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今回は「原発処理水の風評被害を作り出しているのは東京電力と政府の隠蔽体質」というテーマで、処理水の問題を考えていきます。東電は莫大なカネをバラ撒いて「原子力ムラ」を養ってきました。原発は儲かるので、とにかくやめられないのは、政府も同じなのです。国民の安心・安全より、カネと保身の一部の人間たちの処世が優先されてきたのです。(『 神樹兵輔の衰退ニッポンの暗黒地図――政治・経済・社会・マネー・投資の闇をえぐる! 』)
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※本記事は有料メルマガ『神樹兵輔の衰退ニッポンの暗黒地図――政治・経済・社会・マネー・投資の闇をえぐる!』2023年10月2日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:神樹兵輔(かみき へいすけ)
投資コンサルタント&マネーアナリスト。富裕層向けに「海外投資懇話会」を主宰し、金融・為替・不動産投資情報を提供。著書に『眠れなくなるほど面白い 図解 経済の話』 『面白いほどよくわかる最新経済のしくみ』(日本文芸社)、『経済のカラクリ』 (祥伝社)、『見るだけでわかるピケティ超図解――21世紀の資本完全マスター』 (フォレスト出版)、『知らないとソンする! 価格と儲けのカラクリ』(高橋書店)など著書多数。
本当に「安全安心」?信頼されない日本政府
処理水は、「安全安心」と報じられても、国民に正しい情報開示がなされなければ、不安の払しょくには到りません。
東電や政府には、本当に世界に向けて発信すべきことを正しく発信してもらわないと、われわれ日本国民としても困るし、将来への不安を煽られるだけだからです。
何しろ、これまで何度も暴露されてきた東電の隠蔽体質や、それを擁護してきた政府・経産省を信用できるのか――というのが第一に疑念として浮かび上がります。
それは、「原子力ムラ」といわれる伏魔殿に群がる連中の多くに、これまで騙され続けてきた過去があるからです。
これは、福島原発事故のはるか以前からの隠蔽の連続であり、それは根深く、罪深いものなのです。
東電は莫大なカネをバラ撒き、原子力ムラを養ってきました。原発は儲かるので、とにかくやめられないのは、政府も同じなのです。国民の安心・安全より、カネと保身の一部の人間たちの処世が優先されてきたのです。
風評被害を作り出しているのは、東京電力と政府の隠蔽体質
9月22日に社民党副党首の大椿裕子参議院議員が、X(旧Twitter)に投稿した「福島原発処理水」についての文言が、事実誤認で誤解を招く――として、ちょっとした物議を醸しました。
大椿氏の投稿は、「問題はトリチウムだけではないので、トリチウム以外の核種についても、継続して調べ、公表する必要があると思います」でした。
これがNHK配信の「処理水放出4回目もトリチウム濃度が検出下限を下回った」という記事の添付とともに投稿されたのです。
どうやら、大椿氏はトリチウム以外の核種についての公表がなされていない――と思い込んでいたための投稿だったようです。
国会議員という公人の立場なのに、うっかりきちんと調べもしないままにSNSに投稿してしまったわけです。たしかに、参院議員としての発言としては、うかつといえば、うかつです。
東電のホームページを見ると、確かに処理水に含まれるトリチウム以外の核種の放射線基準値以下のデータの公表もあるからです。
東電が公表しているのは国民騙しの超不親切データ
ただし、東電のホームページをご覧いただくとおわかりの通り、トリチウム以外の核種についての説明も、まるで素人にはわからないような記述であり、お前ら一般国民はバカなんだから、こんな細かいデータなんぞを知る必要もない――といわんばかりの超不親切データの公表にすぎません。
もっと素人にもわかる表記の仕方があるだろう――と突っ込みたくなる状況です。これじゃあ、トリチウム以外の核種データの公表もしている――といっても形ばかりなのです。これが東電の体質なのでしょう。
ましてや、政権べったり忖度のマスメディアの報道は、これまで「処理水」といえば「トリチウム水」といわんばかりの内容でした。
他国の原発が海洋に排出する、冷却に使っただけのトリチウムを含んだ原発処理水とまったく同じ――といわんばかりの偏向報道でした。
これまで、福島原発で「処理水」と呼んできたタンクに貯めたモノの中身は、炉心の核燃料が溶け落ちたデブリに直接触れた「危険な汚染水」であり、とりあえずALPSを通しただけの「処理途上水」であるにもかかわらず、そうした事実を意図的に避けるような報道をし続けてきたからです。
これでは、国民の多くは誤解します。
中国政府や韓国の反日人士が、「核汚染水」として煽り立てていることとの整合性がまったく取れていない報道内容だったのです。
何で、中国は科学的でない、政治的な主張をするのか?――などと国民の愛国心やら反中感情にすり替えて怒らせるだけのイメージ主体の報道で、「原発処理水」への国民の印象操作を行ってきた報道ぶりだったからです。
処理水には、トリチウム以外の放射性物質は含まれていないかのような報道では、こうなるのは当たり前なのです。
Next: 私たちは誤解させられている?隣国は何に怒っているのか
国民は無知だから騙してもよい?
