■インド政府を激怒させ、中国から痛烈な皮肉を浴びた米国。 | タマちゃんの暇つぶし

タマちゃんの暇つぶし

直ぐに消されるので、メインはこちらです→ http://1tamachan.blog31.fc2.com/ 

MAG2 NEWS:インド政府を激怒させ、中国から痛烈な皮肉を浴びた米国。長期的な「全体構想」なき国際情勢の行方2024.06.03より転載します。
 
貼り付け開始、

https://www.mag2.com/p/news/600354
 
07.07.22,Irpin,,Ukraine:,Small,Children,And,Their,Caregivers,Are,Evacuated
 

どれだけウクライナが救いを求める声を上げようとも、ロシアの軍事侵攻を止めることができない国際社会。なぜ欧米諸国が有効な手を打てないままの状態が続いているのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、西側諸国が長期的なビジョンとしてのグランドデザインを持ち合わせていないことを、その原因のひとつとして指摘。さらにこのような状況に陥ってしまった理由を考察しています。

※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:グランドデザインが存在しない国際情勢

リベラルな秩序はすでに崩壊。自国の利害を最優先する外交のみに終始する国際社会の行き着く先

「アメリカが中国に求めている内容を整理するとこうなる。あなたの一番緊密な友好国を倒すために手助けをしてもらいたい。そうしたら次はあなたを倒しにかかります、ということだ。こんなバカげたことを誰がまともに捉えて、協力するのだ」

これは今週、話をした中国の外交当局の最高幹部が、痛烈な皮肉を交えて話した内容の要約です。

バイデン政権が成立した際、中国政府はそれまでトランプ政権下で冷え切った米中関係が好転する兆しではないかと期待し、アラスカでサリバン大統領補佐官とブリンケン国務長官とのミーティングに臨みましたが、ふたを開けてみたら、頭ごなしに“中国がすべきこと”を一方的に押し付けられただけで、協力というよりは命令に聞こえ、「とてもじゃないが、付き合いきれない」と感じたそうです。

その後、同じような感情と反応は、インド政府を激怒させ、グローバルサウスの国々のアメリカ離れを加速させることになりました。

その要因は一方的に頭ごなしに他国がすべきことを押し付ける姿勢にもありますが、いろいろな意見を集めて整理してみると、【アメリカも欧州の国々もリーダー面しても、世界をどうしたいのかという長期的なビジョンであるグランドデザインを描いていないこと】が各国を失望させていることがあります。

ただこれは欧米諸国に限ったことではなく、日本もそうですし、欧米を非難するグローバルサウスの国々も同じことです。

国際協調を基盤に成り立っていたリベラルな国際秩序はすでに崩壊し、各国はそれぞれの利害に基づいた実利主義に傾倒した外交と交流を行うようになったことで、まとまりが無くなったという印象を受けています。

その結果が、今、私たちが見ているロシアとウクライナの戦争であり、イスラエルとハマスの終わりなき戦いと悲劇の拡大であり、そしてほかの地域で広がる終わらない紛争の激化と、多くの潜在的な紛争の種の発火だと考えます。

しかし、現在進行形で紛争当事者となっている国々・非政府組織については、“グランドデザイン”は、評価が分かれるところですが、それなりに存在し、意識されていることと思います。

キーワードは自身・自国の生存の確保です。

ウクライナについては言うまでもなく、独立主権国家としてのウクライナの存続こそがグランドデザインになると考えられます。

ロシアに占領されたクリミア半島やドンバス州を含む東南部4州の奪還(または返還)を通じた国土のintegrityの回復はもちろん追求すべきゴールですし、当然の権利だと考えますが、ロシアとウクライナの停戦を望む欧州各国とその仲間たちは、必ずしもそれを追求せず、今となっては、戦争をウクライナの領域内で止め、自国もしくは周辺国に戦火が拡大することが無いようにすることを優先しているように見受けられます。

「大ロシア帝国の再興」というプーチンのグランドデザイン

国土の保全と回復という長期的なビジョン、そしてグランドデザインを描くのであれば、もしかしたら【すでにロシアの影響下にある東南部を割譲し、中部と西部を維持すべき】とするという案も浮上します。

