入院して3週間。確認して置くと、僕の現状はステージ4の胃癌、腹膜播種、ステージ0の大腸癌だ。胃癌の腫瘍が胃の出口付近を塞いでいるため、通常の食事を取れないのが退院出来ない大きな、そして唯一の理由である。
11月22日金曜日、嚥下造影検査。立ち姿勢のまま造影剤を飲み、液体が腸管へ至るまでをレントゲンでリアルタイムに見る検査だ。主治医と対面しながら、苦味の強いバリウムのような造影剤100mlを一気に飲み干す。"好意的に言って"無味のバリウムに龍角散を限界まで混ぜたんじゃないか、というような味だ。
医師と僕の間に置かれた移動式のモニターに、口から入って胃まで流れる造影剤が映し出されている。胃の形に沿って流れ込み、黒く胃の下部に貯まったそれは、そこに当然のようにとどまっていた。医師の指示により身体を少し傾けると、腸管に向けて一筋の糸を垂らしたかのような黒い筋が見えた。水分は通るが通常の食事は通らない、という結果だった。僕は激しく落胆した。
ただし、今朝、主治医の巡回時に早期退院のための提案があった。ひとつは胃に「ステント」と呼ばれる金属製の網状になったチューブを入れること。もうひとつは、訪問看護を使い栄養点滴を家に持ち帰る方法。どちらにせよ、次の抗がん剤治療後の嚥下造影検査次第だろう。どうか次の抗がん剤治療が効きますように。。
嚥下造影検査よりも更に僕を落胆させる出来事があった。彼女が母と激しく喧嘩したというのだ。詳細は避けるが、義母の主張の要点は「彼には生活保護の申請をさせなさい。そうしないとあなたに借金だけ残ることになる。」「彼はうちの相続を狙ってるはず」そして、「すぐに籍を抜きなさい」だった。
翌日、着替えを持って来てくれた彼女は、赤く泣き腫らした目で僕に「ごめんね」と言った。僕にいつも「お母さんもお父さんを癌で亡くして寂しいんだから、大切にしてあげてね」と言われているのに我慢できなくて喧嘩しちゃってごめんね、と。
悪いとすれば癌をここまで気付かずに放置した自分だ。いわば彼女は被害者だ。シングルマザーで苦労して、やっと見つけた幸せを根底から揺るがす入籍翌日のステージ4の癌宣告。彼女が受けた衝撃は想像に固くない。僕は彼女に「謝らないで」と言った。お母さんも娘が可愛いから、娘を守るために悩んでるんだよ、許してあげて、と。
言うまでもなく、僕はこれまでにないほど凹んでいる。


