■「武器の70%を提供」の衝撃。ガザ「停戦」への努力を台無しにした米国の無責任 | タマちゃんの暇つぶし

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MAG2 NEWS:「武器の70%を提供」の衝撃。ガザ「停戦」への努力を台無しにした米国の無責任2024.05.20より転載します。
 
貼り付け開始、

https://www.mag2.com/p/news/599178
 
Tel,Aviv,,Israel.,August,14,,2019.,Prime,Minister,Of,Israel
 

先日掲載の記事でもお伝えした通り、ガザ紛争の停戦案受け入れを拒否し無辜の市民を殺戮し続けるイスラエル。国際社会から大きな批判を受けながらも攻撃の手を緩めないネタニヤフ首相ですが、もはや解決の手立てはないのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、ガザを制圧できる軍事力を持ちながらとどめを刺すことなくパレスチナ人をいたぶり続けるネタニヤフ氏の思惑と、アメリカがイスラエルを見捨てられない理由を考察。さらに多くの国々が反イスラエル網に参加し始めた事実を紹介しています。

※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:戦争の長期化が生み出すもの‐国際秩序の崩壊と無秩序の混乱

中国とロシアの接近を警戒。なぜアメリカはラファへの本格侵攻停止に聞く耳を持たぬイスラエルを見捨てられないのか

「紛争解決に向けた様々な努力は、出口も見いだせないまま、暗礁に乗り上げてしまったように感じている」

これはイスラエルとハマスの間に立って、間接交渉を行い、戦闘の一時休止と人質解放に向けた合意に向けた協議を仲介するカタールのムハンマド首相兼外相が、ドーハで開かれた経済フォーラムの場で吐露した内容です。

「先週末まで我慢強く行われていた折衝は、途中、合意に向けた機運が高まり、ついにブレークスルーが生まれるのではないかと思われた時もあったが、イスラエルとハマス双方の要求が相容れない状態になった。その時、イスラエル軍によるラファへの攻撃が起こり、交渉は完全に空中分解した。和平協議をしている最中の軍事作戦の強行は完全なディール・ブレイカーであり、正直受け入れられない」と不満を述べたうえで、「正直、どう進めればいいのか考えることさえできずに混乱しているが、少し頭の整理をして、また仲介に携わるつもりだ」と交渉の継続にも言及しています。

同様のことは、実はトルコ政府がロシアとウクライナの間に入って、停戦協定の仲介を行っていた際にも起きています。

直に顔を合わせた上で、トルコの仲介の下、停戦に向けた協議をトルコで行っていましたが、事前の約束に反し、双方とも互いに軍事作戦を小規模ながら実施し、話しながらできるだけ自分たちに有利な状況を作り出したいという思惑が、ロシアによるウクライナ侵攻初期の段階での解決に向けた扉を閉ざしてしまいました。

その後、起きたことは話し合いのチャンネルが、水面下のものも含め、閉ざされ、互いに多大な人的犠牲を強いながら、戦争は長期化し、完全に戦況は膠着状態に陥り、血で血を洗う凄惨な状況になっています。

私自身、最初は「ロシア軍がウクライナ国境に集結しているとはいえ、それはただの脅しであり、国境を越えて侵攻することはない」と予想して、大きく間違え、その後も「ロシアの軍事力をもってすれば3日ほどでウクライナ全土はロシア軍の手に落ちてしまうだろう」と再度見込み違いをしてしまいました。

気が付けばもうすぐ開戦から2年3か月。ウクライナによる反転攻勢も失敗に終わり、徐々に態勢を立て直したロシア軍有利な戦況が続いていると言われていますが、決定的な状況にはならず、戦いは出口の見えない長期化の様相を呈しています。

ロシアは、これまで2年強、事あるごとに核兵器使用に言及して欧米諸国(NATO)の本格的な介入に対する威嚇を行っていますが、もちろんロシアが容易に核兵器を用いることもなく、精密誘導ミサイルなどで大規模攻撃を一斉に仕掛けるわけでもなく、耐用年数を超えたようなミサイルや爆弾の在庫を使ってのらりくらりと“負けない程度”に戦争を継続しているように見えます。

