講談社:2023.05.26 左半身の麻痺からリハビリで脱・要介護へ…経験者が教える「家族をラクに介護する方法」より転載します。
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https://gendai.media/articles/-/110599
 

老親やパートナーの介護で、腰や膝を痛めてしまう人は多い。これは、相手を強引に動かそうと力任せの介助を行っているからだ。体格差のある相手もラクラク介助できる、驚きの方法を教えよう。

きっかけは「介護される側」になったこと

「脳梗塞を患った私の左半身には、麻痺が残っています。そんな私のように非力な人でも、ポイントさえ理解すれば、体格差のある相手をラクに介助できるのです」

こう語るのは『写真と動画でわかる! 埼玉医大式 力がいらない介助技術大全』の著者、根津良幸氏(62歳)だ。

根津氏が自宅で脳梗塞を起こし倒れたのは、'99年12月7日のこと。社会福祉法人の副理事長・統括施設長として、新しい特別養護老人ホーム設立のため奔走している最中の出来事だった。

ICUに運ばれ、心肺蘇生と血栓溶解剤を使った治療でかろうじて命は助かったものの、当時38歳だった根津氏の体には左半身の麻痺という重い後遺症が残った。


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自力で起き上がることもできず、一日のほとんどを病院のベッドで寝て過ごす毎日。退院して自宅に戻っても、生活の目途は立たない。根津氏は、今でいう「要介護5」相当の状態だった。

介護の一切を家族に頼るしかなかったが、それも難しかった。なぜなら、根津氏の妻は重度の椎間板ヘルニアで腰痛に苦しんでいたからだ。調子が悪い日は、一日中立てないこともあるほどだった。

次ページ:腰の弱い妻に介護してもらうために

少林寺拳法がヒントに

腰が悪く介護経験のない妻に、どうやって自分の体を動かしてもらえばいいのか―。

必死に試行錯誤を繰り返す日々の中で、根津氏はかつて習っていた少林寺拳法の教本を寝床で手にした。かろうじて動く右手で教本を開くと、ある考えがひらめく。最小限の力で相手の体を動かして倒す少林寺拳法の技術が、介助に応用できそうだと直感したのだ。

「子どもの頃、私は少林寺拳法に熱中していたので、基本の考え方は身についていたんです」

こうして根津氏は、力がいらない介助技術の数々を、自らが介護してもらう側に立ちながら編み出していく。

そして2年8ヵ月にわたる療養とリハビリの後、根津氏はついに要介護状態を脱出できた。

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回復後、根津氏は老人ホームの統括施設長として職場復帰する。その後、区役所から乞われて介助技術の講師を引き受けたことが転機となった。

「講習会場で自分の考案した技術を伝えたところ、受講していた小柄な高齢の女性から『これで夫を介護できる』と泣きながら喜ばれたのです。

その姿を目の当たりにして、この技術を広めることが自分の使命だと感じました」

'07年に、根津氏は医療・介護教育を提供する会社を立ち上げた。力がいらず、腰にもやさしい介助技術の評判は徐々に広まり、'19年からは、客員教授として埼玉医科大学に招かれている。

次ページ:気になる具体的方法

「急所」を押さえて動かす

はたして根津氏が編み出した画期的な介助術とはいかなるものなのか。その最大の特徴は、「抱える」「掴む」「持ち上げる」などの動作を行わない点にある。

従来、介助のために不可欠だと思われてきたこれらの動作は、実は相手と自分に負荷をかけているにすぎない。

「相手の腕や足などを強く掴んだり、体を抱えようとしたりする介助の仕方は、自分の腰や膝といった部位に大きな負担をかけます。介助する側が逆に体を痛めてしまう例もあります。

また、高齢の方は皮膚と骨が弱くなっているので、力を加えると内出血や骨折といった怪我を負わせてしまう可能性もあるのです」

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そこで根津氏が推奨するのは、力がいらず、介助される側に怪我をさせる危険性も低い「引く」「押す」「まわす」などの動作を駆使する方法だ。

具体的には、(1)介助する相手の体を掴まない。(2)体の「要所」を押さえる。(3)体をまとめて接地面積を少なくするといった3つのポイントに大別される(下記イラスト参照)。

本誌

この画期的な介助術には気をつけなければならないポイントが存在する。後編記事「WG0527 ラクラク介助術(後)」ではそのポイント、そしてさらに「ラクに立ち上げる方法」について紹介する。

「週刊現代」2023年5月27日号より



 



後編記事

2023.05.26人間の「急所」を押えるといい! 知られざる「ラクラク介護術」が凄かった!経験者が語るより転載します。

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https://gendai.media/articles/-/110597
 
 



前編記事「半身の麻痺からリハビリで脱・要介護へ…経験者が教える「家族をラクに介護する方法」」で紹介した「急所を押さえて動かす介助術」には気をつけるべき点が3つある。後編では気をつけるべき点について解説し、さらに「ベッドに寝ている人をラクに起き上がらせる介助術」を紹介する。


