カラパイア:存在自体がファンタジー、海のユニコーン「イッカク」の謎をカオス理論で読み解く2022年10月16日より転載します。
貼り付け開始
https://karapaia.com/archives/52316593.html

そもそも長い一本角が生えていること自体、ファンタジー以外の何者でもないわけだが、北極の氷の下で暮らすイッカクは、未だ謎多き海の哺乳類だ。
ちなみに長さ2mを越えることもある、ユニコーンみたいな長い角はオスのみが持っており、実際には歯が変形した牙である。その用途だが、攻撃のための武器なのか、性的な魅力のサインなのか、その両方なのかはわかっていない。
謎は他にもある。彼らの行動が無秩序で理解不能なのだ。だが行動を調査しようにも、水深2kmまで深く潜るうえに、海氷に大きく頼って生きているために、その移動を追跡することが非常に難しい。
そんな彼らの生態を明らかにするために、北海道大学をはじめとする研究チームは、「カオス理論」を応用することで、東グリーンランド沖で暮らすイッカクの不規則な行動の解明に挑んでいる。
北海道大学の地球科学者エフゲニー・ポドリスキ准教授は、「動物に取り付けるセンサーは性能が上がり、たくさんのデータを集めてくれるようになりましたが、不規則な行動を分析する適切な方法がありませんでした」と、プレスリリースで説明する。
そこでポドリスキ准教授は、グリーンランド天然資源研究所のマッズ・ピーター・ハイデ=ヨルゲンセン氏と共同で、無秩序で混沌としたイッカクの行動を分析する方法を考案した。それは「カオス理論」を応用したものだ。
カオス理論とは、一見予測不可能に見えて、じつは厳格な法則に支配された現象についての理論だ。微少な初期値の違いが、時間の経過とともに決定的な違いを生み出すことがある。
この理論を象徴するのが、「ブラジルで蝶が羽ばたくと、テキサスでハリケーンが起きる」という「バタフライ効果」だ。
蝶の羽ばたきによるごくわずかな空気の変化は、物理法則にしたがいながら複雑に変化して、やがて遠くで台風になるかもしれない。
だが、そのプロセスを実際に観測できたとするなら、私たちの目にはまったくの無秩序(カオス)に見えるはずだ。
イッカクの背中に発信器を取り付ける研究グループ(東グリーンランド、スコアズビー湾にて) / image credit:Greenland Institute of Natural Resources
これまでイッカクの行動も、一見したところまったく不規則で予測不能なカオスだと思われていた。
だが、イッカクのオスの背中に人工衛星とリンクした発信器を取り付け、83日間にわたってその行動を追跡。
そのデータをカオス理論からヒントを得た数学的手法で分析すると、これまで謎に包まれていたイッカクの行動パターンが浮き上がってきたという。
たとえば、お昼になると海面近くで休憩する傾向があるが、この時間帯に潜る場合は、とりわけ深くまで潜ることが明らかになった。
夕方や夜に潜る場合は、浅くしか潜らないが、より熱心に潜るという。これはイカを捕獲するためだと推測されている。
またイッカクは、海氷の量によって行動パターンを変えていた。氷が増える時期には、水面での活動が少なくなる一方、より集中的に海に潜るようになるのだ。
カナダ北部の海で撮影されたイッカクの群れ / image credit:Image courtesy of Kristin Laidre via NOAA
イッカクは国際自然保護連合(IUCN)の絶滅危惧種には指定されていないが、ほかの海洋生物と同様に船舶・海洋汚染・気候変動などに脆弱だと考えられており、実際、一部の個体群は消滅の危機に瀕している恐れがある。
イッカクは海氷と密接に関わりながら暮らしているが、それは気候変動の影響で急速に消えつつある。そんな彼らを保護するならば、まず彼らの習性を知ることが大切だ。
Our Planet | Narwhals | Clip | Netflix
また研究グループによると、カオス理論はイッカクだけでなく、さまざまな動物の行動分析に役立つだろうという。
それは海水温の上昇や海氷の減少など、北極の野生生物が直面している危機を理解するヒントにもなるかもしれない。
ただし、このアプローチはまだ始まったばかり。今回の研究もたった1頭のイッカクが分析されただけだ。
それでもイッカクが3ヶ月近くも追跡調査された例はほとんどない。今回のアプローチは「比較的シンプルに実行できる」と研究グループは述べる。
長期的なデータをマップ化・ラベル付けすることが可能で、個々の動物や種が違う動物同士の行動上の差異を識別したり、さまざまな要因による行動の乱れを検出したりできるとのことだ。
この研究は『PLOS Computational Biology』(2022年9月22日付)に掲載された。
References:Clarifying the chaos of narwhal behavior | Hokkaido University / written by hiroching / edited by / parumo
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貼り付け終わり、
https://karapaia.com/archives/52316593.html

