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神戸に「日本のウォーレン・バフェット」と呼ばれる人がいる。藤本茂さんがその人で、御年87。株式投資で資産を築き上げ、総額18億円になる。バフェットとはかなり桁が違うが、高齢かつ現役投資家であることは同じだ。ご本人のトレードルームをのぞいてみた。
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【写真を見る】87歳にしてトレードに明け暮れる藤本さん
「これ、たぶん上がるよ」
12月某日、神戸市東灘区のマンションの一室で藤本茂さんが、パソコンモニターに映ったある銘柄を指さす。
テーブルにはモニターが3台。監視している1200銘柄から気になる株を選んでタイミングを待つ。壁にかかったテレビから、経済専門チャンネル「日経CNBC」が市況を伝えている。株価が下がり始めると矢継ぎ早に買い注文を入れる藤本さん。あっという間に700万~800万円分を約定する。それから腕を組み、ずっとモニターをにらんでいたが、この日、その株価は最後まで上がらなかった。
そう笑って当日の戦績を見せてくれた。トータルで1083万円のプラス。他の銘柄で利益を出しており、全体では“勝って”いたのだ。
「2023年は3億円ほどの儲けや」
そう話す藤本さんは一日に何十回も売買を行い、1株あたり5円、10円……と利益を積み重ねてゆくデイトレードをメインに取引している。一般にデイトレードは、速い判断が必要で高齢者には向かないといわれるが、ご本人は米寿が目の前。ただし証券会社や金融会社で働いたことは一度もない。
バブルで資産が5分の1に
貧しい農家に生まれた藤本さんは地元の高校を出るとペットショップに就職。カナリアの餌を買いに来た地場証券の役員の応対をしたことが、株を始めるきっかけだった。また、近所にサラリーマンが増えてきたことを知り、雀荘を始めたところ大当たり。3軒の店を売って専業投資家になった。1986年のことである。
「でも大損もしたよ。バブル崩壊では資産を5分の1に減らしてしもうたし、阪神・淡路大震災の被害で、しばらく相場から離れたこともあった。本格的に再開するようになったんはインターネット証券が登場してからやね」
以来、平日は朝からモニターの前に座り続け、トレード漬け。だから、足腰には気を付けている。
「一日が始まるんは朝の2時。コーヒーをいれて日経CNBCをつける。米国の市況を確認するんやが、4時に日経新聞が届けられる。朝飯は6時でパンだけ。それから40~50分の散歩に出かけるんや。ここいらは六甲山がある坂の街なので、運動にはちょうどええ。相場のない土日は2時間ぐらい歩いているな。8時に板(市場の注文状況)を確認すると、昼飯を挟んで午後3時までモニターの前や。相場が終わると一日の反省をやる。儲かっても儲からんでもこれは必ず。そして4時には寝る。晩飯は食べん」
「目標は180億円」
そう話す藤本さんの手元には売買した銘柄や価格、米国の市況を手書きでビッシリと記した分厚いノートが置いてある。
病気知らずの健康体というわけではない。16年には脳梗塞で入院し、しばらくして心筋梗塞にもなっている。
「それでも頭がハッキリしとるんは、いつも相場のこと考えているからやと思います。そんなに儲けてどうすると思われるかもしれません。けど、株が面白いだけ。僕はカードも持ってないし、スマホもない。儲けた金で何か欲しいわけやないんですよ」
目標を聞くと、
「今の18億円を180億円に増やすことやね」
その暁には、またトレードルームを訪ねてみたい。
週刊新潮 2024年1月4・11日号掲載
ワイド特集「『昇り龍』か『堕ちし龍』か」より
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