MAG2 NEWS:共同通信記者の酷い捨て台詞。H3ロケット打ち上げは本当に「失敗」なのか?2023.02.24より転載します。
 
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2月17日、発射直前に打ち上げを「中止」したH3ロケット。その後に行われた記者会見での、プロジェクトマネジャーの口から「失敗」という言葉を引き出したかったと思われる共同通信記者の捨て台詞に大きな批判が起こっていますが、果たしてこの打ち上げは「失敗」だったのでしょうか。今回の『きっこのメルマガ』では人気ブロガーのきっこさんが、「ある意味実験としては成功だった」としてそう判断する理由を解説。さらに「はやぶさ2」やスペースX社の例を上げ、予定通りに進まなかった宇宙開発を「失敗」と決めつける行為を疑問視しています。

共同通信記者が「失敗」にしたかったH3ロケット打ち上げ中止は本当に失敗か

JAXA(宇宙航空研究開発機構)は17日、種子島宇宙センターから新型主力機H3ロケット初号機の発射を予定していましたが、すでにカウントダウンに入っていた状況で、直前に中止されました。JAXAによると、主エンジン「LE-9」は発射予定時刻の6.3秒前に正常に着火しましたが、その後、主エンジンを含む機体の1段目の制御システムが何らかの異常を検知したため、補助の固体ロケットブースター「SRB-3」に着火する信号が出ず、発射の0.4秒前に中止したそうです。

国産ロケットの現在の主力機は、1994年から運用されて来たH2ロケットをベースに改良が施され、2001年から運用されて来たH2Aロケットです。しかし、すでに20年以上が経過しているため、H2Aロケットの後継機として開発されたのが、今回のH3ロケットでした。全長53メートル、直径4メートル、総質量445トンだったH2Aロケットと比べると、H3ロケットは、全長63メートル、直径5.2メートル、総質量574トンと、大きさも重さもひとまわり大きくなりました。

しかし、H3ロケットの開発目的の最重要課題は「打ち上げコスト削減」だったため、ロケット本体は大きく、重くなりましたが、1回の打ち上げ費用は、これまでのH2Aロケットが85~120億円だったのに対して、何と50億円にまでコストカットすることに成功したのです。しかし、本当の意味で「成功」と言えるのは、無事に打ち上がり、搭載していた地球観測衛星「だいち3号」が予定通りの軌道に乗った時点で言えることです。

プロジェクトマネジャーの傷口に塩を塗り込んだ共同通信記者

今回は、JAXAの岡田匡史(おかだ まさし)H3プロジェクトマネジャーが記者会見で、「中止自体は非常に大きなことと受け止めている」と述べた一方で、発射直前に制御システムが何らかの異常を検知して安全に停止したことを理由に「失敗とは考えていない」との見解を示しました。この見解は「一理あり」で、制御システムが正常に稼働せず、異常を見過ごして発射し、空中で大爆発…ということにでもなっていたら、それこそ「大失敗」だったからです。

しかし、今回の記者会見では、岡田マネージャーと共同通信社の記者のやりとりが切り取りで報じられ、こちらのニュースのほうがひとり歩きしてしまいました。「中止」という表現を繰り返す岡田マネージャーに対して、共同通信社の記者は「それは一般的にいう失敗なんじゃないですか?」と何度も執拗に質問を繰り返し、それでも岡田マネージャーが「制御システムが正常に稼働したことによる中止」と説明すると、記者は「分かりました。それは一般に失敗といいます。ありがとうございます」などと突き放すように言って質問を切り上げたのです。

記事にする上で、どうしても岡田マネージャーの口から「失敗」という言質(げんち)を取りたかったのかもしれません。しかし、これまでコツコツと開発努力を続けて来て、ようやく迎えた打ち上げが「中止」に追い込まれたことで、涙ぐんで悔しがっていた岡田マネージャーにとっては、傷口に塩を塗り込まれるような気持ちだったと思います。負けて帰って来た日本代表チームの監督に、責任を追及するような物言い、とても残念でした。

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実験としては「成功」と言えるH3ロケットの打ち上げ

ロケットの打ち上げに関しては、他の国でも、中止や延期は頻繁に起こっているので、特に珍しいことではありません。しかし、今回のケースは、なんだかんだと約2年近く延期されて来た計画だったため、種子島でもいつも以上に盛り上がっていましたし、中継でも盛り上がっていました。そこでの「中止」だったため、「多くの人々の期待が裏切られた」→「責任者が失敗だと認めるべき」という、誰かを吊し上げないとコトが収まらない最近の風潮に流れてしまったのかもしれません。


あたしから見れば、制御システムが正常に稼働し、大損害が出るかもしれない事故の可能性を直前に回避できたのですから、打ち上げ自体は「中止」という残念な結果となってしまいましたが、ある意味、実験としては「成功」だったと思っています。今回の経験からシステムを見直し、より安全な修正を加えた上で次の打ち上げへ移行できるのですから、何よりの結果だと思っています。

たとえば、1年前の2月3日、ツイッターでは「お騒がせセレブ」と呼ばれているイーロン・マスク氏の米スペースX社が、小型衛星49基を搭載したロケットを打ち上げました。ロケットは正常に打ち上げられ、高度約200キロでロケットから分離された49基の小型衛星は、予定の軌道に向かって順調に進んでいました。ここまで来れば、打ち上げは、ほぼ100%成功したようなものです。しかし、一体何が起こったのでしょうか?49基のうち40基もの小型衛星が、予定の軌道に到達することができず、次々と落下してしまったのです。

「はやぶさ2」の歴史的偉業を支えているもの

国立極地研究所で宇宙空間物理学を専門とする片岡龍峰准教授の研究グループが、この現象を解明すべく、全地球大気の物理過程を計算できるシミュレーションモデル「ガイア」を使用してデータを解析しました。すると、この時間帯に太陽から2回のコロナ質量放出が発生しており、その粒子が地球に到達して2回の磁気嵐が起きていたことが分かったのです。

衛星がロケットから分離される高度約200キロのエリアでは、通常でも磁気嵐によって大気の密度が25%ほど増減するため、衛星はそれを計算に入れて設計されています。しかし、この時は、大気の密度が平均より50%も大きくなっており、49基のうち40基もの小型衛星が大気の抵抗に負けて落下してしまったのです。

この1年前の米スペースX社のミッションは、共同通信社の記者の感覚で言えば「失敗」だと思いますし、ビジネスとしても「失敗」でしょう。しかし、たとえロケットが正常に打ち上げられても、衛星を分離した時に大きな磁気嵐が発生すれば、衛星は軌道に到達できずに落下してしまう。この事実が解明されただけでも大きな収穫であり、今後に役立つ有効なデータが得られたのです。

宇宙開発における「失敗」の多くは、「失敗」ではありません。それは、「次の一歩」へ繋がる重要なステップだからです。今、この瞬間も「はやぶさ2」が未知の小惑星に向かって孤独な旅を続けていられるのは、初代「はやぶさ」での数々のトラブルや失敗から学んだテクノロジーによるものです。初代「はやぶさ」のトラブルや失敗がなければ、「はやぶさ2」の数々の歴史的偉業は成しえなかったのです。こうして考えれば、計画が事前の予定通りに進まなかったことを、頭ごなしに「失敗」の二文字で切り捨ててしまうことの愚かさが分かると思います。

(『きっこのメルマガ』2023年2月22日号より一部抜粋・文中敬称略)

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