今日は三回目の訪問である。
ピ~~ンポ~~ン
こちらも少し慣れてきたので鳴らすと同時にドアを開けた。
「こんにちは~~」
奥から修の声がする。
「はい。」
そして慌てて出てくる。
「先生、やばいよ、やばい!!」
「何がやばいの??」
「親父が来るんだよ。」
「親父??何しに来るの?」
そんなやり取りをしながら部屋に入った。
「それが良くわかんないんだ。おととい電話があって、『勉強はどうだ?』って聞かれて、『別に』とかって適当に答えてたら、『次の家庭教師はいつだ』っていうから、仕方がないし『あさっての二時から。』って答えて、、、そしたら、『その時間に合わせて行くから。』っていうんだよ。」
「じゃ、要するに俺に会いに来るわけだ。」
「わかんないけど、そういうことかな?」
「あ~~、いやだ。いやだ。先生、今日はやめにして帰んない?」
「滅茶苦茶言うなよ。いくらなんでもお父さんが来たら俺はいなかった、というのはまずいやろ。」
「あ~~。あいつうざいんだよ。」
丁度そのとき、修のケイタイが鳴った。
「あ~」
「あ~」
返事が暗くて短いのできっときっと父親だろうとすぐにわかった。
「わ~~あと30分で来るって、やばいよ~~。」
「なにがそんなにやばいんや?」
「あいつ本当にうざいから、、、会えばわかるよ。」
「じゃ、楽しみにしてるわ。」
そうは言ったもののなんとなく俺まで憂鬱になってきた。
この日の修は全く勉強に集中できなかった。
そうしているうちに「親父」が部屋に入ってきた。
「修の父です。お世話になります。」
「家庭教師の澤地です。はじめまして。」
その父はめがねをかけてカッターシャツに作業服のような上着を着ている。
まあ、どこにでもいる感じの男だった。
通り一遍等の挨拶はするがその顔には表情がなく、どこか見下したような視線を感じる。
「どうだ、勉強のほうは?」
修はそう言われても下を向いたまま何も言わない。
顔を斜めに向け明らかに反抗的な態度である。
「親父」は修に話しかけるのをやめ、
「うちの子はどこに入れそうですか?」
いきなり俺に尋ねてきた。
この質問には参った。全く予想をしていなかった。
「それは今後の頑張り次第です。」
俺がそういうと「親父」の顔が険しくなった。
「そこは先生の経験で、どの辺りにいけそうな能力の子なのか教えていただきたいのですが、」
「大体勉強なんて能力よりも努力ですから、コツコツと続ければ上がるし、途中で嫌になって辞めてしま
えばそれまでですから。」
俺はわざと少し意地悪な答え方をした。
さらに「親父」の顔が険しくなり、口調まで偉そうになった。
「模試でもして実力を計ることは出来ませんか?」
「模試ですか?出来ますけど、きっと川北高校よりも上の数字は今の時点では出ないと思いますよ。」
俺は「そんなこともわからないのか?」と付け加えたい気持ちだった。
「親父」は何も言わなかった。
沈黙が続いた。
修は下を向いたままで怖い顔をしている。
外を走り去る車のエンジン音を合図にするように親父は席を立った。
「とにかくよろしくお願いします。」
まったく気のない言葉だった。
「はい。」
あまり人間が出来ていない俺は気のない返事しか出来なかった。
「しっかり頑張れよ。」
修はもっと人間が出来ていないのか何も返事をしなかった。
「親父」が出て行ってもしばらく俺たちは無言だった。
「親父」が車のエンジンをかけて走り去るのが聞こえた。
そのとたん修の表情が穏やかになり口を開いた。
「ね?うざいでしょう?」
「お~。あいつ、めっちゃうざいな。」
そう言いたい俺だったが、さすがにその言葉は出さずに、
「わざわざあれだけのために来たんかな?」
そう言うと、
「暇なんじゃないの??さあ、先生、勉強しよう。」
修の口からそんな言葉が出るのは初めてだった。
しかしその日の修はやはり集中力がなかった。
ただ親父の話題から離れたいので勉強をしているように見えた。
写真はスイスのハイキング道をまさに牛耳る牛である。
睨まれながら前を通るのが怖かったのを今でも覚えている。