気をつけるべき点について

(1)で気を付けたいのが、手の使い方だ。まず、指は握るのではなく、あくまでも膝や肩といった部分に触れるために使う(下記イラスト参照)。

「相手のことを強く掴んでしまうと、反射的に相手の体をこわばらせてしまいます。これで余計な力が入り、かえって介助に力が必要になってしまうのです」

相手の膝や腕を動かすときは「膝関節に指を軽く引っ掛ける」または、「親指・薬指・中指を手首の関節に引っ掛ける」だけにする。


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また、相手の体を起こすときも、抱えて抱き起こすのではなく、手首と指をまっすぐ伸ばして「内腕刀」をつくり、下からグッと押して起こす。

(2)は「人間の急所」を押さえるとも言い換えられる。人は急所に力を込めることができない。そのため、介助の際に急所を押さえれば、相手を動かしたり、逆に動きを止めて支えることが可能になる。主な急所は骨盤の出っ張った部分、肩甲骨と背骨の交点、骨盤と背骨の交点の3ヵ所なので、これを覚えておくと介助が格段にラクになる。

さらに(3)について、『写真と動画でわかる! 埼玉医大式 力がいらない介助技術大全』の著者、根津良幸氏(62歳)が続ける。

「接地面が小さいと人体は動かしやすくなります。腕や足を体の上で組んでもらえれば、介助者が体を持ち上げたり、まわしやすくなったりするのです」

次ページ:ベッドに寝ている人をラクに立ち上げる方法

ラクに立ち上げる方法

この理論をふまえて、ベッドに寝ている人を起き上がらせる動きを下記のイラストをもとに実践してみよう。根津氏が解説する。

「寝ている人の胸あたりに片膝をつきます。その後に(1)両腕をとり、肩のあたりで組ませましょう。次に、相手の片膝の裏に指を入れて引き上げます。反対の膝も同じように曲げて、体をまとめます」

相手の体をまとめた後は上体を引き起こす準備をする。その際、重要なのが、体を持ち上げるのではなく、まわす意識だ。

「(2)相手の胸の横に膝をつき、奥の肩を片手で軽く引き寄せます。そうして生まれた肩とシーツの隙間から、もう片方の腕を深く差し入れます。その後、腕をまわして内腕刀を作ってください。

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次に、(3)空いている手の指で膝に触れ、(4)膝を押して足がベッドから下りるよう導きます。肩に差し入れた内腕刀で相手の体を下から押し上げるようにまわして起こし、座った状態になったら相手がその姿勢に慣れるまで少し待ちます」

介助が必要な人を慌てて立たせてはいけない。転倒するリスクがあるからだ。根津氏の考えた方法では、その危険性を抑えるために、数秒待ってから立ち上がりの介助に移る。

「相手の足の間に両手のひらを外側に向けて腕を入れ、肩幅程度に両足を開かせます。その後、(5)相手の正面に立って、片足を一歩踏み出してください。

(6)両腕を肩に回してもらった後、(7)相手の腰に両手を回します。ポイントは中指と薬指で軽く触れること。そのまま、(8)力を入れずに『立ちますよ』と声をかけ、前に出していた足を引き、左右の足を揃えます。すると、力を加えずとも、相手の体が自然に立ち上がってくるのです」

次ページ:立たせた後にもやることが

立たせた後も油断は大敵

無事に相手を立たせた後も油断はできない。筋力が落ちたり、麻痺している方の体に体重をかけたりしてしまい、バランスを崩す事故が後を絶たないからだ。かくいう根津氏もリハビリの途上で、それを何度も経験している。

「初めてリハビリに取り組んだ時のことです。立たせてもらって歩こうとした私は、うっかり、麻痺している足から歩き出そうとして、顔面から転倒しました。鼻の骨を折って大出血したのです。

病気で人生の途中から障害を負った人は、できなくなった動きを無意識にやろうとして、転倒・骨折することがあります。転倒のきっかけとなる『無意識の一歩』が出ないよう支える方法が、必要だったんです」

そこで編み出したのが「体位保持」、すなわち麻痺がある人の体を確実に支える方法だ。

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(1)相手に両足を肩幅程度に開いてもらい、真後ろに立つ。相手の両足のかかとに爪先を密着させる。

(2)その後、片足を半歩引いてその爪先を斜めにする。健常な側の足を引くのがポイントだ。麻痺側にある足を引いてはいけない。

「(3)そのまま相手の脇の下からお腹のほうへ腕を回して、相手の骨盤を押さえます。この時に(4)自分の骨盤を相手の腰に密着させ、前後に倒れることがないよう支えてください」

この方法なら支えられている側は両手が空き、歯磨きやうがいといった動作も自分でできるようになる。

根津氏の元には、海外からも講習の依頼が届くようになった。'22年夏~'23年初めには、モナコやサウジアラビアなどで介助の技術指導にあたっている。

力のいらない介助技術が、世界各地で介護に悩む人々を救う日も近い。

「週刊現代」2023年5月27日号より

 


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