栃木県宇都宮市で攀じるパパクライマー、山の安全を考える | 栃木県宇都宮市で攀じるパパクライマー

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人の親になっても頂きを目指し、家族と共に攀じり続けるパパクライマーの記録

 所属山岳会の勉強会「山の安全」を担当したので、今一度リスクについて考えた。特に本県では3月に那須雪崩事故があり、リスクについて再考していない団体があるのならもぐりという他ない。県岳連もリスクについて勉強会を開催し、リスク管理体制の再構築に動き出しています。

 所属山岳会にもこの流れを落とし込めればと手をあげて担当してきました。テーマは山の安全でしたが、リーダーの法的責任という要素を取り込んで、判例解釈も含めて話してきました。

 簡単に書いてしまえば、山は自己責任の世界なので、友人同士の登山、山岳会の先輩後輩間の登山、山岳会の会山行の登山等々で事故が起きてもよっぽどの過失が重ならないと被害者の自己責任で、行為者に法的責任を負わすことができません。

 例をあげれば、沢登りに山岳会の先輩2名と後輩1名、計4名で行くとする。そこで直登できる滝だから登ると先輩から提案され、先輩が滝を直登、滝の上で先輩がハーケンを打ち支点構築してフィックスロープを張る。セカンドがフィックスロープを使って登り出したら、先輩が打ったハーケンが抜けて支点が崩壊。セカンドが落ちて負傷したケース。

 このケース、ハーケンを打った先輩に不法行為責任を負わすことができません。何故なら、ハーケンが抜ける可能性があるという危険性の承認を暗黙の内にセカンドはしているからです。先輩がハーケンを打ったのは、後輩たちの安全確保義務があるからではなく、先輩が後輩たちより経験を積んでいるため、積極的に世話をやいているに過ぎません。

 山行は基本的に自己責任なので、先輩が滝を登ると提案した時、危険性を承認せず、セカンドは滝を巻きたいという逆提案をすることが可能です。また、自分で支点構築するのが一番安全だと考えれば、リードすることを全員に申し出ることも可能です。

 そういった提案をしなかったいうことは、暗黙の危険性の承認があったということです。ハーケンを打った先輩の申し出をメンバー全員で合意したと形が成立しています。

 ハーケンを打った先輩のミス(過失)はどうなるの?と思うかもしれませんが、山の世界を外から見れば、ハーケンは打ってそれを頼りに滝を登る等ということ自体がとても危険な行為です。自然相手の行為ですから、ハーケンは常に抜ける危険性を内包しています。それを分かっていて登っているという理屈で、抜けるようなハーケンを打った過失責任は否定されます。

 長々と書いてしまいましたが、山はよっぽどのことがないと自己責任だということです。危険な山行になればなるほどその理屈は顕著になります。先輩任せや経験豊富な友人に諸々任せて登山している方は、安全確保義務まで負っていない仲間に命を預けてしまっているのと同義です。

 登山は自分がリーダーでなくとも、常に自分の山行として計画し準備すべきでしょう。そして、山は入山前の準備がすべてですから、入山前に想定できるリスクについてはすべて対処しておくことが肝要です。想定できることは大抵起きます。大丈夫だろうと思ったことは大抵大丈夫ではありません。山をやる皆さま、是非ご注意ください。

 最近、識者の話しを聞いていると、本州の熊が本当に危ないという話題がよく出ます。熊鈴やラジオの使用は逆に熊をおびき寄せてしまうから止めたほうがいいそうです。5年前からそういう話をする方もいましたから、わたしはもともと熊鈴やラジオは使わず、爆竹使用の臭い付けで熊対策していました。

 しかし、話を聞くに、今の熊にはそれだけではダメという結論に達しました。わたしは乳児と山に入っている身ですから、熊に子を銜えてもってかれでもしたら、目も当てられません。そんなことはまずない?いやあるでしょう。熊と対面して抵抗するも、わたしは無残にも破れ、子を銜えて持ってかれるなんて事態はいくらでも想像がつく。

 

 

 これはいかん。というわけで、今回を機にわたしは熊スプレーを常備することを自分に課しました。痛い出費ですがこれが想定できるリスクに対応するということです。そして、想定できるリスクにすべて対応したとしても、それでも山には不可避なリスク(他人様のミス含む)があり、それを分かっていて山に入る、これこそが危険性を暗黙に承認しているという話です。虎穴に入らずんば虎子を得ず。但し最悪も起き得ます。準備は万全に。(おわり)