長崎は実に魅力的な街だと思う。
入り組んだ湾の奥に街があり、周囲を小高い山で囲まれている。
そのため、いたる所から港の風景が眺められるし、
どこにいても港の音がこだまのように聞こえてくる。
数多くの歴史の舞台にもなり、異国の文化も沢山存在する。
海あり、山ありで、食べるものも旨い。
そんな魅力的な長崎だが、無知な若者にとっては単なる旅の通過点だった。
自転車やバイクで旅をする若者は多かったが、ただ移動することだけを目的にしていたようだった。
YHで一泊だけして翌朝には早々と次の場所へ移動する。
ゆっくりと街を見るという余裕がなかった。
俺もそんな一人で、オランダ坂、眼鏡橋、グラバー亭などを駆け足で見て、翌朝にはもう出発した。
有明海をフェリーで渡っているときはいい天気だった。
それが阿蘇に入った途端雲行きが怪しくなり、雷に見舞われてしまった。
阿蘇の一番高いところでの雷だ。 怖い。
どちらかというと上からではなくて横から、あるいは下から雷が襲ってくる。
いつ当たっても不思議ではない。しかも激しい雨である。
先を見通すことが出来ない若者だったからそんな中に突っ込んだのだろう。。。
身を隠せるような建物もなく、高い木さえ生えていない。
大きく凶暴な魚の前にぶら下げられた釣りえさになったような気分だったのを記憶している。
魚が食いついてこないことを祈りながら急ぐしか出来なかった。
何とか高い場所から降りたあたりに一件の農家があった。
迷わずそこに駆け込んだ、。雨宿りだ。。。助かった。。。
家の方に挨拶をしなくては、と思い、玄関から声をかける。
返事がないが玄関は空いている。中に入って声をかけるが返事がない。
家の中をのぞくと老人が布団で寝ているのが見える。
眠ってはいないのだが俺の呼びかけにさえ反応できない様子だった。
『 ココで勝手に雨宿りをしていていいものか?』
そう思案していると一台の車が敷地に入ってきた。先ほど後ろを走っていた車だ。
この家の住人だと思って挨拶をした。幼い女の子を連れたお母さんだった。
その方はこの家の人ではなく、やはり雨宿りのために立ち寄ったとのことだ。
しばらくその方と雑談しながら雷が通り過ぎるのを待った。
その方は宗教を広めて廻っているらしい。
そういえば実家に同じ宗教の勧誘に来た人も子供を連れていた。
勧誘されるのではないか、とビビッていた。
あまり居心地のいい空間ではないので、雨の中その家を立ち去った。
しばらく走って阿蘇のYHに着いた。ほっとした。
雨の中荷物を解いて受付へ行った。
一人の女性が掃除をしていた。
チラッとこちらを見ると、無愛想に言った。
「予約無しでも泊まれますが、受付は3時からです。」
「わかりました。雨に濡れて寒いのでお茶を一杯いただけませんか?」
その女性はこちらを振り向きもせずにこう言った。
「お茶ですか、いいですね。私は朝から一杯も飲んでないです。」
そう言いながら掃除を続けた。
俺は思った。
『誰がこんなところに泊まってやるものか!』
雨の中再び荷物をバイクに取り付けて走り出した。
写真は雨宿りをした農家の軒下から写したものです。