近況73.演劇『サロメ』 | 栃木県宇都宮市で攀じるパパクライマー

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新国立劇場で昨日まで開催中だった演劇『サロメ』を鑑賞してきました。演出は宮本亜門。妖艶なイメージの強いサロメをもう一度オスカー・ワイルドの原書が持つ“少女の無邪気ゆえの残酷さ”に戻して演出したそうです。主演はその少女らしい資質を変われて多部美華子。で、脇のほうが豪華なんじゃないのという舞台俳優を並べて挑む、ある意味新国立劇場の本年一押し的な演劇でしたが、さて如何に?


結果はまあ及第点というところか。一通りの有名な演出は浴びておこうと思っているおいらでしたが、どうも巨匠と呼ばれるような人らの演出は性に合わない。この「サロメ」でもおいらの頭の中に既に存在しているような演出ばかりが使われており、役者の演出も別に仮想空間が存在しているような域までは達しておらず、たただた役者さんが頑張っていて凄いなと現実レベルで感心するに過ぎないレベル。本もイマイチ前後の効能を意識しての組み立てができてないように思うし、90分という短くしてだっと見せるにしても、勢いの中に緩急と納得のいく心情を描かなければ、主題が入ってくるどころか説得させられないのじゃないか。


とはいえ、豪華な舞台装置と美術、脇の俳優の原体力で楽しむことはできました。そして、今回の鑑賞での白眉は、音響トラブルが起こったことだろう。それも本最大の見せ場である「7つのヴェールの踊り」の直後に起きたのだ。多部ちゃんが踊りきったところで、中断アナウンスが入り5分中断。踊り出し前からの再スタートとなった。ああいった見せ場のシーンを踊りきるににはどんな役者にしたって大変なパワーが必要なものだ。それをアナウンスでいきなり現実世界に引き戻される役者の身になって考えると、裏方しっかりしてやれよと思うほかない。多部ちゃんがなにがなんだが分からず、泣きそうになりながらも「すいませんでした」と頭をさげて舞台袖に下がったのが印象的でした。


人間は役者であろうともなかろうとも、無意識の表情というものにこそ本質があり「はっ」とさせられるものだ。役者がまさにクライマックスを演じきった後に現実に引き戻される瞬間は亜門演出なんかよりも、よっぽど見るべきものがあったと思う。


まさて、この演劇はクライマックスの踊りを2回鑑賞できたわけだけど、2度目の熱の入ってなさを見、しかしまったく同じように役者は動いている様を見せられると、リハーサルを何度も重ねていることがよく分かるし、また感情が入ってなければ、動きは同じでも別物に見えるというのがよく理解できたので、いい意味で儲かったと思う変な舞台鑑賞になったのでした。こういう事故が翌日からの演技に響いたりしなのかなと少し心配だったりしたのだけれど。(おわり)