私の子供の頃に、歩いて5秒、家のほぼ向かいに「ねもとさん」というお菓子屋さんがあり、
そこから10秒で「太田さん」というお菓子屋さんがありました。

駄菓子屋さんの方は名前はわからないのですが、
「石鹸山」(※1)と呼ばれた廃土集積場を過ぎたところに小さいのが一つあり、
お金がないときは、ある子が贅沢をするのを後ろからみんなでじっと見つめ、
自分にお金があるときはもんじゃ焼きを食べていた・・

という話をすると長くなるのでやめて、まず、ねもとさんと太田さんの違いから。

太田さんは「山崎」の子分であったので、
「買ったパン」がそのパン部門の多くを占めていました。

ねもとさんはそれに対し、店舗は太田さんのそれの3分の1ぐらいでしたが、
「食パンスライス機」(※2)を備えた手作り派で、「作るパン」を多く作るお店でした。

「買ったパン」は、工場からお店に来て私たちが買う、菓子パン・おかずパンや甘い系の菓子パンのことです。

それの反対に位置するのが「作るパン」です。
「作るパン」とは文字通り、お店でおばさんが作るサンドイッチや、中身のあるパンのことですね。


今ふと思ったのですが、日本語として正しいのは「作ったパン」ではないでしょうか。
私たちがお金を握りしめて買いに行った時に、おばさんの「作った」パンはすでに並んでいる。
でも、「作るパン」と呼んでいました。

⚠️時制の一致を見ていません⚠️

でも当時は子供で、日本語教師でもなかったので、別にもやもやすることはありませんでした。


「今日のお弁当は、ねもとさんの『作るパン』でいいでしょう? 」
「たまには太田さんの『買ったパン』も美味しいよね」

という具合です。

しかし、後者の「買ったパン」的な言い方は、誰も深くが考えず、普通に言っていますよね。
いつ買うか、買ったか、ということは考えず、
「買って食べるカテのもの」という意味だと思います。

太田さんの食品ケースに並んでいるパンのほとんどは、正確を期して言えば、
「工場で作ったパン」か、「(これから)買うパン」なんですが、
かと言って、
「工場で作ったパン」vs「おばさんが作ったパン」
と言おうとすると長いし、短く「作ったパン」と言いそうになるが、
それをしてしまうとお店の区別がつかない。

そうか、だから、「買ったパン」と「作るパン」と言っていたのね。
数十年後に明らかになりました。
それではこれで。



というと、終わってしまうので、もう少し書きます。

太田さんに行くのは、当時では個包装ではなかった「買ったパン」の、
あんぱん・クリームパン・ジャムパンが目的でした。

あんぱんは丸く、黒胡麻がついている。
あんのある部分の天井には、洞窟のように隙間がある。
隙間が大きいのが正しいあんぱん。
木村屋のように、桜の塩漬けが載っていると、別格の高級品ですね。






クリームパンは、子供の落書きの野球のグラブのような形で、
中には黄色いカスタードクリームもどきが入っていた。




粘りをつけた化学の味だったと思いますが、
私は自分で一生懸命(たまに)作るカスタードクリームより、
市販の安いお菓子に入っているもののほうが、断然好きです。




ジャムパンは、形は忘れましたが、中身はプチプチの種のある苺ジャム。
当時は、三大パンのお供といえば、バター・マーガリン(砂糖を加えたものを含む)
ジャムパン・ピーナツバターでした。

おしゃれなジャムが出てくるのはもう少しあとです。

まさに山崎製パンが今も作っているジャムパンだそうです。






ねもとさんでは、コッペパンの切れ目に、バタークリームを詰め、
真ん中にチェリーをおいたものがあり、とてもおいしかったです。



あとは、同じくコッペパンの切れ目に甘みをつけたマーガリンを塗ったもの。
あとは細いコッペパンに焼きそばを入れた焼きぞばパンぐらいで、その他はサンドイッチ2種でした。


その具は、

ハムと胡瓜
刻みゆで卵のマヨネーズ和え

これだけです。
これでいいのです。

歩いて数秒、玄関を出てすぐ見えるねもとさんへは、幼稚園のお弁当を何かの理由で母が作らないときに、
自分で好きなものを買いに行かされました。
また、毎日少しのお小遣いをもらっていましたので、
下町の子が普通に許されていた買い食いも毎日していました。


家でサンドイッチを作る時は、
「ねもとさんに行って、食パン一斤10枚切りにしてもらってね」
と母によくお使いに出されました。

「食パン一斤、10枚切りにしてください」
「はいよ」

おばさんか、独身のお兄さん(イケメン)が、透き通った袋から食パン一斤を出し、
食パンスライス機のボタンを入れると、丸い大きな歯が、恐ろしい勢いで周り出す。
その丸い歯に食パンのサイドを押し付けると、パンはほとんど音もなく、すい、すい、すい、すい・・。

おばさんかお兄さんは、食パンを向こうに押しやりながら歯に押し当て、
一枚切れると逆に手前に引き戻すことで、11往復させ、
見事に10枚の薄切りのパンができます。

11枚往復というのは、食パンの一番端はたいてい一面に「耳の一部」です。
で、それは10枚のうちにカウントしないため、11往復することが多かったと思います。
・・・というのは、今、大人になって考えついたことなのですが、
新しい食パンを切り始める時は、11回往復したのではないかな〜。
違っていたらごめんなさい。


家で作ってくれるサンドイッチも、「ねもとさんで買うサンドイッチ」も、具は同じですが、
大きな違いは、「作るサンドイッチ」は、パンの耳がないこと。
なので、贅沢で美味しく感じられました。

2枚のパンに具を挟んで対角線で切るので、直角三角形です。
そして、別にサランラップとかには包んでいないため、1日の遅い時間になるほどに、
少しパンがカサカサして、固くなる、それがまた美味しく感じられました。
なぜでしょう。
最初の一口を、家に帰るのが待ち切れなくて紙袋から少し出して、角を一口。
そのとき舌に当たった、食パンの切り口の固さと、乾いた感じを今でも思い出せます。

家のサンドイッチは、山登りやハイキング、小学校の運動会や土日のお昼に母が作るもので、
パンの耳のある直角三角形です。
ねもとさんのよりしっとりしているが、耳があるので食べ応えもありました。


このあとちょっとして、缶のツナを「シーチキン」と称して市販するようになり、ツナマヨのサンドイッチがこれに加わりました。

続きますね。

…………………………

※1 石鹸山 せっけんやま
近所にあった、少しずつ大きくなっていく、廃土を捨てていって出来た低い山。登山道のように山肌に15段ぐらいの刻みがつけてあったので、結構高さはありました。登ってはいけないことになっていましたが、平気で登って、土を掘っくり返しますと、黄色・グレー・青・白が混じった土でした。
これが後年、六価クロムの投棄場であったことが報道され、かなりびびりました。
我が故郷江戸川区のことも記事に出てきます。

六価クロム

六価クロム - Wikipedia
ja.wikipedia.org

※2 食パンスライス機 スライサーとも言う。
今はいろいろ、事故防止のパネルなどがついていますが、ねもとさんのはついていなくて、見ているとザワザワしてきました。
アメリカ映画「月の輝く夜に」で、ニコラスケージが事故で片手を失うのが、昔のスライサーだったように思います。
ハムスライサーだったかな?