3章 涙色
最近、泣かない日が無い。
何が悲しい、とか、何が悔しいとか、何が寂しいとか、何が何かわからない。
ただ、泣けばまた立ち向かう力が湧いてくる。前向きにもなれる。
だからといって、誰かに何かをしてもらいたい、とか、慰めてもらいたいとは思わない。
自分で感情を処理するためだけに涙を流す。
泣くことが自慰になる。
これが私の処世術。
その時は悲しくて仕方ないけど、泣かないと潰れてしまう。
男の涙はみっともないのかもしれないが、私の涙腺が弱いのは昔から。
涙腺が弱い人間は、人間としても弱いのだろうか。
博美さんとろくに連絡がとれない日が続く。
友達のことで忙しいのだから仕方ない。
毎晩泣きすぎて涙も枯れてしまった。
人間にしろ、犬にしろ、逃げ道もなく耐えるしかない状態に置かれていたら、気力を失うらしい。
悲しいくせに悲しいとも思えない。
逃げることもしない。立ち向かうこともしない。
メールをしても返事が無く、電話をかけても相変わらず出ない。
手紙を書いたらしかられる、電話をしてもいけない関係?
それでも当たり前だと思うようになってきた。
でも、いつまた博美さんがこの世から消えてしまいたいと思うかもしれない。
それを思うと、何かがあってからでは遅いから、常に気を張っていないといけない。
どうでもいい、と思う反面、本当に無事なのかどうか、が気になる。
そして無事なら無事と知らせて欲しい。
ただ、彼女には彼女なりの生活があり、私にも私なりの生活がある。
お互い、邪魔になってはいけない。
でも、必要としている時に最優先されたいと願うのはやっぱり贅沢なのだろうか。
私はそれを贅沢という名目の元に却下させることにした。
それはただの依存でしかない。
3日ほど連絡がない生活を経ていたが、久しぶりにこちらからかけた電話に出てくれた。
「もっしも~し?」
「うわっ、びっくりした」
「へ?なんで?」
「いや、最近電話しても出てくれへんから、無駄かな、って思いながらかけたから」
「じゃあ切ろうか?」
「あかん、あかん、せっかく繋がったんやから」。
「で、どうしたん?」
「いや、最近ろくに話もできてないからどうしてるかな~って」
「うん、こっちは相変わらずよ。友達の話が食い違っっとって話が進まん」
「そっか。で、博美さん自体は大丈夫なん?」
「いんや、もうだいぶガタが来とる。ホンマに最近眠剤飲んでも寝れんのよ」
「あぁ…大丈夫じゃなかったんや…しんどかったら断りや」
「それができるぐらいなら、とっくにしとるよ」
「そっか…何か俺にできることってないかな?って、近くに住んでるわけでもないし、行くこともできへんけど」
「んとね、毎日くれるメール、嬉しいんよ。あぁ、兄さんが居てくれてるって」
「そうなん?返事が無いから邪魔に思われてるんかと思った」
「ん~、なかなか鬱もひどくて返事できるような状態じゃないから。ごめんね」
「いやいや、それはいいから。じゃあ、面白くないことでも送り続けるわ!」
「ありがと。楽しみにしてるわ」
私のしてきたことが無駄ではなかった、ということに、私は胸をなでおろした。
読んでもらえてるのかも分からないメールを送り続けることは苦痛だったが、私のメールが何かの役に立っていることが分かって救われた気分になった。
博美さんの今の状態を考えると喜んでばかりもいられないけど。
嬉しくて、枯れたはずの涙がまた出た。