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情報漏洩は「絶対に許せない」
競艇界は2023年、約2兆3943億円もの売上を記録した。3年連続での最多売上記録更新とはならなかったが、ネット投票の普及を背景に業界は大いに潤っている。
ボートレース振興会から流れる潤沢な宣伝予算によって、テレビ局やスポーツ紙などは恩恵を受けており、連日のようにボートレースのCMが流れる一方、業界が抱える問題点を指摘するメディアもない。
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ボートレース2024年の宣伝。好調な売上を背景に大量のCMが流れている(ボートレース振興会公式サイトより)
そうした「ムラ社会」の実態は、前の記事『ボートレース界の絶対的権力者「競走会の天皇」が「八百長疑惑」を封殺…ファンを裏切る競艇界の「隠蔽体質」』で紹介した「ボートレース市長会」で明らかになったともいえる。
以下は、その市長会で、ある施行自治体の局長の言葉として紹介されたものである。
「今回の、情報漏洩の件(注:昨年1月の現代ビジネス記事『史上最高売上を達成の裏で…ボートレース界に忍び寄る、八百長スキャンダルの実態』を指す)は本当に由々しき問題であり、見過ごせない問題であると思っております。業界全体はもちろんですが、施行者、施行者協議会にとっても何のメリットもありません。ないどころか、デメリットしかなく、これは他人事として捉えているか、自分の事しか考えていない者だと思います。非常に残念で、施行者として、とても恥ずべきことであり、絶対に許すことはできません」
この会議出席者がため息をついて語る。
不正によって損害を受けるファン
「この局長は、この仕事にかかわるべきではありません。残念で、恥ずべきは臆面もなく不正を隠蔽しようとする自分自身ではないでしょうか。メリットと言うのであれば、まずはお金を落としてくれているファンのことを考えるのが先でしょう。
不正によって損害を受けているファンがいるのに、真実の告発を『許すことができない』とは、会長以下、何を考えているのかと思います」
もっとも、現在、モーターボート競走会の小高幹雄会長のまわりには、この局長のような「忖度人間」しかいないようだ。ここにはワンマン組織の典型的な病巣が垣間見える。前出の市長会で、ある市長は小高会長を露骨にこう持ち上げてみせた。
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「1人の不用意な行動(編集部注:情報をリークした人間を指す)がとんでもない事態を招くということを、いま一度、すべての職員が自覚しなければならないと思います。(年間売り上げが)2兆4000億超えたことで、全体が緩んでいるのかもしれません。二度とこのような事で会長の手を煩わすことのないよう、ここでキッチリとケジメをつけなければならないと思います」
「緩んでいる」のは全体ではなく、この市長本人である。ファンに対して不正に関する説明もせず「会長の手を煩わせるな」と内部で息まいているような施行者が、2兆4000億円ものカネを集めていいのだろうか。
競艇界が「恐れていること」
ボートレース市長会において、一連の関係者発言が紹介されたのは事実なのか。競走会に質問すると「会議の内容は非公開としている」という回答だった。
前述したように、競走会に自浄能力はない。そんな業界がひたすら恐れているのは、強制的な捜査権を持つ警察や検察の介入である。
また八百長による逮捕者が出た場合、今度は監督官庁の国交省が「全24場で開催中止」という措置に踏み切る可能性がある。これは憶測ではなく、前述のボートレース市長会で小高会長自身が「国交省からそのように釘を刺された」と述べているのだ。
そうなる前に、前掲の記事で触れた中村亮太選手のような疑惑レーサーをひっそりと業界から排除しようというのが、競走会と施行者協議会の「大方針」なのである。そこには、損害を受けているファンに対し説明責任を果たそうという姿勢は一切見られない。「レース中止」という最悪のシナリオだけは避けたい――ただその一心だ。
「実はいまもう1人、“中村方式”によって引退させられようとしている選手Xがいるのです」
そう語るのは、別の業界関係者だ。
業界から追放される「天才選手」
「Xは訓練生時代から超大型新人と目された天才選手で、デビュー節で優勝戦に進出するなど、必ずや艇界の未来を担う選手として期待されていたのです。ところがある時期から不正に関与しているという噂が広まり、昨年、突然レースのあっせんが止まりました」
競走会はすでに、X選手の「疑惑のレース」と「舟券購入者」を特定し、本人への聴取を終えている。近く、X選手は業界から締め出されることになるだろう。
「本人は疑惑を否定したと聞いておりますが、競走会が『Xをレースにあっせんするな』と施行者サイドに働きかければ、本人はレースに出たくとも出られません。中村選手のときとまったく同じ方法で、ファンに対し真相を明らかにしないまま問題児を排除しようとしているわけです」
競走会にX選手のあっせん停止についてその理由を聞くと、「個々の選手の名誉、プライバシーに係る質問については、明らかに公共の利害に係るもの以外は、回答できません」とのことだった。
内部で不正を認知しながら、それを公表せずに選手だけ引退させる――高い透明性が求められるはずの運営は、間違った秘密主義に支配されているようだ。
徹底隠蔽に必死の競走会
昭和の時代に日本を揺るがせた八百長疑惑「黒い霧事件」では、多数のプロ野球選手、オートレース選手が、故意の敗退行為を理由に業界から追放された。
このときプロ野球界、オートレース界では徹底的な調査が行われ、たとえ本人が不正関与を否定したとしても「追放」処分が下されたケースもあった。「オートの神様」と呼ばれた広瀬登喜夫は逮捕された後、いったん追放処分を受けたものの、刑事裁判で無罪が確定し競技に復帰している。
また2011年に発覚した大相撲の八百長メール問題では、多数の現役力士が引退勧告を受け土俵を去った。そのなかには八百長を否定していた力士も含まれる。この問題で、大相撲は開催中止(2011年3月場所)を余儀なくされた。
過去の事例を見てもわかるように、本気で不正の撲滅、組織の出直しを誓うのであれば、徹底した調査とその公表、そして関与者への「処分」が必要なのは当然である。西川事件以降、競走会がやっていることは「第2の西川が発覚することの徹底隠蔽」に他ならない。
いまの競走会の体質を憂う良識ある業界関係者がいる限り、内部告発がなくなることはないだろう。小高会長はいまいちど、ファンに信頼される組織作りに何が必要なのか、考えを改めるべきではないだろうか。
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貼り付け終わり、