そもそも長い一本角が生えていること自体、ファンタジー以外の何者でもないわけだが、北極の氷の下で暮らすイッカクは、未だ謎多き海の哺乳類だ。
ちなみに長さ2mを越えることもある、ユニコーンみたいな長い角はオスのみが持っており、実際には歯が変形した牙である。その用途だが、攻撃のための武器なのか、性的な魅力のサインなのか、その両方なのかはわかっていない。
謎は他にもある。彼らの行動が無秩序で理解不能なのだ。だが行動を調査しようにも、水深2kmまで深く潜るうえに、海氷に大きく頼って生きているために、その移動を追跡することが非常に難しい。
そんな彼らの生態を明らかにするために、北海道大学をはじめとする研究チームは、「カオス理論」を応用することで、東グリーンランド沖で暮らすイッカクの不規則な行動の解明に挑んでいる。
カオス理論でイッカクの行動の謎を読み解く試み
北海道大学の地球科学者エフゲニー・ポドリスキ准教授は、「動物に取り付けるセンサーは性能が上がり、たくさんのデータを集めてくれるようになりましたが、不規則な行動を分析する適切な方法がありませんでした」と、プレスリリースで説明する。
そこでポドリスキ准教授は、グリーンランド天然資源研究所のマッズ・ピーター・ハイデ=ヨルゲンセン氏と共同で、無秩序で混沌としたイッカクの行動を分析する方法を考案した。それは「カオス理論」を応用したものだ。
カオス理論とは、一見予測不可能に見えて、じつは厳格な法則に支配された現象についての理論だ。微少な初期値の違いが、時間の経過とともに決定的な違いを生み出すことがある。
この理論を象徴するのが、「ブラジルで蝶が羽ばたくと、テキサスでハリケーンが起きる」という「バタフライ効果」だ。
蝶の羽ばたきによるごくわずかな空気の変化は、物理法則にしたがいながら複雑に変化して、やがて遠くで台風になるかもしれない。
だが、そのプロセスを実際に観測できたとするなら、私たちの目にはまったくの無秩序(カオス)に見えるはずだ。

イッカクの行動パターンが浮かび上がって来た
これまでイッカクの行動も、一見したところまったく不規則で予測不能なカオスだと思われていた。
だが、イッカクのオスの背中に人工衛星とリンクした発信器を取り付け、83日間にわたってその行動を追跡。
そのデータをカオス理論からヒントを得た数学的手法で分析すると、これまで謎に包まれていたイッカクの行動パターンが浮き上がってきたという。
たとえば、お昼になると海面近くで休憩する傾向があるが、この時間帯に潜る場合は、とりわけ深くまで潜ることが明らかになった。
夕方や夜に潜る場合は、浅くしか潜らないが、より熱心に潜るという。これはイカを捕獲するためだと推測されている。
またイッカクは、海氷の量によって行動パターンを変えていた。氷が増える時期には、水面での活動が少なくなる一方、より集中的に海に潜るようになるのだ。

絶滅の危機に直面する動物たちを守るために
イッカクは国際自然保護連合(IUCN)の絶滅危惧種には指定されていないが、ほかの海洋生物と同様に船舶・海洋汚染・気候変動などに脆弱だと考えられており、実際、一部の個体群は消滅の危機に瀕している恐れがある。
イッカクは海氷と密接に関わりながら暮らしているが、それは気候変動の影響で急速に消えつつある。そんな彼らを保護するならば、まず彼らの習性を知ることが大切だ。
Our Planet | Narwhals | Clip | Netflix
また研究グループによると、カオス理論はイッカクだけでなく、さまざまな動物の行動分析に役立つだろうという。
それは海水温の上昇や海氷の減少など、北極の野生生物が直面している危機を理解するヒントにもなるかもしれない。
ただし、このアプローチはまだ始まったばかり。今回の研究もたった1頭のイッカクが分析されただけだ。
それでもイッカクが3ヶ月近くも追跡調査された例はほとんどない。今回のアプローチは「比較的シンプルに実行できる」と研究グループは述べる。
長期的なデータをマップ化・ラベル付けすることが可能で、個々の動物や種が違う動物同士の行動上の差異を識別したり、さまざまな要因による行動の乱れを検出したりできるとのことだ。
この研究は『PLOS Computational Biology』(2022年9月22日付)に掲載された。
References:Clarifying the chaos of narwhal behavior | Hokkaido University / written by hiroching / edited by / parumo
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