もちろん、現時点ではそれを受け入れることはできないでしょうし、その受け入れは、すなわちゼレンスキー大統領の求心力が無くなり、政権の打倒もしくはクーデターを誘発することに繋がりかねません。

まあ、それこそがロシア・プーチン大統領が描く“もう一つ”のウクライナ戦争(侵略)の帰結点なのだと思われます。

当のロシアはどうでしょうか?これは再三描いているように、プーチン大統領にとっては自らの手で大ロシア帝国の再興(新ソビエト連邦の建設)がグランドデザインとして存在すると思われます。

しかし、より現実的なラインであり、かつ“友好国”に提示しているビジョンでは、NATOおよび欧州各国の影響範囲を遠ざけ、コーカサス・中央アジアから追い出すというのが“あるべき姿”として示されています。

プーチン大統領は欧州各国を敵に回してでも、欧米勢力をロシアの勢力圏(Sphere of influence)には入れないという強い決意および外交安全保障上の基本ラインがあり、NATOの東進は欧米諸国の裏切りと捉えているため、ロシアの将来像としてのグランドデザインでは【欧米の影響を受けない独自の勢力圏の確立】が掲げられます。

そのためには「親欧米に舵を切ったゼレンスキー政権は打倒しなくてはならない」との確信が存在し、そのためには当初3日間もあれば実現可能と踏んでいましたが、今や“特別作戦”は2年3か月を経過し、戦略上、この戦争をのらりくらりと長期化させ(ただし、ロシア有利の状況のままで)、厭戦機運をウクライナ国内で高めて、内から政権の打倒を図り、その後は親ロシアの政権を樹立して、ロシアのコントロール下に置こうという方向にシフトしているように見えます。

いろいろと分析するとウクライナを物理的に破壊することには関心はさほどなく、ロシアの勢力圏を西に向けて拡げることに重点が置かれていますが、同時にウクライナを、東欧のNATO諸国ににらみを利かせるための前線かつロシアの勢力圏との緩衝地として用いたいという思惑が見えてきます。

西側にウクライナを挟んでプレッシャーをかけ続け、その間に北欧・東欧のNATO加盟国にちょっかいをかけて混乱を引き起こし、NATOの結束を崩すことを狙っていると思われます。

まずは“裏切り者”とロシア政府が呼ぶバルト三国に対して小規模の侵攻を行い、ある程度被害を与えたらさっと軍を撤退させることで、NATO内での議論を活発化させます。

NATOでは憲章第5条に則って対ロ宣戦布告を行うべきかどうかという議論が行われることになりますが、ロシアとの直接的な軍事衝突を恐れるNATOが全会一致で宣戦布告に流れることはなく、恐らく何ら行動できないとロシアは踏んでいると思われます。その上で、他の国々にも小規模の攻撃を加えつつ、戦争犯罪にあたるような行為を行うことで、NATO内で「NATOは結局役に立たない」という感情を引き起こし、NATOの分裂を画策することで、ロシアの国家安全保障の確保に繋がる、というのがグランドデザインでしょう(ついでにアメリカ・カナダと西欧ブロックと北東欧ブロックにNATOを分断し、北東欧ブロックにじわりじわりと圧力をかけて、ロシアの側に引き寄せようという企てもあるようです)。

絵に描いた餅と化した欧米諸国のグランドデザイン

これに対して欧米諸国は具体的な策を持ち合わせず、今後の世界をどうしたいのかというグランドデザインも持ち合わせていないように見えます。

グランドデザインが存在するとすれば、それは【自分たちの影響力の維持と拡大】【世界における経済的な利権と支配の維持】【自由という名の下のリベラルな国際秩序の回復と維持】といったものかと思いますが、その背後に隠れているそれぞれの国の利害の衝突と思惑によって、これらの“デザイン”は絵に描いた餅になっていると感じます。

またその理由は、圧倒的な武力と経済力で世界の警察官として治安維持に奔走していたアメリカがその立場と責任を捨て、かつ現実的にその能力を失っていることにあると考えられます。

