2)薩摩登山遠征記。「切り傷は現地調達で」 | 栃木県宇都宮市で攀じるパパクライマー

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人の親になっても頂きを目指し、家族と共に攀じり続けるパパクライマーの記録

(一昨日のつづき)湯治旅行のつもりが山登りをすることになって、相反するヘンテコな事態になりつつあることにとまどいつつも、膝の治癒をしながら、トレランのトレーニングも始められるなという皮算用も始めていて、そんなおいらはトレランの大会に向けて、旅行前にトレイルランニングシューズを購入することにした。


トレイルの大会は、ランニングシューズとトレイルランニングシューズのどちらかを履いて出場することになるそうだが、上級者は少しでも軽量なランニングシューズを選ぶらしい。おいらからすると最初のうち山登りをランニングシューズでしていたこともあり、山にランニングシューズで入るなんてとんでもないと、最初からトレイルシューズを購入することに決め打つ。馴染みになりつつある山屋のトレイルのコーナーにあるシューズをすべて履いてみて、結果下記画像のシューズとあいなった。


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本当はゴアテックス機能のあるシューズから選びたかったが、かかと丈がどれも納得がいかず、履き心地を優先してゴアテックス機能は諦めることに。鹿児島で登る山はそれほど高い山ではないから、大会前の試し履きの場には糖度良いだろう。でもそんなに甘くなかったんだなあ。甘くなかったといえば、山趣味たかだか2年目のおいらは、フライト1週間前になって始めて気付いたことがあった。旅行の計画を登山中心にするのはいいけど、雨降ったらどうするのかということ。旅行中に雨降ったら計画が台なしになるなんて発想がそもそもなかった。山登りでなかったら天気で予定変更しなければならないなんてことないものね。でもおいらはラッキースターの庇護のもとに生まれているのだからして問題あるまい。あった。3日前になっても旅行当日の鹿児島の天気予報は雨であった。航空チケットは一月前に押さえており、今更変更というわけもいかず、結果ノープランで雨の鹿児島に飛び立つことに。それでもな、まだ運よく晴れてしまうのだろうなあと思っていたり。


早朝、鹿児島空港に降り立つと、そこは雨だった。これはどうしたことだろう。空港から登山口に直行する計画であったが、一から考えなおさなければならない。取り敢えず、予約しておいたレンタカーを受け取り、登る予定だった高千穂峰の麓に鎮座する霧島神宮まで移動してみよう。その間に晴れるに違いない。


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霧島神宮に到着するも天候は変わらず、養生登山旅行からただの養生旅行に変更を余技なくされる。まあそれはそれでいい。そもそもおいらのこの膝で登山ができるのかという疑問は解消していなかったのだから。霧島神宮は、天孫降臨の神話に登場するニニギノミコトを祭る神社ということで、坂本龍馬も新婚旅行時に参拝している他、君が代に歌われている「巌となったさざれ石」なんかも置いてあり、日本発祥の地的な威厳を感じさせるものでした。


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これが「巌となったさざれ石」。Wikiによると【小さな石の欠片の集まりが炭酸カルシウム(CaCO3)などにより埋められ、1つの大きな石の塊に変化したもの】だそうだ。


で、境内をぶらぶらしているとそれは起きた。天に陽が差し出したのである。おお、さっきお賽銭してお願いしたばかりの「雨雲を吹き飛ばし、我を天孫降臨の地まで導きたまえ」という祈りが、ニニギノミコトに通じたかのようではないか。この機を逃してなるものか。おいらは行くぜ、天孫降臨の地へ。坂本龍馬の新婚旅行よろしく、霧島神宮に参拝して、高千穂峰を登拝するという試み。そしてよくよく考えてみれば、坂本龍馬も同じく刀傷の湯治という養生目的にもかかわらず登山をするという無茶をしていた事実。そして彼が高千穂峰に登ったのもなんと32才なのであった。なんたる重なりよう。これはなにかあるなにか。


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何時、陽が隠れてしまうか分からないため、昼食は登山口で適当に食べれば良いと登山口に直行。走っている間に雨雲が急速にはれていく快感。やはりおいらはラッキースターの庇護のもとにあるのだ。登山口で適当に蕎麦を腹につめ、climb on!!


