オスカー発表後記。(壱) | 栃木県宇都宮市で攀じるパパクライマー

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今年も友人との予想対決が開催される運びになっているので、例の如く、対決に備えて黙秘したいところだけれど、今年は、友人がおいらからのハンデの申し入れを断るという男気を見せてくれたので(現在おいらが3連勝中)、おいらもそういったちょこざいスタンスはとらないで堂々と発表時点でのおいらの所感を開示して、情報保有格差を埋めた上で、対決に挑むことにした。なんたっておいらはオスカーを年がら年中ウォッチしているのだから、そのくらいしても負けるわけがないのである。(たぶん)



兎にも角にも、早速発表の分析に入りたい。今年は作品賞が10候補と倍になっているので、主要部門のノミネート数は計35。その35枠は下馬評通りで31枠まで埋まりました。つまりウォッチャーが驚きをもって受け止めたノミネート数は4しかなかったということだ。



■作品賞■

アバター

しあわせの隠れ場所

第9地区

17歳の肖像

ハート・ロッカー

イングロリアス・バスターズ

プレシャス

A Serious Man

カールじいさんの空飛ぶ家

マイレージ、マイライフ



今年の作品賞候補は10作あるからといって、そのまま素直に10と受け止めることはできない。当然監督賞にもノミネートされている5本こそがフロント5と考えてもらっていい。つまり、今年の作品賞は「ハート・ロッカー」「アバター」「プレシャス」「マイレージ、マイライフ」「イングロリアス・バスターズ」から選ばれることは決定事項である。で、素人目でも今年は簡単に「アバター」との答えが導き出されそうだが、今年はそうは問屋が卸さない。例年通りの予想の仕方では痛い目をみるから、取り敢えず冷静になれ。じつは今年もっとも気にしなければならないのは、アフター5作品にどれだけの票が流れるのかという点にある。協会員が100人いたとして、いままでのオスカーだったら、30票集めればだいたい受賞可能性があった。しかし、今年はこのボーダーラインが非常に曖昧である。なぜって、10作品候補があるなら、作品関係者だけでも相当な数になるだろう。だから今回の作品賞争奪戦は、奪い合う分母が劇的に少ない。そう考えれば、今年は何票集めれば受賞できるのかすら見えなくなる。それでも一つだけ言えることはある。受賞ラインが下がれば下がるほど、なにが起こってもおかしくないということ。第75回の主演男優賞部門でエイドリアン・ブロディが漁夫の利を得た時、内容と受賞は無関係であるとオスカーは世に知らしめた。だから今年はなにが起きても不思議じゃないのだ。細かい票読みが必要になってくる。




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まず「第9地区」のサプライズインのせいで、「アバター」の受賞がなくなった。「第9地区」のインは、本作の支持者がかなりいるということであり、つまるところその多くの支持者はそのまま「第9地区」に投票する可能性がかぎりなく高い。この層は「アバター」陣営が取り込みたかった層とまるかぶりで、この時点で「アバター」は赤信号点滅と断じるほかない。「アバター」はじつは、関係者票以外に取り込めるところがほとんどない。キャメロンの撮影スタイルは膨大な制作費を必要としているので、胡麻擂ったところで組めるのは限られた人間と決まっているから、胡麻擂り票が入らない。CG多用は人(映画人)的動員が軽微である証でもあるし、有名俳優一同もキャメロンに演出して欲しいとは特段思ってないに違いない。それにどれだけの映画人に飯を食わせたのかという点も重要なファクターの一つである。「指輪物語」の圧勝劇は、多くの俳優のみならず、多くの裏方スタッフに仕事を与えたからでもあったわけだ。椅子に座ってキーボードを叩いているだけの協会員はまだ極少数に過ぎない。逆にCG多用ムービーのアンチ層や3Dアンチ層は確実に協会のなかに潜んでいる。アンチキャメロンも結構いる。はっきりいって「アバター」受賞は考える必要すら感じない。




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同じく最多ノミネートされている「ハート・ロッカー」は強い作品である。派手派手な今年のオスカーには向かないと考えがちかもしれないけれど、作品関係者以外にも、本作を支持する層はかなりいる。例えば、民主党支持者や女性監督の作品賞受賞を後押しする層である。こういった体制や権力を持つことに関心のないリベラル派(例えばショーン・ペン)は、間違いなく本作に投票するだろう。




