■「歴史修正抜き」「核抜き」は絶対。“もしトラ論議”で自称保守派こそが目を覚ますべき理由 | タマちゃんの暇つぶし

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MAG2 NEWS:「歴史修正抜き」「核抜き」は絶対。“もしトラ論議”で自称保守派こそが目を覚ますべき理由2024.03.21より転載します。
 
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https://www.mag2.com/p/news/595370
 
Former,President,Donald,J.,Trump,Kisses,American,Flag,At,Arriving
 

いよいよ現実味を帯びてきたトランプ前大統領の再選。アメリカにあらゆる面で大きく依存する日本でも“もしトラ議論”がかまびすしい状況となっていますが、作家で米国在住の冷泉彰彦さんは、安全保障における議論が「悲惨なぐらいダメ」と厳しい評価を下しています。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では、トランプ氏の返り咲きが日本にもたらしかねない危機的状況を、考えうる2つのシナリオを提示しつつ考察。「自主防衛論」を議論する上で重要となってくるポイントを解説しています。

※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:「もしトラ」騒動、現状は最悪

日本の代表として極めて見苦しい麻生太郎の「チョロチョロ訪米」

(~前略)日本においても「2期目のトランプ」への対策が必要なのは認めます。3月4日に発売になった『ニューズウィーク日本版』で特集がされており、私も書きました。

「日本企業への妨害」と「日本切り捨て」のリスク…トランプ復活で、日本は最大の標的に?

安全保障と貿易を中心に「もしトラ」懸念というのがあるのは事実だと思います。問題は対策、論議といった対応が現時点では「最低」であることです。特に安全保障論議が最悪です。

最悪というよりも、もう悲惨なぐらいダメだと思います。どのぐらいダメかというと、戦後多くの先人達が築いてきた平和と安定、そして豊かさの多くが吹っ飛んでしまうぐらいダメということです。3つ真剣に心配があります。

1つは、現時点での対策がひどいということです。何でも、この1月に自民党の麻生太郎氏がワシントンに行ったそうなのですが、その際に「トランプ前大統領には大統領時代、何度も会ったことがある。とても話しやすく、ユニークな人だ」などと、アメリカのメディアに対して、トランプへのヨイショをしたそうです。

更に、この1月のタイミングで、麻生氏は「トランプ陣営の関係者に面会したらしい」とか、「真剣にトランプ本人に会おうとしていた」と報じられています。こうした行動については、民主党のバイデン政権への配慮から「外交儀礼上マズイ」という声が、日本政府周辺から出ていたそうです。

本当にひどいと思います。バイデンを怒らせるとか、4月の岸田訪米をブッ壊すということが心配なのではありません。アメリカがここまで「おかしく」なっている中で、日本がそれなりに「二股をかける」のはサバイバル戦略として、別に恥ずかしいことではないからです。バイデンの周辺は怒るかもしれませんが、どうせ、麻生氏にしてみれば「岸田はもうすぐポイ」で「上川陽子氏に乗り換え」ということを考えているかもしれず、4月の岸田訪米の成果など期待していないのかもしれません。

そうではなくて、麻生氏がこのようにチョロチョロするというのは、日本の代表として極めて見苦しいからです。では、当選しただけで就任前のトランプに会いに行った安倍晋三氏とどこが違うのかというと、あの時は、安倍氏が早期に面会に行ったことは、「トランプとしては内心嬉しい」つまり「俺様を重視しているな」という好感という感じになって効果としてはプラスになった可能性が高いからです。

ですが、今回は逆です。「アソーというのは、爺さんだが元総理だろ」というぐらいは理解しているはずで、その「アソーが俺様を恐れて右往左往している」というのは、「面白え」と思っているはずです。安倍晋三氏の時は「あのヤロー、俺様の先手を打ってきやがって、やりにくいぜ」というような感触だったのかもしれませんが、今回は「これは面白えな、日本はこの際、徹底して困らせてやろうか」というような、軽視に加えて「危険な誘惑を感じ」させる効果があった可能性があると思います。