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うっほほ~い。見てよ、この快晴。おいらを天孫降臨の地まで誘っているかようじゃないか。満面の笑みを浮かべてシャッターをきるおいら。因みに指さしている地点は山頂ではなくお釜の縁。指しているあたりからお釜の縁をまわって辿り着くのが登山口からでは視認できない山頂ということになる。いったいどれほどのパワースポットなのか。わくわく


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トレイルシューズでの登山デビュー。さてどうなることやら。


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登山道の出だしは石畳で整えられて綺麗なもの。


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それが樹林帯を抜けると一変。赤茶けた火山礫のむき出した山肌が視界の限り広がります。


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ある程度登ってきて、来た道を振り返る。写真のように火山礫をただただまっすぐ登ってくるだけの登山道。これで登山とは少し寂しい。山的にはハイキング感覚といってもいい具合である。まあ山頂まで行けば、桜島や開聞岳なんかが一望できるらしいので、眺望が広がっていく様を楽しみに登っていきましょう。さて旅行先での登山は思いのほか楽しかった。登山がこれほど旅行と親和性があるとは思いもよらなかった。と言うのも地元の登山客と話すのが楽しいのだ。挨拶を交わした登山客と少し話すと大抵どこから来たのか聞かれる。喋り口調から余所者だと察知するのでしょうが、栃木からと告げると、そりゃあもう話しが弾む。地元の方言を聞くのも楽しいし、旅行先でこれほど多くの地元の方と会話するのもそうない体験。旅行 meets 登山 くせになるかも。


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おや? 年配の女性の一団と話しているうちに、眺望を遮るように雲がわき出て登ってきていることに気付いた。この雲の登るスピードは異常だ。不味い。女性の一団に別れを告げ、山頂に向けてペースをあげて、登り出す。しかし、赤茶けの火山礫が滑る滑る。前に進むのも一苦労。トレイルシューズだから滑るのか。火山礫だから滑るのか。


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悪い予感は的中。お鉢に辿り着いたころには、霧で視界がほとんどなくなり強風に飛ばされないよう姿勢を低くしての登山を余儀なくされる。すると、進む先に大勢の人影が霧の中から浮かび上がる。「こんにちは。どうしたんですか」「いや、みな、強風で前に進めないんですよ」どれどれ、なるほど、ここは確かに幅がせまい。右に落ちれば火口で左は断崖。どちらに落ちても命はない。「確かにこの強風で通るのは危険ですね」「分かりました。おいらがまず試しに行ってみますよ。大丈夫そうだったら付いてきてください」誰も付いてこないのだった。


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しかし急いで正解。山頂はそれほどガスっておらず、坂本龍馬が引き抜いたとされる天の逆鉾もばっちりと視認できる。折角の山頂なので、周辺を少し散策してみる。


どぅあぁl;あぁぁぁあl あまりの強風に立っていることもやっと。風上のほう向くことすらできない。飛ばされる! なんなんだ、ここの天候の一変の仕方は。人の意識の範疇を超えているぞ。ここは唯一無二の天孫降臨の地。他の山と同じ感覚でいたらダメだ。待っていても何があるか分からない。取り敢えず、急いで下山しよう。


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登りと違って下りは1m先が見えないほどのガス。そして、風。がぁぁあぁぁぁ、ずりゃっぁぁl、あががlがkだじゅぐ、だどぢがg、g。トレイルシューズだから滑るのか。ここの火山礫が滑るのか。そして、登り時には兆候が見られなかった膝の激痛再び。片足が棒のようになって膝関節が動かない!! 下山時は歩くことを諦めた、ただただ動く片足に頼った、火山礫を滑り、転がり、地面にキスしながらの急転直下。兎に角地表が滑るので山の角度に身を任して、転び転がりしていれば、あっあという間に下までついてしまった。樹林帯に入ると多くの登山客が非難し休んでいて、「あれ、もう降りてきたの?」と声をかけてきたのは、登り時に会話した地元の方々。「やっぱりこの天気じゃ山頂まで行けなかったんだね」「いえいえ、行ってきましたよ、山頂」「またまた~」「いえいえ本当ですって」「やっぱり若いんだね~」


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早く降りてこられたのは若さじゃないんだ。いや若さか。無謀な内はまだ若気が生えていることか。真っ赤に染まった右足を戻った登山口で洗い流すと、姿を表したのは長い切り傷。これはまるで刀傷みたいじゃないか。坂本龍馬の呪いかなんかなのか。(つづく)