誰かが選んだ作品(@大人図書館Vol.8) | 栃木県宇都宮市で攀じるパパクライマー

栃木県宇都宮市で攀じるパパクライマー

人の親になっても頂きを目指し、家族と共に攀じり続けるパパクライマーの記録



直木賞受賞作である東山彰良著『流』の順番が回ってきたので読んだ。台湾を舞台にした青春小説といっていい内容だけれど、台湾の歴史小説として読めるところがミソか。だけれど、じつは内容はいたってシンプル。ある種ジャンルレスで縦横無尽に読者を楽しませながら、本作の魅力の源とも呼べる、土台のしっかりとした綺麗な日本語が単純に心地よい。日本人ではないからこういう日本語選択ができるのだろうか。人名が普通に読めない欠点がありながら、読んでいて心地よいと思わせたのだから見事の一言です。ここが好きだというのはないけど、非常にバランスが良く全体的に好印象。(★★★★☆)




続いても大物。「このミス2015」で国内1位を獲得した、米澤穂信著『満願』の順番が回ってきた。なんとか2016発表前に読むことができた。それだけでも嬉しい。さて、ライバル作品と比較したわけじゃないけれど、1位の称号に劣らない良作だと思いました。「流」が綺麗な日本語なら、こちらはストーリーの流れが綺麗です。読んでいて止まらない、止まれない。短編集ということもあり、5時間もかからず読み終えてしまいました。

全編を通じて描かれていることの人の本質的な部分が、やるせなくもあり、考えると怖くもある。わたしの周囲にも確実に存在していて、見落としていることが描写してあり、身の回りや自分自身を点検したくなりました。(★★★★☆)




そして300近い予約件数を待って、とうとうわたしの番がやって来ました。今年を代表する一冊と言っても過言でない又吉直樹著『火花』です。が、じつはそんなにテンション高く待っていたわけでありません。出だしを立ち読みして、だいたい掴んでいたのでワクワク感には欠けました。

さて、いたって欠点の多い如何にも新人賞受賞作という感じでした。前半は文学的であろうと頭使って書いている感が満載で読むのが疲れるし、後半は前半の無駄な頑張りなんだったのとげんなりするほど力が抜けて読みやすくなるも、べつに話としては面白いこともなく、構成上こうなっているという風でもない。単に前半は力が入りすぎていて、書いていくうちに肩の力が抜けたんだろうなと思う。一貫性のない小説は読んでいて気持ちよくありません。

芥川賞受賞作は今年3冊目だけど、一貫性のなさでは先に読んだ「九年前の祈り」と同じだけれど、本作のほうがひどい。今年読んだ3冊ならVol.5であげた「春の庭」がダントツで好みです。(★★・・・)