■ギクシャクの米中首脳会談。両国関係は和解不可能な敵対状態なのか? | タマちゃんの暇つぶし

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MAG2 NEWS:ギクシャクの米中首脳会談。両国関係は和解不可能な敵対状態なのか?2023.11.21より転載します。
 
貼り付け開始、

https://www.mag2.com/p/news/587933
 
th20231120
 

11月16日、約1年ぶりに開かれた米中首脳会談。2017年4月以来の訪米となる習近平主席を米政府は表向き歓待、友好ムードを演出しましたが、会談自体は「実りあるもの」とはなりませんでした。その原因はどこにあるのでしょうか。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』ではジャーナリストの高野さんが、双方の「米中関係の捉え方の相違」が何をやってもギクシャクしてしまう根源であると指摘。さらに中国は米国に代わり世界覇権の奪取など考えていないとして、その判断理由を詳細に解説しています。

※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2023年11月20日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール高野孟たかのはじめ
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

米中会談が実りの少ないやり取りとなった虚しさの根源

米中首脳が11月16日、サンフランシスコでのAPEC首脳サミットの機会に会談し、軍部トップのレベルを含め対話を強化していくことなどで合意したのは結構なことではあるけれども、そもそも両国間で世界理解とそれに基づく両国関係の現段階についての原理的認識が一致していないことが、このギクシャクして実りの少ないやり取りの虚しさの根源である。

和解が不可能な「敵対状態」ではない米中関係

すべての関係は矛盾である。形式論理では、矛と盾は絶対に相容れない、白か黒かという排他的な関係になってしまうけれども、弁証法論理ではそうではない。すべての物事の内部には相反する要素のせめぎ合いがあり、それこそがむしろ物事の発展をもたらすダイナミックな原動力である。それが弁証法上の「矛盾」である。

毛沢東によるまでもなく、矛盾には諸々の形態があり、その1つの肝要点が「敵対的=非和解的な矛盾」と「非敵対的=和解可能的な矛盾」とを見誤らないことである。その両者の違いは絶対的でなく、時機に応じて入れ替わったりして相対的なので、そこをどう見極めるかは世界理解にとって重要である。

私に言わせると、1972年以降の米中関係は基本的に「非敵対的=和解可能的な矛盾」の関係にあり、恐らく中国の指導部もそのように考えている。ところが、バイデン大統領を筆頭とする米国政界主流はそうではなく、米中関係は基本的に「敵対的=非和解的な矛盾」と考えている。この一番基礎的なところで双方の捉え方が食い違っているので、何をやってもギクシャクしてしまうのである。

米国のその捉え方は、20世紀後半を彩った自国による軍事的・経済的な覇権の衰退に対する恐怖感と、その裏返しの中国が自国を乗り越えて覇権を握ることへの不安感とがミックスした過剰な「中国脅威論」に根ざしている。しかしこの捉え方は間違っている。

第1に、本誌が30年来、繰り返し述べてきたように、15世紀のポルトガルから始まって16世紀のスペイン、17世紀のオランダ、18~19世紀のイギリス、20世紀の米国と変遷してきた海洋超大国による「覇権主義の時代」そのものが終了する。

この約600年のプロセスは、資本主義の勃興と、主として海軍力によって植民地を争奪し合った挙句、これ以上のフロンティアは宇宙にしか存在しないという段階に達し、水野和夫の言う「資本主義の終焉」が始まったという約600年と照応しているので、米国の覇権が衰えた後に新たな世界的覇者が台頭する条件がない。

つまり、米国は最後の覇権国であるのに、そのような自己(と世界との関わりについての)認識に到達することができずにのたうち回っているのである。

実際、中国は米国に代わって覇権を握ろうなどと考えていない。徐剛=立命館大学教授は近著『東亜(運命)共同体』(日本僑報社、23年9月刊)でこう述べている。「中国の人口は米国の4倍もあるため、多くの面で世界最大になるのはやむを得ないとして、米国に取って代わって『世界の警察』もなることには興味を抱いていない」と(P.154)。その通りである。

ちなみに徐教授は江蘇省生まれで、1983年に大阪大学に留学して以来40年に渡り同大学や立命館大学でロボット工学を研究、その途中で「Kyoto Robotics」を起業して社長を務め、米国でも活躍。21年に同社を日立製作所に譲渡し、以後、残りの人生を「東アジア主義者として生きることを決定」し、そのために著したのが本書である。

国際秩序を転覆しようとしているわけではない中国

第2に、そうは言っても、中国は第2次大戦後に米欧が中心となって築いてきた国際秩序を覆そうとして挑戦し続けているのではないのか?

