■65歳アルバイトの現実「ドアマン募集」 | タマちゃんの暇つぶし

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日刊ゲンダイDIGITAL:65歳アルバイトの現実「ドアマン募集」という名の警備員の求人 面接官は「挨拶ができればいい」と繰り返した公開日:2024/01/25 06:00より転載します。
 
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https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/335185
 

警備員編

「ドアマン募集」に応募も実態は…(写真はイメージ)
 

 求人サイトで「ドアマン募集」を見かけた。ドアマンといえば名門ホテルの玄関に立ち、内外から来た宿泊客を迎える仕事。募集広告の惹句に「一流のマナーが身につきます」と書かれている。どんな仕事なのか興味津々で応募すると「面接にどうぞ」との連絡が来た。

 先方の事務所は山手線主要駅から徒歩12分の古ぼけたマンション。小さな応接室で待っていると、内田氏(仮名)という社長が現れた。

 部屋に入る前に内田氏が玄関に行くのが見えたので、応接室から身を乗り出してのぞくと、私の靴をチェックしている。きれいに磨いているかを確認したようだ。私は靴磨きが好きで、当日もきちんと磨いてきたので好感を得たはずだ。

 面接の最初に履歴書を渡すと、「いまお住まいのマンションは分譲ですか?」と聞かれた。

「ええ。ローンの返済は終わりました」

「なるほど」

 内田氏の声にどこか安心した響きがある。その理由はすぐに判明した。ドアマンとは名ばかりで、業務の実態は警備員、つまりガードマンなのだ。要するにお金に困っていては問題を起こす可能性があるというわけだ。そのためローンの残債もなく、年金をきちんと受け取っている人が好ましいということらしい。気になる仕事内容は……。

「都内の高級ブティックの出入り口に立ってお客さんをお迎えし、何かあったときに対処するのが仕事です」

「何かとは強盗とか万引ですか?」

「まあそうですが、実は事件性のある出来事はめったにありません」

「ということはずっと立っている……?」

「ええ。立ち仕事です。やってるうちに体も慣れますよ」

 どんな人材を求めているのかを聞くと、

「一にも二にも、人柄がしっかりしている人です。弊社に業務連絡をするときや、お店の警備に出勤したときに『おはようございます』と挨拶できる人です」

「人間として挨拶は当たり前でしょう」

「いやいや。世の中には『おはようございます』『お疲れさまです』の基本的な挨拶ができない人がいるのです。それが現実です」

「へえ~」

 要するにちゃんと店に行き店員に挨拶し、立哨中に不測の事態に対応できればいいわけだ。

 仕事は午前11時から午後9時まで。日当は1万円。途中1時間の食事休憩と夕方に30分の休憩が取れる。何か質問がありますかと聞かれたので、念のため、

「私は大卒ですが、大卒は不利でしょうか?」

 すると内田氏は「愚問だよ」というような表情で、

あのですね。大学を出ていようと知性があろうとなかろうと、挨拶ができればいいんです」

 短い時間だったが、内田氏は「挨拶できる人」という言葉を4、5回使った。彼の話を聞いていると、右も左もマナーを身につけていない人物だらけという錯覚を覚えてしまう。

「では採用の場合は明日連絡します。夕方電話しても大丈夫ですか?」

 内田氏の言葉には「あなたを採用で決まり」という好感触がにじんでいる。思ったとおりだった。翌日の午後5時、「採用」の連絡をもらい、研修を受けることになった。ところが、この研修が軍隊式のため戸惑ってしまったのだった。  =つづく

(林山翔平)
 
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続編

65歳アルバイトの現実「気をつけ!」「敬礼!」ドアマン警備員のバイト研修で軍隊式訓練の驚愕公開日:2024/01/26 06:00

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https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/335242
 

警備員編

まるでドラマで見るような警察の捜査会議…

 というわけでドアマンのバイト面接に合格。ただし、ドアマンといっても、実際は都内の高級ブティックの出入り口に立つ警備員のような仕事だ。採用されたのも警備会社だった。

 数日後、研修を受けることとなった。マンションを改装した事務所の小さな会議室に私を含めた4人が集められ、全員が着席する。

 定刻になった。講師の加藤氏(仮名)が4人に向かって「はい、起立!」と掛け声をかける。声の調子が軍隊式なので戸惑ったが、他の3人はこうした研修に慣れているようで、さっと立ち上がる。

「敬礼!」──。加藤氏の指示に彼らは直立不動で頭を下げる。何だこれは? まるでドラマで見る警察の捜査会議ではないか。

 講師の加藤氏は元警視庁の警察官で、この警備会社の顧問を務めている。そのため警察や軍隊の統率方法を採用しているわけだ。あとで聞いたら、3人とも警備員の経験者で、こうした軍隊式の研修に何の違和感も覚えないそうだ。

 加藤氏はまず自分の職歴を語り、次に会議室の壁に掛けている警備指導員の免状を指し示して「私はこうした資格を得て研修の講師をしているわけです」と説明。その際、彼は右手に持った交通誘導灯(工事現場などで誘導員が持っている道具)で免状をボンボン叩いていく。少し乱暴だ。というより、これは一種の威嚇だと思う。シェパード犬の調教のように最初にガツンと上下関係をはっきりさせようという意図が見え見えだ。私はこうした姿勢を「支配的労務管理」と呼ぶことにした。