ホントに日本のマスメディアは、政権べったりで、まともな事実を正直に報道しないために、国民に多くの誤解を生んでいます。
もとより、原発敷地内に並べられた1,000基以上のタンク内の水は、これまでは「ALPS処理水」と称していたのです。
国民は、そう思わされてきました。
トリチウムだけ除去できない、けれども希釈すれば、自然界のどこにでも存在する水と変わりないのだ――と。
しかし、このタンクの中身すら、2018年8月に正式に報道されるまで、東電は7割以上がALPSで処理できなかった「放射性物質の法令基準を上回っている水=処理途上水」であることをほっかむりしていたのです。
タンクの中身が「処理水」でなく、7割以上が「処理途上水」だったなんて、誰が知り得ましょうか。なめんなよ、東電――という状況だったのです。
この時点で、東電は「ホームページには個々のデータを載せていた――」などと言い訳をしていましたが、素人がこのことを把握するのは難しく、こういうのを「意図的な隠蔽」といわざるをえないわけだったのです。何で正直に言わないのか。
今頃になって、再度ALPSで処理して、トリチウム以外の放射性物質も法令基準値以下にします――と聞かされても、「えっ?」という感じだったのです。今までやってなかったのに、放出する段になって、ALPSで浄化できるのかよ?――とも思わされました。
何でそういうことを、はじめから堂々と正直に周知させなかったのか――すぐにも浮かぶ疑問なのです。
さらに海水で薄めることで、除去できないトリチウムについても、法令基準の40分の1にあたる1リットル当たり1,500ベクレル以下にしてから海洋に放出します――と告知されたわけです。
しかも、最初は少量ずつ放出し、環境への影響も監視するから大丈夫です。安心・安全です――などとやたらと言うばかりの主張をホントに信じてよいのでしょうか。
国民なんか無知だから、騙してもよい――そんな姿勢さえ窺えます。
地元漁連と国民を何度も騙してきたのが東電と政府
そもそも、東電は、政府の了解のもと、2011年3月の原発事故直後に数日間、低濃度の汚染水1万5,000トンを海洋放出しています。
高濃度の汚染水の海洋流失を止めて、その保管場所を確保するための措置だったのですが、この時には漁業関係者への事前通告さえしなかったのです。
しかも、無断放出後に茨城県沖のイカナゴから、基準値以上の放射性物質が見つかり、魚介類全体の価格が大暴落するという「風評被害」を起こしています(海外からも事前通告なしの措置に批判が起きた)。
そして、2015年9月には、汚染水の発生を減らすため、原発建屋周辺の地下水をくみ上げます。そしてこの汚染水をALPSで放射線濃度を下げ、一時的に海洋放出せざるを得なくなったのです。
しかし、その際、地元の漁連に了解を求めるも、風評被害を理由に断わられてしまいます。それは当然のことでした。無断放出をやって、信用ゼロだったからです。
しかし、今後は建屋内の汚染水については、処理後においても、一切海洋放出しないこと――を漁連に文書で約束し、何とか一時的な低濃度汚染水の海洋放出について、地元漁連の了解を取り付けたのでした。
それは、その当時限りの一度だけの海洋放出という約束のはずでした。
つまり、ここで交わされたのが「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」という有名な約束事だったわけです。
にもかかわらず、今回の処理水海洋放出を強行したのですから、約束違反もいいところです。約束は、東電と政府によって簡単に反故にされたのです。漁連の人たちが、やるせない思いで怒りを表出するのも無理からぬ話でしょう。
処理水の海洋放出が30年で終わる――というのも大ウソ
今は、国民の目が、「海洋放出」に向けられているので、東電も政府もとにかく神妙です。おそらく、現在は厳密なチェックが行われていることと思います。
しかし、これから30年も続くといわれる処理水放出です。
どうなることやら、懸念が膨らみます。
ましてや、この30年の期間というのも、いったいどこから出てきて「30年」になったのかも不思議なのです。「30年」が独り歩きしています。
将来行うとされる炉心溶融したデブリの除去や、全体の廃炉作業ですら、今の段階ではまったく目途が立っていないのが実情だからです。これから30年どころか、40年、50年、100年……いや永遠に続くやもわからないのが現状です。