徐は言う。「中国は現在の国際秩序をより公平なものに改革しようと思っているが、転覆しようとしているわけではない。現在の国際秩序は西洋が定義したものであり、西洋以外の国々にとって公平とは言い難い部分が多々ある。それを改革し、西洋以外の国々にももっと発展と参画の機会を増やすことは途上国の正当な権利であるだけでなく、先進国にとっても経済的に有益である」(同上)。異議なしである。

第3に、しかし中国のあの海軍近代化を中心とした大軍拡は米国を意識したものではないのか?そうには違いないがその目的はあくまで台湾有事すなわち「内戦再開」という万が一の際に米国が第7艦隊を中心として台湾側を支援するのを抑止することにある。

これも本誌が25年前から繰り返し分析してきているところで、1996年の台湾総統選で李登輝が当選しそうだと見るや中国は(江沢民主席の指示なのか軍部の独走なのかは不明だが)台湾沖にミサイルを撃ち込むという愚行に出、これに煽られた米クリントン政権が直ちに第7艦隊の2つの空母機動艦隊を台湾海峡に派遣するという強硬策に出た。ビックリ仰天したのは中国側で、それまでの100万兵士が決死で台湾海峡を渡洋して怒涛のように攻め込むという毛沢東流の幼稚な人民戦争型シナリオなど全く通用しないことを思い知った。

そこで初めて空母の建造に着手し、いざという場合に米第7艦隊に勝てないまでも接近を遅らせる程度の近代的海軍力を保有しなければならないこととなった。

あくまで「内戦」。日米有事などではない台湾有事

もちろん、中国の台湾政策は1950年代から基本的に不変で、あくまでも平和的統一を目指す。しかし万が一にも(すなわち0.01%であっても)「米国の支持を受けた台湾独立勢力」との「内戦」となった場合という想定は残しておかなければならない。ところがそれが、アッという間に台湾周辺の制海・制空権を奪われて中国軍が身動きも取れないというのではお話にならない。

それで始まった海軍近代化を米国が、第1列島線、第2列島線を突破して太平洋に進出、グアム、ハワイ、カリフォルニアを攻めようとしているなどと受け止めるのは、ただの誇大妄想でしかない。そんなことをして中国にとって何になるというのか。

徐も強調するように(P.103など)、仮に台湾で戦闘が起きてもそれは中国にとって「内戦」である。「中国は1つ」であり、台湾が独立するということは中国の領土の欠損に当たり、絶対に許容することはできないのでその場合には武力行使を躊躇わない。しかしそれはあくまでも内戦である以上、中国側から日本の米軍・自衛隊基地を攻撃してこれを外戦に発展させることは百害あって一利もなく100%あり得ない。

他方、米国なり日本なりが台湾を支持して介入すれば、それは内戦に対する外国軍の介入であり法的には「侵略」に当たり、ウクライナにおけるロシアと同様の国際法違反を犯し国際社会を敵に回すことになるので、米日は介入できない。だから台湾有事は米国にとっても日本にとっても有事ではない。

こんな単純な事実をも無視して役立たずのトマホーク400発を買うという岸田政権の方針は、二重三重の情勢認識の錯誤の上に成り立っていて、米軍産複合体がバイデンの口を通して発する営業トークに騙されているだけである。

自分の頭で世界情勢とその中での日本の立場を考えないとダメで、差し当たり徐教授のこの本を熟読するよう岸田首相にお薦めしたい。それでもっと基礎から勉強し直したいと思ったなら、毛沢東『実践論・矛盾論』(岩波文庫、絶版だがアマゾン中古で120円プラス送料で入手可)に挑戦するのがよろしいかと思う。

(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2023年11月20日号より一部抜粋・文中敬称略)

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。


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