「立山三山~剱岳八ツ峰~本峰(後編)」 栃木県宇都宮市で攀じるパパクライマー | 栃木県宇都宮市で攀じるパパクライマー

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人の親になっても頂きを目指し、家族と共に攀じり続けるパパクライマーの記録

 (30日の投稿のつづき)夏合宿の総括でも簡潔に書きます。八ツ峰上半部~本峰は、クライミング難度は簡単でした。落ちたら死ぬかもしれんけど、正しく登っていれば落ちないもの。アルパイン経験、岩のテイスティングがしっかりできれば問題なく楽しみながら登れるルートだと思います。 

 

 

 2日目の八ツ峰から最終日まで動画にまとめましたので、ご覧いただければどんなルートかは分かってもらえると思います。

 

 当ルートで一番危ないのは先行パーティの落石です。今回は前後に近過ぎるパーティがいなかったので、その点で快適でした。北方稜線は八ツ峰と五十歩百歩の印象で、八ツ峰抜けたからといって気を抜いて良いということは微塵もなく、同じレベルの道程だと考えたほうがいいと思います。

 

 立山三山縦走~剱岳八ツ峰上半部~本峰2泊3日というルートについては、やはり体力というか歩荷力がないと辛いと思います。クライミングに自信のない方は、初日最短距離で剱沢キャンプ場に入ったほうがいいでしょう。やるなら、北鎌で体力テストしたほうがいいと思います。

 

 さてここからは個人的な話。わたしは池谷乗越~本峰~剱沢キャンプ場の区間で、今回死んだように歩けなくなってしまいました。登りだけでなく下りの一歩を出すのも厳しいような追い込まれ方。高山病を発症したのだと思っているのですが、その理由が歩いている最中はよく分からなかった。

 しかし、帰ってきてから考えて、ある結論を出すにいたりました。それはメンタルが不調を来したからではないかということ。わたしは滝谷で滑落して以来、人の山岳事故のニュースを見ただけで涙ぐむような状態にあるわけですが、別にそれがどうだというわけじゃなかったので気にしてこなかった。

 今回後続パーティが滑落事故を起こしても、テキパキと冷静に動けていたと思う。しかし、意識できるところでは変化がなくても、やはり無意識には緊張しストレスにさらされていたのではなかろうか。要救がヘリで搬送された後、その緊張から解かれて、結果、メンタルがダウンしたというか、機能停止に陥ったのではないか。これは誰でも起こりうることだけれど、滝谷で落ちている身としては、この意識できないレベルでのメンタルの機能停止が、人より○倍多い~とかそんな話ではなかったのかと考える。

 でなければ、八ツ峰をすたすたと軽やかに登ってきたのに、その後の体調の急変は説明がつかない。その間あったのは滑落事故のみなのだから、きっとそこに因果関係はある。

 まあ、結論はどうであれ、滝谷で落ちたことの影響がわたしの中に根本的に居座っていることが知れたのはとても意味のあることだった。自分の中にいる過去の傷を無視するのではなく、これからは直視していかねばならない。

 

 少し話を戻して、参考までに八ツ峰上半部に要した時間は、劔沢キャンプ場3時20分発~池谷乗越10時着といった程度でした。八ツ峰の肝は早く抜けるということに限ると感じた。それは急いで登れと言っているのではなく、正確なザイルワークを行うということです。ザイルを出す。ほぐす。懸垂下降、しまう。これを正確にどれだけ早くできるか。

 今回の夏合宿は、当初わたしと新人2名の3名で行く予定だったのですが、途中で中堅の仲間が加わってくれて4名となったのです。普通アルパインは人数が増えると行動が遅くなるものですが、この加わった仲間がザイルを扱うことで、ザイルワークの時間がぐっと縮まったのは間違いがありませんでした。本当に、ザイルを出す、しまう、これだけのことを上手くできるかどうかだけで、リスクをどれだけ減らせることか。クライミングの登攀グレードをあげるより、こういう基礎能力の天井をついておくほうが重要だと、今更ながら再認識した次第です。

 

 

 兎にも角にも、3~4年前から計画書出し続けてきた八ッ峰、とうとう攀じることができました。いまの自分には簡単過ぎたけど、余裕があるからこそ存分に景色を楽しめたし、なにより3~4年前に入っていたら事故っていたかもしれないわけで、こういう流れもすべては山運だととらえて、これからも精進してまいります。

 

 しかし眺望抜群のアルパインを楽しめたのは、日程変更に柔軟に対応してくれたメンバーのおかげです。本当に感謝しています。ありがとう!(おわり)