それは20年にわたる駐留中に国を滅茶苦茶にして放棄したアフガニスタンとイラクの悲劇を引き起こしたことと、現在進行形のイスラエルとハマスの戦いにおいて、頑ななイスラエル擁護を行ったことで、アメリカは自己矛盾の塊であることを世界に印象付け、“国際社会における信頼性”が失墜したからと言えます。

それはNATOの加盟国間にも広がっており、アメリカも西欧諸国も“ウクライナが敗北しない程度”に支援を留める方針を変えないことを見て「自分たちの身は自分たちで守る必要がある」と感じさせて、ロシアの優位が変わらないこととロシアの脅威が拡大するにつれ、北欧諸国も東欧諸国も、そしてバルト三国も「ウクライナが敗北したら次は我が身」との恐れが高まっています。

その証拠にリトアニアやポーランド、そして新規加盟のスウェーデンはNATOの決定を待たずに有志国でのウクライナへの派兵を具体的に議論し始めているようです。

NATOや欧米各国はそれらの国の引き留めと、自由主義陣営のintegrityの維持をグランドデザインにするかもしれませんが、現実的にはその達成は困難になってきているように思いますし、本当にNATO加盟国がそれを真に望んでいるのかは不明ですので、グランドデザインは存在しないと認識しています。

ただし、「ウクライナが敗北したらどんな悪夢が世界に訪れるか?」という恐れは共通の問いとして抱えており、ロシアの勝利を許してはならないという点では団結しているようですが、その戦争も今では“ロシア対ウクライナ”というシンプルな構図ではなく、【北朝鮮・イラン・中国・ロシア】対【欧米諸国とその仲間たち(NATOプラスα)】という構図に替わっているため、対応が非常に複雑化してきています。

「もうちょっかいをかけるな」。中国が描いているグランドデザイン

そのロシアとは不可分とされ、ロシアの敗北は自国を危険なまでに孤立させるリスクを認識する中国はどのようなグランドデザインを描いているのでしょうか?

ウクライナ戦争については、正直なところあまり関心がなく介入する気は毛頭ないようですが、ロシアが世界を敵に回し、それが自国の孤立につながることが明確になっている中国にとっては、ロシアと中国は不可分な相互依存に基づく強い結束で結ばれる“友好国”という認識のようです。

ただ中国のあらゆる人たちと話しても、世界的なグランドデザインを掲げることを考えているわけではなく、【自国の体制と経済の安定化と自立性の確保】、そして【中国の国土の保全と不可侵の保障のための十分な軍事力の保持】がグランドデザインとして存在していて、周辺国への侵攻などは考えていないということです。

もちろんここには台湾という例外が含まれますが、北京の意識では、【蒋介石とその仲間たち(国民党)が共産党軍に追われ台湾にわたったが、そこにいた先住民を皆殺しにして台湾を占領し、対北京の抵抗の拠点とした“だけ”で、今の台湾人はつまり中国人であるから、何を争っているのかが理解できない】というものとのことです(あまり公には言えないけど、それが本心だとのこと)。

正しいかどうかは別として、習近平国家主席が掲げる【台湾の統一は中国にとっては核心的な関心】というのは、北京的には【習近平国家主席の下で中国全土の統治をおこなう“だけ”のことであり、中国の安定のためには、いかなる反乱分子(それは台湾やウイグルを含む)の存在を許すことはできない】という考えが、グランドデザインの基盤に存在するようです。

特にアメリカや日本と事を構える気はなく、あくまでも中国の安定のみに関心があるとのことですが、言い換えると「もう中国にちょっかいをかけないでね」ということでしょうか。すべての政策と外交方針、安全保障政策はその考えをベースに作られている、ということのようです。

ではここで一気に目を中東に向けてみたいと思います――(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』2024年5月31日号より一部抜粋。続きをお読みになりたい方は初月無料のお試し購読をご登録の上、5月分のバックナンバーをお求め下さい)

この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ

初月無料で読む

image by: Halinskyi Max / Shutterstock.com
 

島田久仁彦(国際交渉人)この著者の記事一覧

世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。


有料メルマガ好評配信中