とにかく、麻生氏だけでなく、「もしトラ」問題の最大の問題は、これは現実に現在進行形で動いている「相手のある話」ということです。トランプという、史上最悪の変人奇人に対して、こちらの「手の内を見せる」とか「狼狽している姿をさらす」というのは、最悪手です。

「米韓同盟崩壊」により現実のものとなる日本の危機

2つ目は、自主防衛論です。トランプが、真剣にNATO脱退を考えているのであれば、これは日本にとって非常に危険な状況となります。それは、トランプのアメリカがNATOから脱退したら西側同盟の崩壊が進むし、トランプのアメリカは更に日米安保も壊して在日米軍を撤退しようとするからだけではありません。

一つ考えられるのは、仮にトランプのアメリカが「NATO脱退」を進めようとしても、そう簡単ではないということです。世界は大きく揺れるし、当然に株式市場は動揺するし、さすがに欧州をプーチンに渡すのかという話になります。プーチンに対しては、まずバルト三国を蹂躙していいというメッセージになるでしょう。

いくらトランプがプーチンに調略されていたとしても、さすがに世論が許さないということはあります。その場合に、NATO脱退というのは時間がかかると考えられます。そうなると、トランプは支持者を満足させるために、別の「それほど抵抗のないドラスティックな撤退」をやりたくなる可能性があります。

その場合には、まず韓国が狙われると思います。日米安保を壊すより、米韓安保の方が「比較的簡単」だと考える可能性があるからです。日本では「米韓同盟崩壊で済めば御の字」的な意見がありますが、トンデモありません。日本の危機はこれによって現実のものとなります。

韓国が米国に見放された場合に、まず北朝鮮が対等合併を言う可能性があります。興味深いのは、つい最近、北は憲法を改正して南北統一を放棄しているのです。ですが、トランプに見放された韓国が、左派政権であった場合は、北朝鮮へ関係改善を申し入れて、その際には対馬海峡の防衛強化を命じられるでしょう。

つまり韓国は自動的に権威主義陣営に行ってしまい、日韓の国境がホットになるということです。その場合ですが、トランプは仮に「日米安保を放棄しない」にしても、韓国の北朝鮮陣営入りを前提とした日本の安全保障対策を「全て日本のカネとリスクでやれ」と言ってくるかもしれません。

たぶん、これは相当に危険なシナリオだと思います。その恐ろしさを考える前に、もう一つの可能性、つまりトランプがNATOと日米安保を並行して壊しにかかる場合をシミュレーションしてみたいと思います。仮にこれを「シナリオA」としておきます。

「シナリオA」の最大のポイント

この場合の日本の選択としては、勿論、孤立して単独武装するなどというのは、危険すぎます。従ってシナリオAの最大のポイントは、日本がNATOに入るということになります。NATOは相互防衛義務があり、欧州の局地戦に日本が巻き込まれる可能性はあります。ですが、これを避けて、しかも日本の安全を保障する枠組みはありません。

残りは国連ですが、国連の中の西側有志連合を作って、相互防衛義務のない集団安全保障条約のようなものにしても、何の役にも立たないでしょう。そもそも、国連には権威主義の陣営も入っていて拒否権も持っているのですから、国連の枠組みで日本を守るというのは成立は難しいです。ですから、既存のNATOに日本が入るということは、やはり真剣に検討すべきチョイスになります。

その場合には、集団安保を組んで、しかも相互防衛義務を負うとなれば憲法改正は必須になります。正規軍を編成し、恐らくは2000年代のドイツと同じように、敗戦国の汚名を良いことに防衛出動をサボっていた時期を「取り戻す」ために、対海賊作戦にしても、あるいは反テロにしても、いきなり危険な作戦に参加する可能性はあります。その場合は、まさにドイツと同様に損な役回りをこなして信用を勝ち取るしかありません。

次ページ:相当に屈辱的な状況になる「シナリオB」

とにかく韓国を引き入れて対馬海峡を対立の海にしない

このNATOの枠組みには、とりあえずメリットが2つあります。1つは中国との経済関係は西欧もかなりあるので、中国の利害と鋭角に対立することはないということです。もう1つはロシアを刺激しますが、欧州と日本では2正面作戦になるので、抑止力が作用するということです。