何といっても、デブリの除去方法に「有効な手立て」が、今のところ一向に見つからないからです。ロボットアームを使えば、何とかなるかな――程度の甘い見通しだけしかないのです。
つまり、取り出し方法は、まだこれから開発中ということなのです。
「30年」という処理水の海洋放出の期間だけが、これまた勝手に一人歩きしているのが現実なのです。
高レベル放射性廃棄物(核のゴミ)の最終処分場も迷走して決まらない
原発の積極活用を掲げる岸田政権です。
しかし近頃、長崎県の対馬市の比田勝尚喜(ひたかつ なおき)市長は、「市民の分断を深めたくない」「風評被害が懸念される」という理由で、市議会の採択に反して、核の最終処分場選定に向けた第一段階の「文献調査」に応募しない――ことを決めています(大石賢吾・長崎県知事はもともと推進する立場にないと表明していた)。
もとより、最終処分場が必要とされたのは、青森県六ヶ所村の再処理工場で、原発から出た「使用済み核燃料」を化学処理し、再度MOX燃料として、原発の新燃料にするサイクル計画の予定があったからです(いわば、一度燃やしたウラン燃料のリサイクル工程なのですが、MOX燃料は実は天然ウラン原料価格の10倍も高い)。
ただし、この再処理工場自体が、1993年に建設が始まったにも関わらず、これまで26回もの完成延期となっており、稼働の目途が立っていません(試験的にフランスからMOX燃料を輸入する有様でした)。
本来は、再処理工場から出る高レベル放射性廃棄物の最終処分場を決めておかないとまずいわけでした(決めるまでに3段階の調査があり、20年はかかる)。
最終処分場とは、地中300メートルの安定した岩盤に使用済み核燃料を溶かした廃液とガラスを混ぜた高レベル放射性廃棄物「ガラス固化体」を埋めて処分する施設のことです(天然ウランの放射性レベルに落ち着くまで8,000年といわれ、化学処理していない放射性廃棄物の場合は10万年とされます)。
しかしまあ、このような再処理工場の未稼働といい、核のゴミの最終処分場の未確定といい、もはや日本の原子力活用の「核燃料サイクル」はすでにすっかり破綻しているのです。
それなのに、岸田政権は、原発推進の暴走が止まりません。
日本列島に「核のゴミ捨て場ナシ」の状況が永遠に続く可能性
核のゴミの最終処分場は、第一段階で2年程度かかる「文献調査(活断層などの地層を調べるなど)」に入ると、国から最大20億円、第2段階の4年程度かかる「概要調査(ボーリングなどで地質を調べるなど)」に入ると、国から最大70億円の交付金が得られます(第3段階の14年程度かかる「精密調査」の交付金は未定)。
過疎の自治体にとっては、これが呼び水となっており、現在は北海道の神恵内村(かみえないむら)と寿都町(すっつちょう)の2町村長が2020年に「文献調査」に応募しているだけです(鈴木直道・北海道知事はすでに2000年に制定されている「核のゴミは受け入れがたい」という条例を盾に反対の立場)。
なお、2007年に高知県の東洋町が初めて「文献調査」への応募があったものの、町長選で反対派が勝利して撤回されています。
したがって、日本で核のゴミの最終処分場の選定に名乗りを上げているのは、北海道の中でも過疎化に苦しむ2町村だけなのです。このたった2町村においても、今後はどうなるやもわかりません。応募に名乗りを上げて、最大20億円をゲットするだけで終わるかもしれないからです。
このように、日本の核燃料サイクルは迷走を続けており、将来が見通せないのが現状です。
それにもかかわらず、原子力ムラの圧力に抗しきれない、中身カラッポの岸田文雄政権は、原発推進の旗を勇ましく振っているのです。どうするつもりか、先行きのことなど、なーんにも考えていない実態がよくわかるのです。
処理水の問題だけではありません。日本における原発の問題は、非常に大きな問題を孕んでいるのです。
さて、今回はここまでといたしますが、日本列島に54基もある原発の現状には、もっとヤバい、非常に危険な要素が蔓延している実情があります。
次回のメルマガでは「危ないのは原発や処理水だけではない!使用済み核燃料プールの危険性について警鐘を鳴らさない、危険と隣り合わせの日本の現状」というテーマで、危機的なリスクを内包する現状をえぐっていきたいと思います。
どうか、次回をお楽しみに。日本のやばい原発の実情を知ってください。
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