夫が前から、私を連れて行きたいと言っていたお店へ行きました。
繁華街の中心地です。
とても美味しかったですが、私には少し塩がきつかったです。
でもこれは、私の好みなので、文句ではありません。

カウンターしかない温かな感じのするお店で、
隣り合った人がすぐにおしゃべりを始めるのでした。
夫が好み、私を連れて行ってやろうと思ったのもわかりました。

ところが、食べ始めて10分ぐらいで、私は料理をあまり味わえなくなりました。
気詰まりになってきたそのわけは、
目の前で料理して供してくれる人のレクチャーのためです。

カウンターの向こうにいるお方の、教えを受けるのがどうも・・。
逃げられないんです、ぎっしり座ったカウンターで。
話のキャッチボールでにはなりませんでした。
とても気持ちよさそうにお話しされるのを、こちらが拝聴する形。
いつもはうるさい私がどんどん元気がなくなり、
食事が終わって店を出るのが嬉しかったです。


後刻、夫に訊いてみました。

「夫はああいうのは平気? 日本語がよく聞き取れないから大丈夫とか?」

「失礼な。だいたいは聞き取れていますよ。
でも、私があそこを好きになったのは
お客同士がすぐに打ち解けて話せる雰囲気があるからです。
そこが名古屋と同じでしょう?」

「そうね。そこは貴重ね」

東京の人って、外から来て暮らす人が多いので、
生活技術としても、親切で、初対面でも人懐こい人が多い気がします。
東京人は冷たいと言われると、信じられない心地がします。
これは私が東京下町育ちだからか。

一方、名古屋の人は、何回も会って心を許してくれれば、
すごく親身になってくれると私は感じます。


それはともかく、私はもっと訊いてみました。

「では夫は、あのレクチャーは嫌ではないわけね?」

「いや、彼は初回からずっとそうだし、誰にでもそうです。
あと、私はあまり聞いていません。
それでも、それは彼の問題です。
It's his problem, not mine.
あれが嫌な人は、行かなければいいだけです。
僕は(君と違って)そういうのは脇に置いておけるので」

それは本当です。羨ましいです。

私からすると、無邪気な自慢話は可愛いものだけれど、
(子供ならもっと可愛い)

自分を上げるために他を下げる

・・のは、聞いていて苦痛です。

他のお店の、駄目なやり方、駄目な食材、駄目な仕入れ方。
別に知らなくても良いです。だって。

それ、どうでもよくないですか。
食べてみておいしければまた行くだけだし、
懐具合と合っていて、楽しければまた行くだけでしょう?

私は、払えるお値段で、食べておいしいかが基準です。

そういえば、引っ越してきてすぐのことです。
12年前に通っていた同じお店に行きました。
とても楽しみにしていたのです。

ですが、注文するほどに、私たちは無口になっていきました。
食べ物の悪口は言わないようにしているから、言えません。
ですが、かつて美味しかったカマンベールチーズフライが、
明らかに冷食を使っていて、他のものも、それなりでした。
訊いてみたら6年前に居抜きでオーナーも料理人も変わっていました。

また、私たちの方が、
長い間にそこの味と合わなくなっているということもありますよね。
そうやってお店と出会ったり、遠ざかったり。
お互い様で、いいと思います。

その晩聞いた、決め手の一言。

「自分はお客さんに対して、食育をしているつもりなのだ」

とのことでした。

私は心の中で、白目を剥きました。



私はもう成長はやめているので、
せっかくではありますが、食育は要らないのでした。











今日は毒のある内容でごめんなさい。