この「シナリオA」の留意点としては、日本が速断して先行し、その上で韓国を引き入れるということです。韓国が保守政権のタイミングで、西側同盟に残留する決定的な要件として、とにかく韓国を引き入れて対馬海峡を対立の海にしないというのは大切です。

可能性としては微妙ですが、韓国が先にトランプに切られた場合に、日本より先に韓国がNATOに入った場合には、日本が遅れて加わるのはアリだと思います。ですが、韓国はトランプに切られた時点で、カオスになって北と連携する可能性があるので、日本より先にNATO入りという可能性は低いと思います。ただし、仮にそうなった場合、日本が韓国に続いてNATOに入る、例えばですが、日米同盟を切られる前にNATOに入り、NATOに相互防衛義務を約束して、日米安保も同様に改定して同盟を維持するというのは成立すると思います。

相当に屈辱的な状況になる「シナリオB」

問題は「シナリオB」です。トランプが韓国を先に切って米韓同盟が消滅、保守政権が倒されて左派が北朝鮮との同盟を選択するという場合です。その場合には、全てが難しくなります。まず、権威主義諸国は朝鮮半島全体が勢力圏に入るので、一気に東アジアの地政学面で有利なポジションに立ちます。

そのような状態で、日本が仮にNATO入りを要請しても、事態がそこまで厳しいのであれば、西欧は東アジアの紛争に自動的に巻き込まれる可能性から、日本の加盟を拒否するかもしれません。そうなって、その上でトランプが日米同盟も切ってしまうと、日本は完全に孤立することになります。

その場合は、中国に大きく妥協をして、中国の懐に入って北海道の保全をするというような屈辱的なシナリオしか残りません。尖閣だけでなく、先島も差し出し、中国艦船の南西諸島寄港を許しというようなことで済めば御の字という感じで、それでも主要四島の独立が保持できればという感じになるかもしれません。

一つのアイディアとしては、トランプが先に米韓同盟だけを切った場合に、日本外交としては、欧州などと結託して韓国を中国に接近させ、更には中露の関係を切り離すのです。そのようにして、中国には朝鮮半島の勢力圏入りを認めて、その代わり北海道の保全に協力してもらうように要請する、そんなシナリオです。これでもかなり屈辱的ですが、何らかの安定を確保することにはなると思います。

いずれにしても、AとBを比較すると大きな差があります。Aの場合は、確かに憲法改正は必要だし、NATOとの連携で、例えばバルト三国の防衛とか、北海や地中海での作戦などに日本は駆り出されます。また中東で欧州が関与するトラブルが発生した場合にも巻き込まれます。ですが、領土は保全され、自由と民主主義、言論の自由は確保できます。

ですが、Bシナリオの場合は、相当に屈辱的な状況になると思います。そして、一旦失った自由、失った領土というのは、取り返すのは非常に難しくなります。そう考えると、「もしトラ」論の中で結構耳にする、トランプが切り捨てるとしても、「日本よりまず韓国でしょ」という説は、実は危険極まりないことがわかります。

「韓国の売るケンカを買い続ける」という危険

3つ目は「国のかたち」の論議です。具体的には韓国併合以降の歴史認識の問題と、核武装論です。「もしトラ」論議を契機に「自主防衛」を真剣に考えないといけないというのは、これは逃げられないと思います。ですが、まず歴史認識に関して言えば、例えば「韓国の売るケンカを買い続ける」とか「靖国参拝を正当化し続ける」というのは、非常に危険です。

とにかく、自主防衛論、憲法改正というのなら、保守の勝利になる、ならば歴史認識も修正主義で枢軸日本の名誉回復でオッケー、というのは余りにも考えが浅すぎます。歴史修正主義を抱えていては、韓国との同盟は簡単に壊れてしまいますし、NATO入りなど夢のまた夢だからです。

そんな中、自衛隊は陸自も海自も靖国に集団参拝している、それどころか、海自の将官が靖国の宮司に天下りなどという、前代未聞の状況になっています。これでは、安全保障の正反対で、危険を保障するような話が公然と起きていることになります。勘違いも甚だしいと思います。

