「最後だョ!全員集合」 栃木県宇都宮市で攀じるパパクライマー | 栃木県宇都宮市で攀じるパパクライマー

栃木県宇都宮市で攀じるパパクライマー

人の親になっても頂きを目指し、家族と共に攀じり続けるパパクライマーの記録

 

 磐梯山東壁

 

 磐梯山東面に暖かい時期は特段気になるところはない。冬になると急な雪壁が目立つようになる。こんな雪壁をつめたくなるのは間違いなく好き者なのだけど、なんとまあ東北には好き者の多いことか。ここに入る山好きは案外多い。

 わたしも一度、山仲間とつめさせてもらったけれど、非常に楽しかった。

 

 さて、大源太山コブ岩尾根の翌日、ロブジェ・イースト遠征登山隊のメンバーがわたし以外全員集合できるという一報が入った。ならば登攀隊長のわたしが出ないわけにはいかないでしょうと、先約の大源太山コブ岩尾根1泊2日を仲間に日帰りに変更してもらい、遠征訓練に参加することした。3回目にして遠征前初めて5人全員で訓練ができる。絶対に無駄な時間にしてはいけない。そこで登場するのが冒頭の磐梯山東壁。よし、あそこの雪壁でフィックス工作の訓練やったろうやないけ!

 

 この日はメンバー5人で持っていくザイルも5本(50m)。計200mのフィックスを張れる計算だ(1本はクライミング用)。フィックスを張る時に気にしないといけないのが、張り出しの標高で、これを間違えると核心部の危険地帯でザイルがなくなった!とか、山頂10m手前でザイルがない!とかの憂き目にあう。

 何を隠そう栃木隊では、65周年記念のチュルー遠征の時、山頂の肩まで行ったものの、山頂までのリッジ50mに張るフィックスが足りなくなり戻ってきたという苦い思い出がある。フィックスは下から危険な箇所に張りながら登っていくのではなく、上から詰将棋のように考えて、何処からフィックスを張り出せるのか割り出さなければ間違えます。

 今回、50m×4本あるとはいえ、50mをそのままの長さで考えてはいけない。標高はあくまで標高、斜面にフィックスを張る以上、遊びをもたせなければならず、そうなると、50mザイルで獲得できる標高は40m程度と考えなければ失敗します(山によります)。40m×4本で160m。磐梯山の標高は1818m

 つまり、フィックス工作のスタート地点は1660mあたりということになる。地形図を見ると東壁の入口を少し入ったところです。丁度いい。これは海外委員会的には過去に類のない内容の濃い訓練になるぞ。

 

 

 天気は快晴。猪苗代ミネロスキー場のリフトで上がれるところまで上がり、そこから山行開始。猪苗代湖の眺めが素晴らしい。

 

 

 一登りで赤埴山。ここはこの時期いつも雪がない。

 

 

 東壁が見えたので、皆でルートファインディングをしておく。

 

 沼の平で作戦会議。フィックス構築がまだ完全に頭に入っていないメンバーもいるので、雪壁でやることを下でもう一度おさらいをする。そして、上で書いた練習構想を披露する。

  •  1番SASAさんが50mザイル1本持って、1660mに起点の支点を構築し、伸ばせるだけフィックスを伸ばす。
  •  2番会長が50mザイルを1本持って、時間差で出発して、ルート工作が終わった頃合いのSASAさんに合流して、そこから2本目のフィックスを伸ばす。
  •  3番隊長が50mザイル1本持って、時間差で出発して、ルート工作が終わった頃合いの会長に合流して、そこから3本目のフィックスを伸ばす。3本目伸ばしているエリアは岩場になっているので、カム等もすべて隊長に集中させる。
  •  最後の4番SAKUさんが50mザイル(フィックス用)と50mザイル(クライミング用)を各1本ずつ持って、時間差出発して、ルート工作が終わった頃合いの隊長に合流して、そこから東壁の核心部である雪壁に4本目のフィックスを伸ばす。ここは危険なので、伸ばしているフィックスとは別に、クライミングロープで確保しながら登る。ランナー用のスノーバーやヌンチャクはSAKUさんに集中させておく。
  •  途中途中のスノーバーとフィックスの連結、フィックスとフィックスの連結にはカラビナを使用しない。