 この日の研修は午前9時から午後5時まで昼休みの1時間をはさんでみっちり7時間。警備員の心得などを聴講したのだが、意外なことに「人権とは何か」という法律論にも触れた。せっかくの法律の講義なので興味深く聞き、途中で何度も質問した。そのたびに講義がストップするため、周囲の3人が迷惑そうにこちらを見る。

 面白かったのは警備業法のくだりだ。加藤氏が長い文章を読み、「警備業法第49条にもあるように」と言った。そこで「第49条とはどんな条項ですか?」と聞くと、彼は「ちょっと待ってください」と言い、慌てて手元の資料をめくり始めた。ところが、なかなか当該の説明ページが見つからない。焦った加藤氏がページをめくりながら言った。

「少々お待ちを。なにしろ長年研修をやってますが質問を受けたのは今日が初めてなもので……」

 そのあとは私が質問をするたびに加藤氏が「ご理解いただけますか?」と聞き、「少し納得がいきませんが、時間がないので次にいきましょう」「はい」と、こちらが主導権を握る格好になった。

「気をつけ」「敬礼」についてこんな儀式が必要なのかを加藤氏に聞いたが、「けじめは大切」と譲らない。

 翌日は車いすの押し方や「えいえい!」と掛け声を上げつつ警棒を振る練習などを経験した。

 通常こうした研修では正規の7、8割にあたる日当が支給されるそうだが、この会社は支給なしだった。ともあれ都合3日間の研修を経て、私はブティックのドアマン警備員となった。

(林山翔平)
 
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続々編

65歳アルバイトの現実業務内容は「ただ立っているだけ」…実に単調だが、これがキツイ公開日:2024/02/07 06:00

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https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/335795
 

警備員編

日当1万円。わたくし、デビュー

「ついにこうなった……」──。鏡に映った自分の姿を見てつぶやいた。「ドアマン募集」に応募したはずなのに、何のことはない、仕事の実態は警備員だった。ただし、子供のころに見ていたテレビドラマ「ザ・ガードマン」とはいささか趣が違う。警備会社から貸与された紺のスーツに深紅のネクタイ。「警備」の文字の腕章をはめて繁華街の店舗入り口に立つ。スーツ一着がウン十万円の高級ブティックだ。

 初日はベテランの佐橋氏(仮名)から指導を受けた。店舗近くの路上で待ち合わせし、ネクタイを締めて店の正面ドアの前で待っていると、女性スタッフが中に入れてくれた。佐橋氏は慣れた足取りで店内を歩き、奥のドアを指さして「荷物はここに置いてください」という。そこは2畳にも満たない狭い物置だ。床にカバンを置き、ドアのすぐそばに立つ。

 まもなく女性スタッフの「オープンします」の声でドアが開き、ブティックの一日が始まった。日当1万円。わたくし「林山警備員」のデビューだ。

 まずは佐橋氏が立哨を開始。私は少し離れたところで見学する。1時間経過したところで仕事内容を理解できた。ドアマン警備員の業務とは何か。それは、何もしないことである。白い手袋(「白手」と呼ぶ)をはめた両手をへその下で組み、背筋を伸ばして立つ。たまに客が入ってくると「いらっしゃいませ」と軽く会釈する。それ以外は無言。つまりは立っているだけ。

 強盗でも現れたら刺激的だが、ロレックス専門店でもないかぎり、そんな珍事が起きるはずもない。実に単調な仕事である。

 初日に思い知ったのは警備員とは“身分の低い”職業ということ。たとえばトイレ問題。店舗の奥にはきちんとしたトイレがあるが、警備員が使うことは許されない。では大小便はどうするのか。佐橋氏に聞くと──。

「近所にセブン-イレブンとファミマがありますから、そちらを使ってください。あとは駅のトイレ。改札の外にあるので誰でも入れます。雨や雪の日は傘をさしてトイレに行ってください」

 要するに店長をはじめ販売の女性スタッフと同じ空間にいるものの、こちらはあくまでも、ただの出入り業者であり、一緒に働く仲間ではないということだ。販売スタッフに軽々しく声をかけるのもご法度。笑い話のようだが現実の話だ。

■呼び方に感じる身分の垣根

 業務中、私は女性スタッフを「〇〇さん」と名前で呼ぶが、彼女たちは「警備員さん」としか呼ばない。そこには身分の垣根がある。

 もうひとつ気づいたのが、カバンを置く物置に洋服が並んでいることだ。新作デザインが所狭しと吊り下げられている。防犯カメラもない。 面接の際に私が住宅ローンを完済したと伝えると、面接官が安堵の表情を浮かべたのは、お金に困っていないことを確認できたからだ。万一、多重債務者だったら、新品の洋服をこっそり持ち帰り、ネトオクで売るかもしれない……。そんなことを考えながら初日の勤務は終わった。 (つづく)

(林山翔平)
 
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