【関連】全世界が失望。ハマスが受け入れたガザ戦争「停戦案」を突っぱねるネタニヤフ首相が国際社会に突きつけたモノ

核や最新鋭兵器が一番の攻撃力を有する時

ウクライナの背後に控える欧米諸国も、ロシアに対する経済制裁を厳格に適用すれば、ロシアはぐうの音も出ずに侵略を諦めるだろうと高を括っていたら、ロシア包囲網に参加する国が少なく、かつ制裁逃れが横行したことと、エネルギー安全保障上、完全なロシア離れが出来なかった欧州と、ロシアによるディスカウントを受けてロシア産の原油と天然ガスを仕入れ、ロシアに外貨をもたらした中国やイラン、そしてグローバルサウスの国々による間接的ロシア支援により、“制裁がほぼ効いていない状況”が作り上げられてしまい、ロシアに戦時経済体制を確立するための時間的余裕を与えてしまいました。

結果、ロシアは補給線を構築し、ウクライナ軍を迎撃する体制を確立しながら、攻撃のレベルをより高度かつ精密に上げることに成功したと思われます。

しかし、腑に落ちないのは、一気にウクライナの息の根を止めるだけの軍事力と手段を持っているにもかかわらず、軍事的に勝つことを目指さず(選ばず)、強者が弱者をいたぶり、決して止めを刺さずに叩き続け、戦争をあえて長期化させているのかということです。

核兵器を用いることを決して許容することはありませんが、非核の最新鋭兵器も多く保持し実戦配備していて、いつでもstand readyになっているはずなのに、それをつかわない。

NATO各国はロシアによる核兵器使用の場合には、それ相応の反応を行うというものの、NATOの加盟国でもなく、かつEUの加盟国でもないウクライナに対して、ロシアが戦術核兵器を用いたとしても、集団的自衛権は行使されず、かつロシアとの直接的な対決、軍事衝突を極限に恐れる欧米諸国の立ち位置から、口先だけのロシア非難はしても、ウクライナを守るための本格介入をしてロシアと事を構えることは絶対にしないことが分かっていますので、ロシアはやりたい放題のはずですが、それもしないのはなぜなのでしょうか?

これについては以前、たまたまロシア人とウクライナ人の専門家が言っていましたが、「核兵器にせよ、圧倒的な兵器にせよ、使うぞと脅しに使われている時が、実は一番の攻撃力を有する。使用されたらただで済まないことはみな分かっているから、それを使わせたくないとの思いから、使用しなくても大きな力として作用する。使ってしまったら、物理的な破壊は引き起こすが、人を動かすための心理的な効果は無くなるに等しいので、自らの影響力と発言力を高め、かつ他国・他者による介入を防止するなら、いつでも使える状況に置きつつ、使わないのが賢明だと考える」と話していました。

よく似たことは、ハマス壊滅を目指し、ガザ地区をとことん破壊しているイスラエル政府とイスラエル軍にも言えます。

公式には核兵器の保有を認めていませんが、イスラエルが核兵器を保有することは、いわば公然の情報であり、10月7日のハマスによる同時攻撃の直後には、政権内の極右勢力を中心にガザ・ハマスに対する核兵器の使用を進める声も上がりました。さすがにネタニエフ首相もすぐに否定していますが、それは「必要があればイスラエル国民とユダヤの土地を守るために使用することを厭わない」という決意にも解釈できました。

空爆に地上作戦と、圧倒的な力をもってハマスに対峙するイスラエル軍ですが、“ハマスの残党”を殺害するための作戦は、もうすでに3万5,000人近いガザ市民の命を奪い、攻撃による死亡を免れても、イスラエルによるガザ地区封鎖措置とインフラ施設への攻撃により、ガザ市民の人道状況は劣悪な状況に陥っていることが分かっています。

昔でいう兵糧攻め・水攻めのような様相も窺えますが、「ハマスの壊滅」という目標を掲げるネタニエフ首相とイスラエル軍は、その攻撃の手を緩めることはありません。

アメリカがイスラエルを見捨てることが出来ない理由

とはいえ、望めばガザを軍事的に制圧してしまえる十分な力を持っているにも関わらず、それを使わずに、ネタニエフ首相とイスラエル軍は一体何をしようとし、目指しているのでしょうか?