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同じ系統だけれど、昨年「スラムドッグ」が作品賞を受賞したいま、同じ出自の「プレシャス」も侮ることはけしてできない。なぜなら、上記のとおり今年の作品賞部門は分母が少ない少数決戦なのである。セレブ的リベラルな方々からの厚い支持を得ているというだけで、勝機が十分に出てしまう計算が成り立つ。そしてイーストウッドの「インビクタス」の候補漏れ!黒人層からの票はまるっと本作に投じられる。映画祭で観客賞を複数受賞しているファンの多い一本。今年は作品賞部門で穴があく可能性はかなりある。




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しかし、本当のところ、今回のオスカーがどういう図式になっているのかと考えるに、「マイレージ、マイライフ」vs.「イングロリアス・バスターズ」と考えるのが妥当であろう。そこのあなた笑いましたね?でも、事実そうなんだからしょうがない。今年はこの2本のどちからが受賞するだろう。「マイレージ、マイライフ」は、まさにオスカー的な作品であると断言できる。ハリウッドがこれから作っていかなければならない大人の観賞に堪えうる一本だと評判だ。「或る夜の出来事」や「アパートの鍵貸します」の名前を出すまでもなく、オスカーは洒落ていて気の利いている作品が大好きである。特段なんの派閥にも属していない年輩の協会員はこぞってここに票を投じるだろう。そして、そもそも論として、本作は現在の協会の首領(ドン)であるクルーニー兄ぃの主演作品なのだ。もうこの派閥だけで相当な票数が見込めるのは間違いない。でもそこはウィークポイントでもある。現協会の主流派を快く思っていない反体制層が、m協会内部にそれなりにいるであろうことが推測されるからである。現主流派が作品賞候補を10に倍増させる決定をした時なんて、それはもう現国会のようなヤジが飛び交った。それでもやはりその反体制の規模は少数であるという判断をおいらは済ませている。着実にオスカー改革を進めている現体制の実行力を伴う強権発動を見るにつき、隠れ不満分子だけが気になるところではあるが。




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対する「イングロリアス・バスターズ」は、なにを隠そうおいらの本命である。本作のオスカー的欠点材料は、暴力描写が気になるくらいのもので、卑猥な描写もまったくない素行のいい本作なら、オスカーの頂点には十分に手が届く。根拠材料は、ずっと書いてきたとおりの今回が少数決戦であること。本作は、少数決戦でもっともぶれない層からの支持を一手に引き受けている。それこそ“あの関係に投票し隊”である。オスカーは常に“あの関係に投票し隊”の歯牙の危険にさらされている。ちょっと油断しているとすぐにこの面子が受賞をかっさらっていってしまうのだ。確かに、例年のオスカーで受賞するためには、“あの関係に投票し隊”の得票に+αが必要だった。しかし、今年は10作品と票がばらけるオスカーである。“あの関係に投票し隊”の組織票だけで十分に勝負になる。スクリーン上で某独裁者をぶち殺してしまった映画である。今年のここの結束力は相当堅い。おまけに、そうおまけにである。本作には、タランティーノ支持票が入る。タンティーノと仕事をしたいと考えている映画人はじつはかなりいる。一昨年コーエン兄弟の作品が受賞をさらっていったように、いまのアカデミー協会を支えているのは、もはやそういった奇抜な監督を支持するアラフォー世代なのである。おまけに、本作は多国籍(言語)映画であり、非アメリカンな映画人たちが待ち望んでいた作品形態でもある。彼彼女らは、本作のような字幕映画がハリウッドで成功してこそ、仕事を確保でき、チャンスが生まれると至極全うに思っている。これこそ多くの渡米してきた映画人の本音である。



蓋を開けたら「イングロリアス・バスターズ」でした。これで本年は間違いないよ。「アバター」は「スターウォーズ」扱い。GGを受賞し、オスカーにノミネートされた時点で既に勝者である。主要賞では無冠に終わるのではないか。(つづく)