 以上が、練習構想です。因みにわたしの役目は全体の指揮。各所で指示出しを行います。この4本張ったフィックスは回収せずに残置したまま上に抜けます。海外でフィックスを張った場合、回収もまた大仕事なのです。普段やってないから回収の手順にも慣れておかないと現場で困ります。今回は山頂に登ったら、稜線に土嚢を埋めてクライミングザイルで懸垂下降し、東壁に残したフィックスを回収しながら、同ルートを下山するという訓練もします。こちらの全体構想と手順は省略。

 

 

 というわけで、皆に上の手順を頭に入れてもらい練習開始です。1番SASAさん、2番会長、3番隊長が、間隔をあけて登っているのが遠目に見えます。

 

 

 1番SASAさんにトラブルが発生しているのか、中々進んでいないよう。わたしも下から大声で指示出しをします。SASAさんが上から危ない危ないと連呼しているので、東壁の中は何処も危ないのですよー!兎に角、そこにスノーバー打ってください!

 

 

 結局1660mから張り出してくれとお願いした1本目のフィックスは1690mから張られ出しました。この30mズレがなんと大きなことか。

 

 

 先頭が時間をくったため、結局5人全員がルンゼ内で長くとどまることになった。危険エリアになるべく居ないようにしたくて時間差作戦を取ったのだけど、見事に失敗。まあ皆誰かのそばに行きたいものなのだよな。

 

 

 出だしの30mをノーフィックスで登るはめとなった。わたしが個人的に登りに来た時にはノーザイルで完登したけれど、訓練とあっては失敗でしかない。会長を危険にさらしてしまった。申し訳ないです。

 

 

 

 全体像がずれたので岩稜地帯には入らず3ピッチ目は岩を右にかわしてフィックスを伸ばす隊長。

 

 

 核心の4ピッチ目

 

 時間も滅茶苦茶押していたので、既にフィックスを残置して下山時に回収訓練をするという案は断念することを告げていた。張ったフィックスは不要になり次第、荷の軽い者から回収していく訓練に変更。

 

 

 山頂は朱く染まり出す。

 

 

 訓練はやりたかったことの50%しかできなかったので及第点か。ともあれ、無事に5人で登頂できたのは良かった。わたしはこのルートを経験しているけれど、他メンバーは初トライ。まあこういう風になって当然か。そもそも用意していったカリキュラム全部をいきなりこなせるようでは、訓練計画の強度が足りないってだけだよな、うん、たぶん。

 

 

 下山は東尾根。リフトは終了しているのでスキー場まで歩く。なんとかヘッデンを出さなくて済むギリギリ18時に下山できた。前日は15時間山行で、この日は8時間30分山行と、個人的にも良い訓練となりました。本番に向けての山で合同訓練というのはこれが最後だけど、頭の中だけでも、やれることはまだまだあると分かれたので、収穫は大きかった。

 メンバーも大荒れの那須岳、西会津のマッターホルン、磐梯山東壁といった普段入らないようなわたし好みのエリアに入ってもらえたので、感じるところはあったと思う。この隊の登攀隊長はわたしという限りなく頼りない隊です。最終的には全員で力を合わせて行かなければきっとどうにもならないでしょう。

 帰りに隊長もメンバーのザイルワークの遅さに対し怒っていましたが、山岳会が違うと、山歴が長かろうと短かろうと、人それぞれ入っている基本や哲学が違ってくるわけなので、 なにが正しいかすら曖昧というのが実情で、となると、やはり必要なのはコミュニケーション能力だよなと痛感するわけです。メンバー5人それぞれのルールを、登山隊のルールへとBC前までにすり合わせておくことが重要です。

 運よく、この登山隊はカトマンズに入ってからもBCまで11日間キャラバンを行います。その間でよりコミュニケーションを深めていければなと、そんな感じで。(おわり)