信長を生んだ男

     霧島兵庫 新潮社

            

 

信長がまだ、「信長」となる前

信秀亡き後

道三亡き後 織田家統一に苦戦し、弟信行と跡目争いの中

桶狭間が遠い時期、

 

物語は、柴田権六が仕えた最初の主君、織田勘十郎信行(信勝)の嫡男信澄の初陣に立ち会う越前から始まる。

柴田権六勝家は、二十年近く前の記憶をたどる。

 

兄弟間の相克、道三息女の輿入れ、その後の天文17年~永禄元年までの

信長、信行、帰蝶(濃姫)の若き日の「信長を信長たらしめる」猛虎の非情さを

織田信行の 龍とならんと欲した望みを打ち砕いたのは

信長の帰蝶への信頼と愛だった。

 

 

 

14歳で政略の為、輿入れというより、送り込まれてきた「お濃の方」様は 美濃のおんな蝮に相応しい

-闇と光-を放つ、美貌の少女であった。

信行は一目で、同い年の「織田の領地を手土産にやがては美濃に帰参するという意を込めた不吉な名(帰蝶)」の持ち主に

自分と同じ「漆黒の闇」を見てしまう。

虎とあだ名され、主君を下刻上で倒し、一家老のその手先に過ぎなかった偉大な父信秀は、規範に悉く反する

三郎信長を自分の跡目とする。見果てぬ夢を託す。

傾国の美女と称えられ恐れられる、兄弟の母、土田御前は「自己愛」の延長の愛情を信行に注ぐ。

父に認められたい弟・信行、母の愛を求める兄・信長。濃の方(帰蝶)は、その二人を繋ぐ架け橋となる。

 

生々しい戦場での殺戮。兵法なんぞ「紙に過ぎない」残虐で悍ましい戦の修羅。

雑兵たちは、敵の刃や弓よりも、戦場での飲料の確保にまず、命を懸ける。

撤退した敵兵や百姓によって、水場は汚物をまき散らされ、土には毒がまかれる。

 

まるで、ウクライナの戦地に放り出されたような、臨場感。

帰蝶を得たことで、信長は「牙を抜かれた龍虎」にいつしか変貌、「非情」から「温情」の

何処にでもいる只人と成り下がったと信行は思う。

兄信長が求めているのは「母」そのもの、癒しをもって慈愛深い「帰蝶」という最愛人は、

兄の心を和ませてしまい、畏怖による制圧から程遠い裏切りが続く。

大意から遠ざかり、織田領内は逆心の輩ばかり。

実家美濃の斎藤家でも、熾烈な兄弟の跡目争いがあり、父道三は、兄義龍に殺される。

 

美しい。利発、思いやり深く、夫信長、義弟信行の理解者。

よく、涙にくれる。戦国の姫としての宿命を覚悟をもって受け止める。

婚家の為に最善を尽くす。

だが、体温が無い。身もだえして、どう生きるか、どう死ぬか、絶叫が届かない。

美しい、月光のような 涼やかな美貌だけが「帰蝶」と言う名の女として、小説の中に鎮座する。

嘆きは分かる。

14歳から23歳、嫁して九年、子に恵まれない。実家は父を殺した兄義龍が治めている。

兄弟間の骨肉の争いは身をもって知っている。

弱小の織田家にとって、濃の方は何の得にもならない。むしろ、居てもらっては困る存在となっている。

夫であり跡目を担う、かっては吉法師と呼ばれた頃の、枠にはまらぬ桁外れの気宇は

母のような慈愛を得て、信長の体からは、人を畏怖させずにはおかない「非情」が消滅してしまっている。

 

「伏龍」となって身もだえする年月、今川義元を導く大原雪斎の如く、

後方から、龍虎・信長を支える、龍たらんと己を捧げてきた次男信行。

嫡男になれなかった父信秀への才あるゆえの、暗い闇の怨念。

信行は、愛し憧れながらも、兄信長を鬼にするため 帰蝶を殺すことを決心する。

腹心の柴田権六に手筈を命じる。

一度目は母土田御前の望み、二度目は、緩くなった兄に代わる野心。

 

死病に憑りつかれた信行は、自分亡き後を慮り、逡巡しながらも、帰蝶を殺害する。

共に、24歳。

(あの世の岸辺で、待っていてくだされ。直ぐに信行も追いつきまする)

自ら、信行の刃の前に身を捨て、帰蝶は総てを受け入れる。

後継ぎを産めない自分

実家の父を殺した兄が支配する美濃へ自ら身を引き

尼となって、道三の菩提を嘆きながら暮らす時間

織田家の役に立たないどころか、自分がいる限り、信長は将来、同盟に役立つ「正室」を持てないのだ。

脊まで貫かれた刀を信行が抜いたとき、半狂乱の信長が帰蝶の骸に取りすがる。

信行の首に白刃が打ち下ろされる。

勘十郎様は「あまのじゃく・・」

帰蝶の最期のささやきが、今、聞き取れたと思った。

 

 

20年後、鬼神となった信長に、柴田権六は、信行の嫡男信澄の初陣を報告する。

圧倒的な魔王の生母、土田御前は健在ですだに。

蝮の娘より冷徹であり夜叉のような凄みあり。

 

まっこと、信行視点の新しい 物語です。

 

 

 

 

 

 

「諧」は安らぎを 

「暢」はゆったりを意味する至高のリラクゼーション空間.....

カイチョウロウ 諧暢楼

いつか泊りたいお宿ですが、ここも素敵ですね。

庭園街道、阿賀川沿いにある 温湯の名湯です。

 

ゆったり

ゆっくり湯涌ゆ連泊なのに

なして、帰蝶さんが24歳で死んでしまう、本を読んでしまったのか!

自分で 本能寺 よびこんでいますだに、おーーーばかっちょです。