私が昔、結婚する前に思っていたことは、

「国際結婚は、コミュニケーションが大変だから無理だわ」

ということでした。(全然、結婚の申し込みはなかったですが)

生徒たちともそういう話によくなりました。
日本人の彼女と、英語で話すけれども、いまいち通じないとか、
付き合うのはいいけれど、言葉が違う人と結婚は無理ですとか。

あるときある生徒から、

「先生は? お仕事柄、国際結婚ありそうじゃないですか」

と聞かれたので、

ないですよ。
夫とコミュニケーションが大変そうですもの。
だって、完璧なバイリンガルかマルチリンガルでない限り、
どうしたってどちらかが、相手の言葉、
自分にとっての外国語を話すことになるでしょう?
で、相手の外国語が「より」できる方が、そっちを話すわけですよね。
最初はアドレナリンでいけても、ずっとはどうなのでしょうか。
愛は四年で終わるといいますしね。
私はまあ〜、ないね!

と断言していました。








しかしその後 2年の間に、この生徒も私も、自分の国の人じゃない人と結婚し、
お互いを披露パーティに招待し、

「ケンくん、国際結婚しないって、嘘ばっかり」
「先生こそ嘘ばっかり、しかも先にするし」

と、言い合ったのでした。



私は長い間、

友達とか生徒なら言葉が違ってもいいけれど(一緒にいるのは短時間)、
夫婦や恋人だと、伝わらないことが多い場合はきついだろうな

と思っていました。

理由の一つは、夫婦が外国人同士てある場合、
子供とのコミュニケーションが大変そうだと思っていたからです。

ある友人夫妻は、奥さまのほうの留学先で知り合った現地の人と結婚。
二人はずっと、ご主人の言葉(英語ではない)
でコミュニケーションを取っています。
結婚数年で日本に来て、定住しましたが、
ご夫婦間の会話は、その後もご主人の母国語です。
奥さんにとっては、言いたいことが言えないとか、
いまひとつ伝わらないのが普通の毎日だそうです。
そこは奥様は気にしていません。
さて、日本で生まれた娘さんですが、
お父さんと、お父さんの母国語を話し始めた頃に保育園に入ったので、
そちらの方は素早く頭を引っ込め、
お父さんの言うことはわかるが、返答は日本語で、となりました。
そこでお父さんのほうが歩み寄って日本語を使おうとしていましたが、
彼は環境的に、日本語を使わなくていい職場、
奥様とはどうしても、話が早いので自分の母国語のままです。
そのため、娘さんに対する日本語は、

だめ!
食べる?
おいで

というあたりに留まっていたのでした。
私の予測では、赤ちゃんのときはいいですが、問題はその後でしょう。

例えば、

「お前の気持ちもお父さん、よくわかる。
お父さんもたいがいヤンチャしてたしな。
でももうちょっと賢くならなきゃ。
そこはどうなの?
とりあえず校則には従っておいて無事卒業してさ、
それからでもいいんじゃないの、タトゥーは」

というような言葉がすらりと出てくる、・・
というわけにはいかないように思いました。

奥様も、子供さんが3歳ぐらいから、
ご主人と子供さんとの間に入って通訳をしています。

また、ご主人と、日本の親戚縁者友人との間は
自分がいつも通訳をしているので、とても大変。
ご主人は、「日本語は難しいから無理、勉強したくない」と言っている、
とこぼしていました。



お子さんがいなくても、似たようなことはあります。

日本人の奥様と、フランス人のご主人が、
留学先のヨーロッパで知り合い、そちらで結婚しました。
二人は語学留学でしたので、勉強している外国語は同じですが、
日常会話レベルより先へは到達しないまま、一緒に日本に移住しました。
二人は最初から、二人にとっての外国語である英語でずっと話しています。
とても仲が良くて、それでも大丈夫なのですが、
日本ではやはり奥様は通訳です。
お医者さんや役所なども、一緒に行きます。
税金・ビザ・年金・ご主人の会社の就業規程などについて話すときには、
辞書を引き引きで、そこは大変ですとは奥様は言います。



外国の人と結婚して、どちらの国に住むか。
どちらが生計を担当するのか。
男女問わず、母国で資格をとった専門職であると、
外国でそのままその資格で働くことはまずできないかと思います。

子供が主にどこで育つか。
これも「なんとなく、なんとかなるさ」では、
早晩、そうでもないことに突き当たることが多いでしょう。

私の知る、セミリンガルの若い女性ですが、
ご両親のお仕事の都合で、
数年おきに日本とお父さんの母国の間を行ったり来たりして暮らしたそうです。
結果、両方の言葉で、「今日はお天気がいいね」「明日は曇りそうだね」
は完璧に言えますが、どちらの言葉でも、
「明日は台風性の高気圧が張り出し、蒸し暑い1日になるでしょう」
と聞いたとすると、
「明日は台風がなんかして、蒸すんだな」
とまでしか理解はできないそうです。

2、3年で変わる学校の用語にもとても苦労したそうで、
「どちらの国でもいいけれど、一つの国で育ちたかった」
と彼女が言うのを聞いたことはあります。

こういうことがあるのを予測できても、
「じゃあ、結婚はやめましょう」とは普通はならないわけで、
そのときそのときで柔軟に対応していくほかありません。

外からは見えにくい、家庭内ロスト・イン・トランスレーションのお話でした。




左から、ローズマリー、バジル、りんご(3)