残酷な言い方をすれば、ガザ在住のパレスチナ人を生贄にして、イスラエルの生存と存続に向けた非常に強い欲望と、周辺のアラブに対する恐怖を跳ね返すための覚悟を見せるために、こちらも反抗しようがない人たちをいたぶり続けているのでしょうか?恐怖を植え付け、二度と反攻し、イスラエルに存在の脅威を与えないように。

10月7日直後から、イスラエルとハマス双方にチャンネルをもつカタール政府が仲介に乗り出し、ガザと物理的に隣接し、地域における影響力を誇示したいエジプトと、イスラエルの抑止力となり得るアメリカ政府が仲介に乗り出しますが、これまでに何度かお話ししているように、イスラエルとハマスの代表の直接交渉・協議は表向きには実現しておらず、常にカタールを通じた間接的な交渉に留まっています。そしてエジプト政府は協議の場所を提供し、アメリカがイスラエルを宥めるという構図が選択されているのですが、絶え間ない努力とアイデアの提供を通じた折衝も、【イスラエルのニーズと懸念】と【ハマスの要求】の間の溝を埋めることが出来ておらず、交渉による問題解決の扉は閉まりかけている状況です。

この状況はイスラエルとハマス双方に態勢の立て直しのチャンスを与えていますし、イスラエルに対しては念願のハマス掃討と、パレスチナへの本格攻撃の口実を与えることになっています。

世界の目はラファの悲劇に向けられていますが、その背後ではヨルダン川西岸へのイスラエル軍による絶え間ない攻撃が存在しますし、一度は停止していたはずのガザ北部での軍事作戦も本格的に再開されており、イスラエル政府とネタニエフ首相はじわりじわりとパレスチナへの侵攻の範囲とレベルを高めて、あわよくばパレスチナを壊滅させてしまおうと動いているようにも見えます。

ネタニエフ首相によるラファへの本格的な侵攻の予告と、その実行を予見させる部隊の集結という示威行為は、同盟国のアメリカ政府のレッドラインも超え、国内外で広がり高まるバイデン政権への批判と反イスラエルの動きにも押され、久々にアメリカ政府がイスラエル政府に対して、これまで行ってきた武器提供を停止すると圧力をかけて、アメリカがレッドラインと明言するラファへの“本格的な”軍事作戦と人道状況のこれ以上の悪化を食い止めるために、イスラエルの説得にあたっていますが、ご存じの通り、ネタニエフ首相は聞く耳を持たず、意固地になって「イスラエルは単独でも必要なあらゆる作戦を実行するし、その遂行のための武器は十分ある」と表明して頑なな姿勢を変えようとしません。

そのような姿勢に対してアメリカ政府は、明言は避けるものの、これまでに供与したアメリカ製の武器がガザで使用され、一般市民に多大な被害を与えていることは国際法・国際人道法違反の可能性が高いと認めているものの、煮え切らない姿勢に非難がまた高まっています。

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、2019年から2023年までにイスラエルに対して提供されている武器の70%以上がアメリカから行われており(30%弱がドイツから)、今、ガザで行われているイスラエルによる一般市民の殺戮の責任はアメリカにもある可能性が高いという非難が飛んでいます。

でもここでアメリカがイスラエルを見捨てることが出来ない理由が、このところ、アメリカが去った後、その穴を中国とロシアが埋めるという傾向が鮮明になっており、アメリカにとって長年、中東・欧州地域の戦略的なパートナーとしてのイスラエルに中国とロシアが接近して、武器供与を行うことで、イスラエルのアメリカ離れが起きることは決して許容できないという立場もあります。

