バディ・ホリーの死をしっかり引き継いだアーティストがいます。
ボビー・ヴィーです。
●スージー・ベイビー / ボビー・ヴィー(59年 全米77位)
バディ・ホリーのフォロワーは沢山いるけれど、ボビー・ヴィーに関しては完全に別格です。
なにしろ、バディ・ホリーが飛行機事故で来れなくなったステージを埋めるために、突如ステージに立ったのが、アマチュアだった当時15歳のボビー・ヴィーだからです。
ボビー・ヴィー自身のインタビューで当時の様子が語られています。
●ボビー・ヴィーのインタビューより
ほかの数多くのみんなと同じように、ホリーの歌を初めて聴いたときに、バディ・ホリー・ファンになった。そのとき以来、僕はずっとファンでいたし、これからもずっとファンでいるだろうと思う。
数年前、バディは僕の故郷の町であるノースダコタ州ファーゴでダンス・イベントに出演することになっていた。これは町中のみんなにとって大きなイベントになるはずだったが、僕にとってはそれ以上のことだった。僕は、本物のバディが動くところを見られるのを、不安とともに楽しみに待っていた。
バディが到着するはずだった日、悲劇が襲い、バディの命を奪った。リッチー・バレンスとビッグ・ボッパー、2人のすばらしい歌手たちも一緒だった。
この衝撃的なニュースは、ファーゴの町中に瞬く間に伝わった。地元のラジオ局は、ダンス・イベントに出演できる地元のタレントを求める呼びかけをした。
その1週間前、僕はボーカルと楽器で5人編成のバンドを組んだばかりだった。僕たちはバディのアプローチをモデルにしていて、バディのヒット曲を念頭に置いてリハーサルをしていた。
ラジオの呼びかけを聞いた僕たちは、出かけていって、「自分たちがやりたい」と申し出た。その時点ではまだバンドの名前も決まっていなかったので、その場で「ザ・シャドウズ (The Shadows)」という名を決めた。
ダンス・イベントに出演し、ありがたいことに熱烈に歓迎された。そのすぐ後に、僕は最初のレコードを作った。それは「スジー・ベイビー (Suzie Baby)」という曲で、とても幸運なことに、かなりのヒット曲となった。
バディ・ホリーの死は悲しいことだけれど、彼の死がなければボビー・ヴィーがデビューすることはなかったかも知れません。
その意味から、ボビー・ヴィーは完全にバディ・ホリーの意志を受け継いだアーティストだと思っています。
もしかしたら、バディ・ホリーが天国から彼に自分の死後を託したのではないか。
そんな風にさえ思えるのです。
その後、ボビー・ヴィーはポップシンガーとして数々のヒット曲を送り出します。
●テイク・グッド・ケア・オブ・マイ・ベイビー(邦題:さよならベイビー)
(61年 全米4週1位)
●モア・ザン・アイ・キャン・セイ
(61年 全米61位)
この曲はバディ・ホリーのバックバンドだった「ザ・クリケッツ」のメンバーによる作品です。
(クリケッツ=コオロギ、ビートルズ=カブトムシで、ビートルズは彼らを意識してバンド名をつけたと言われています)
●ザ・ナイト・ハズ・ア・サウザンド・アイズ(邦題:燃ゆる瞳)
(63年 全米3位)
ボビー・ヴィーの歌う曲は捨て曲ゼロと言っても良いほど、ヒットした曲から、そうでない曲まで名曲ぞろいです。
ヒット曲ではないけれど、僕が一番好きな曲はこちらです。
これもまた「バディ・ホリーが生きていたら、こんなポップな曲も歌っていたかも知れない」という夢を見せてくれます。
そして1962年、いよいよ夢の共演が果たされます。
「ザ・クリケッツ」とのコラボによる、ロックンロールアルバムが発売されたのでした。
ここに収録されている「サムデイ」。
この曲のオリジナルが誰であるのかは情報不足で分からないのですが、この曲を歌うボビー・ヴィーは、まるでバディ・ホリーの生き写しです。
しかし、完全にモノマネではなく、やはりボビー・ヴィーなのです。
バディ・ホリーのファンとしてこんな嬉しいことはありません。
さらに、1963年。
ボビー・ヴィーはバディ・ホリーのトリビュートアルバムを出します。
そのことに関するボビー・ヴィーのコメントです。
少し前から、僕はバディに捧げるトリビュート・アルバムを制作してほしいと求められていたけれど、それが正しいことなのか確信がもてなかった。
しかし、昨年中、そうしたアルバムを作って欲しいというリクエストをたくさんもらって、それも僕のファンやDJたちからだけでなく、まだまだたくさんいるバディの忠実なファンたちからもリクエストがあったんだ。
それがこのアルバムをつくる自信をもたせてくれた。
「スジー・ベイビー」からこのアルバムまで、たくさんレコードを作ってきたけど、バディ・ホリーのことや、彼が僕の歌い方やキャリアに与えた影響の大きさは、決して忘れたことはない。
話を壊すようですが、僕にとってこのトリビュートアルバムは大きな意味はありません。
バディ・ホリーの曲をそのまま歌うのであれば、バディ・ホリーを聴けば良いからです。
その意味で、バディ・ホリーの曲を歌わないボビー・ヴィーこそ僕は大好きです。
バディ・ホリーが生きていたら見せてくれたであろう進化を、ボビー・ヴィーは見せてくれるからです。
バディ・ホリーが亡くなっても、彼の魂は死なない。
そう思わせてくれるのです。
chuma@WDRS