンドイですかね。

 
【写真】ドーナツの数は? 定理に照らせば、表で求めたように整数解が見つかることになる
買うドーナツの箱はいくつ? 定理に照らせば、表で求めたように整数解が見つかることになる。……けれど、小学生にはちょっと難しい?! photo by gettyimages

係数|a|, |b|の最大公約数で|c|が割り切れない場合は、整数解がありません。たとえば、ドーナツ1箱4個入りと8個入りの箱があり、合計で30個買うとしたら、その方程式は4x+8y=30となりますが、この場合には整数解は存在しません。

また、正係数の不定方程式ax+by=cを考えたとき、その係数a, bが互いに素であれば常に整数解を持ちます。

*以下の続きは、6月28日(金)公開予定です。

学びなおし! 数学 代数・解析編 なっとくする数学キーワード29

【書影】学びなおし! 数学

ロングセラー『なっとくする数学記号』の著者にして、数学教育を知り尽くした専門家だから書けた、「学びなおし」の決定版!

 
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