イスラエルとの国交断絶を宣言する国々も

それには何としてもイスラエルによるラファへの本格侵攻を止める必要があり、それと並行してイスラエルを戦闘停止に向けた協議のテーブルに就かせるという難題にアメリカは向き合わなければならなくなっています。

ラファへの本格侵攻を止められないことは、つまりバイデン政権の対イスラエル・中東外交の失敗を印象付けることになってしまいますが、今、アメリカ政府内で問題になってきている大きな焦りと答えの出ない問い【イスラエルはこれからもアメリカにとって必要な戦略的パートナーなのか?それともアメリカを中東に引き戻す重荷になってしまったのか】に向き合うと同時に、ネタニエフ首相に対する“恐れ”も抱いているようです。

国務省の高官が呟いたのが「ネタニエフ首相は保身のためにアメリカの忠告に一切耳を貸さず、我が道を突き進み、アラブ・パレスチナ・ハマスこそがイスラエルの存在を深刻に脅かす存在と確信して、圧倒的な力を用いてその排除に動くのではないか。その場合、アメリカはイスラエルを支持することはできないし、ましてやイスラエルの愚行の責任を負わされることがあってはいけない」という内容でした。

そしてさらには、「イスラエルは今、自らの手でホロコーストを再現し、アメリカはイスラエルの最後の友好国としてそれを目撃し、世界から激しい非難を受ける恐れがある。それを何としても食い止めないといけない」と述べていました。

その見解は実はグローバルサウスの急激な反イスラエル傾向を加速し、「イスラエルとハマスの戦いは、もう中東の地域紛争に留まらず、国際社会の分断のシンボルになっている」という見解に代表されているように思います。

すでに南アは国際司法裁判所(ICJ)に“ガザ侵攻はジェノサイド”と訴えており、それに加えて「ラファへの侵攻はガザのパレスチナ人の生存を脅かすことは明白であり、ICJはイスラエルに対して緊急的な停止命令を出すべき」と主張し、それにトルコ政府と、仲介役であるはずのエジプト政府も訴訟に参加する状況になってきています。

またエルドアン大統領(トルコ)の反イスラエルに拍車がかかり、ついに「イスラエルはテロ国家であり、ネタニエフ首相はヒトラーだ」と痛烈な非難を行っていますし、G20の議長国ブラジルのルラ大統領は「イスラエルが行っているガザ侵攻こそがホロコーストであり、ホロコーストの被害者たるユダヤ人が今度はホロコーストの実行役に成り下がっている状況に重大な懸念を抱くとともに、最も激しい表現で非難する」と反イスラエル勢力の波が広がっています。

そして5月1日にはコロンビア、ボリビア、ベリーズ、チリがイスラエルとの国交断絶を宣言し、比較的親イスラエルだったインドやアルゼンチンも「イスラエルとの関係は継続するつもりだが、イスラエルによる行き過ぎた行動は非難に値する」と反イスラエル網に参加し始めています。

中ロはこれを機に、グローバルサウスの国々との連携を深めるべく、パレスチナ寄りのスタンスを示し、これまでにファタハ(パレスチナ自治政府)とハマスの代表を北京とモスクワに招いて今後について協議することで歩調を合わせようとしています。

イスラエル支持のはずの欧米諸国も分断が鮮明になってきており、ハマスはテロ組織という認識は堅いが、イスラエルの過剰な行動と攻撃には同調できないという姿勢が、現在、全米40以上の大学のキャンパスでのデモやフランスのENAやローザンヌ大学、シドニー大学などでの大規模な反イスラエル、そして自国政府のダブルスタンダードに対する非難の声が強まってきています――

(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』2024年5月17日号より一部抜粋。続きをお読みになりたい方は初月無料のお試し購読をご登録下さい)

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