一連の「もしトラ」情勢の中で、自主防衛論議を進め、NATOなど西側の同盟の枠組みの中で相互防衛義務も負う、その上で、相互防衛義務を負うことで、日米安保も維持できれば御の字…これは話としては成立すると思います。ですが、そのためには、西側の相互防衛義務を負う自主防衛であるならば、枢軸の名誉回復とか、東條以下の合祀されている靖国に現代の日本の軍人が参拝というのは諦めてもらわないと困ります。

そんなことをしていたら、NATO入りとか韓国との連携などは吹っ飛んでしまうだけでなく、権威主義的な陣営が日本をターゲットにする口実を与えるだけです。孤立するだけでは済まず、国を失うことになります。東條英機などは、何のために犠牲になったのかと嘆いて化けて出るでしょうし、昭和天皇などは全人生をかけて戦後世界に日本の居場所が残るように生命を燃焼させたわけですが、そうした人々の犠牲も吹っ飛んでしまいます。

「核武装が日本の安全を確保する」という保守論客の勘違い

もう一つは核武装の問題で、トランプは相手が狼狽するのを見るために、「日本と韓国から米軍を撤退させる代わりに核武装を許す」などと言っています。そして、「もしトラ」の場合には核武装が日本の安全を確保するなどという「保守論客」がたくさんいます。これも勘違いです。

日本は衰えたとはいえ、技術大国です。そして平和目的の核サイクルの結果としてプルトニウムをかなり保有しています。ですから、そんな日本が核武装を宣言したら、世界の核の均衡は一変してしまいます。何よりもNPT(核拡散防止)の枠組みは瞬時に崩壊し、世界各国は核武装に走ると同時に、核の闇市場なども形成されてカオスに陥るでしょう。

とにかく、佐藤栄作が命をかけて取り組んだNPTというのは、確かに多くの例外が出てしまい、ボロボロではあります。ですが、曲がりなりにも今でも機能しています。日本の核武装宣言は、そのNPTを瞬殺してしまうことで、世界の安全の保障を壊してしまいます。

日本を追い詰めるオウンゴール行動をしかねない保守派

何度でも言いますが、自主防衛論というのは論議としては避けて通れません。NATOに入り、仮に日米安保が残った場合でも相互防衛義務を負うということはあるでしょう。ですが、そうした自主防衛が日本の安全を保障するためには、「歴史修正抜き」「核抜き」というのは絶対だと思います。そうでなければ、誰も味方をしてくれずに孤立するだけでなく、権威主義陣営からの攻撃の口実すら与えることになります。

現在進行形の「もしトラ」論議は、そこには必然性はあると思います。そして、「もしトラ」論議を通じて憲法改正や自主防衛をタブーなく論じるような「覚醒」が必要だと言うのも正しいと思います。

ですが「覚醒」が必要なのは、「相互防衛義務を負うのは戦争に巻き込まれるので嫌だ」とか「攻撃されたら逃げれば良い」、あるいは「領土は割譲しても人命優先」などと言っている一国平和主義の側だけではないと思います。

防衛強化イコール「核武装」と「枢軸日本の名誉回復」などと考えている自称「保守派」の方も目を覚ましてもらわないと困ります。これまでのアメリカは、この種の「親米保守」を甘やかしてきました。それは「国内向けの人畜無害なイデオロギーごっこ」だという理解をしていたからです。

確かに日本の保守派には「領土的野心」はないようです。ですが、それでも枢軸時代を含めた1910年以降の日本の歴史の名誉回復を志向するというのは、NATO入りを阻害し、日韓を引き裂き、最後は日本を追い詰めてしまうオウンゴール行動になってしまいます。

とにかく、日米安保が「ビンのフタ」になる中で、その瓶の中の「人畜無害の国内向け『保守ごっこ』」として続いてきただけなのです。この問題からの「覚醒」というのも、「もしトラ」論議の重要な部分だと思います。

※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2024年3月19日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ


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image by: lev radin / Shutterstock.com

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。


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