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フランス領ニューカレドニアで5月中旬に発生し、マクロン大統領が現地を訪問し沈静化を図るまでに至った大規模な暴動。一体何がこのような事態を招いたのでしょうか。今回のメルマガ『ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)』では著者の伊東さんが、その発端や背景を深掘り。さらにこの暴動と安倍政権の「インド太平洋構想」との意外な関係を紹介しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:「天国に一番近い島」ニューカレドニアで暴動発生 暴動の遠因には、なんと安倍シンゾーが! 希少鉱物ニッケルをめぐる対立も
「天国に一番近い島」で暴動激化。ニューカレドニアで何が起きているのか
「天国に一番近い島」とも呼ばれるフランス領ニューカレドニアが、現在、騒乱に見舞われている。5月中旬以降、暴動が拡大し、フランスのマクロン大統領も現地を訪れる事態となった(*1)。
5月13日の夜、先住民「カナック」の若者たちが中心都市ヌメア郊外の幹線道路を占拠し、車に火をつけたり、店を襲って略奪を行った。カナックの人口は現地の40%を占めている。
現地当局の発表によると、暴動によって治安部隊の2人を含む7人が死亡し、90人以上の警察官が負傷。また、約350人が拘束されたとのこと。
またニューカレドニアには、約50人の観光客を含む300人の日本人が滞在していたが、空港の閉鎖により出国できない状況が続いていた。
ニューカレドニアは南太平洋のオーストラリアの東に位置し、シドニーからは飛行機で約3時間、日本からは直行便で約9時間。
この地域の大小さまざまな島々の総面積は四国とほぼ同じで、人口は約27万人、そのうち10万人近くがヌメアに住んでいる(*2)。
ニューカレドニアは、1980年代に俳優の原田知世さんが主演した映画の舞台となり、以降、「天国に一番近い島」として日本人に人気のリゾート地となった。
フランス本土の憲法改正の動きに猛反発の先住民
暴動の発端は、フランス本土で進行中の「憲法改正」の動きだった。
ニューカレドニアでは、カナックの人々の権利を尊重するため、地方選挙の参政権は「1998年以前にニューカレドニアで選挙人名簿に登録されていた人」などに限定されていた。
しかし、今回、改正案が提示され、「現地に10年以上暮らす住民にも参政権を拡大する」内容がフランスの国民議会に提出され、賛成多数で可決される。
これにより、比較的最近移住してきた人々も地方選挙に参加できるようになったのだが、カナックの人々は「先住民の票の重みが失われる」と反発、抗議活動が暴動に発展(*3)。その結果、略奪や放火が相次いだのだ。
そもそも、ニューカレドニアでは1960年代からカナックの人々を中心に、「植民地支配からの独立」を目指す運動が活発化し、1980年代にも治安部隊との衝突により死傷者が出る事態にまで発展。
こうした対立を経て、1998年にフランス政府と独立派などが、20年後までに独立の賛否を問う住民投票を実施することなどを定めた協定を結ぶ。
協定では、否決された場合でもさらに2回住民投票を行うことができると定められていたため、2018年、2020年、2021年の合計3回、住民投票が行われてきた。
安倍政権の「インド太平洋構想」も暴動の遠因に
協定では、否決された場合でも、さらに2回、住民投票を行うことができると定められていたことから、2018年、そして2020年、2021年のあわせて3回、住民投票が行われた。
投票の結果、1回目、2回目とも独立「反対」が「賛成」を上回りつつも、しかし、その差は縮まっていた。
一方、国連総会は、ニューカレドニアについて、現状は「非自治地域」にあると警鐘を鳴らす(*4)。
ただ、富山大の佐藤幸男名誉教授(国際政治学)によると、ニューカレドニア騒乱の責任は日本にもあるという。佐藤氏は東京新聞の取材に対し、
「(ニューカレドニアの)独立への道が閉ざされたのは、日本にも遠因がある」
と解説(*5)。
安倍晋三政権の「インド太平洋構想」により、ニューカレドニアで日仏合同の軍事訓練が始まり、結果、中国脅威論がニューカレドニア独立を阻むスローガンに使われたという。
日本が主催する「太平洋・島サミット」はニューカレドニアを独立国家と同様に扱ってきたが、佐藤氏は、
「現実的には独立回避の秘策を日仏両政府が合作した」(*6)
とみる。
EVに欠かせないニッケルをめぐる対立も暴動を激化
暴動激化の背景には、電気自動車(EV)に欠かせないニッケルをめぐる動きもあった。
ニューカレドニアは、EVのバッテリーなどに欠かせないニッケルの生産量が、インドネシア、フィリピンに次ぐ、世界第3位。
現在、ニューカレドニアからの輸出額のほとんどをニッケルが占めており、地元の雇用のおよそ25%は、ニッケルに関連した仕事だとも(*7)。
昨年、ニューカレドニアを訪問したフランスのマクロン大統領は、
「ニッケルはニューカレドニアの財産だ」(*8)
だとし、
「強調したいのは、われわれが大規模な再工業化の取り組みを進めている今、ニッケルはフランスと欧州にとって主要な戦略資源でもあるということだ」(*9)
とも述べる。
しかしながらニューカレドニアでは、採算がとれなくなったニッケルの加工工場が停止されるなど、経済や雇用に大きな影響が出てきた(*10)。
暴動の背景には、こうした現地の経済的な苦境や、先住民とヨーロッパからの移住者の間のさまざまな格差に対する不満もある。
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■引用・参考文献
(*1)松田伸子「ニューカレドニアでなぜ暴動?人気のリゾート地で何が?」NHK NEWS WEB 2024年5月24日
(*2)松田伸子 2024年5月24日
(*3)松田伸子 2024年5月24日
(*4)西田直晃「『天国に一番近い島』でくすぶり続ける暴力の連鎖 ニューカレドニアで本国フランスと対立する先住民の苦境」東京新聞 2024年6月2日
(*5)西田直晃 2024年6月2日
(*6)西田直晃 2024年6月2日
(*7)松田伸子 2024年5月24日
(*8)Matthew Dalton 、Sam Schechner「ニューカレドニアの暴動、背景に『ニッケル闘争』」ウォール・ストリート・ジャーナル 2024年5月21日
(*9)Matthew Dalton 、Sam Schechner 2024年5月21日
(*10)松田伸子 2024年5月24日
(『ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)』2024年6月8日号より一部抜粋・文中一部敬称略)
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