「次は絶対に覚えておけよ」
その張り紙を見たとき、俺は一瞬ぎょっとした。
中一の学(仮名)の部屋の壁にその張り紙が乱雑に画鋲でとめられていた。
ノートを破ったような紙に、筆ペンだろうか、殴り書きのような文字でそうかかれてあった。
その下には書いた人物だろうか、比呂志 と名前が書いてあった。
『これはどう見ても果たし状だな。』
俺はピンと来てしまったのである。
そう思うとその張り紙が気になって仕方がない。
学は中学に入った当初、いじめを受けたことがある。
プライドが高い学はなかなかそれを言い出せなかった。
明らかに元気がないため、何回も尋ねると、いじめを受けていると白状した。
それでも「親には言わないでください。」と俺に懇願した。
ようやくそのいじめも収まったと聞いていた矢先のこの張り紙である。
普通ならそんな果たし状のようなものを部屋に貼る訳が無いのだが、学の場合は違った。
最初の中間テストで思うような順位でなかった学はこんな張り紙を部屋に貼っていた。
「打倒、学年全員」「臥薪嘗胆」
普通なら「目指せ学年トップ」とするところをそう書いて貼るような生徒だった。
その日、学が勉強する様子を見ても特に変ったことはなかった。
そのいつも通りの様子が俺からすれば
『一層深刻な事態なのではないか』
と思えたのだ。
二週間が過ぎたが、部屋に出入りしているだろう親からも相談は無い。
大変なことになる前に何とか出来るのは俺しかいない。
そう思うと勉強を教えている場合ではなかった。
三週間のあと、意を決して学に尋ねてみた。
「あの張り紙はなに?」
「え??」
学は一瞬言葉につまった。数ヶ月前にいじめを告白した時と同じ状況だった。
『さあ、大変なことになるぞ。』
そう思った俺は質問を変えた。
『比呂志って誰?』
学は笑顔で答えた。
「教育実習でお世話になった先生です。」
「へ??じゃ、あの張り紙はどういう意味?」
「あ~あれですか。」
「教育実習が終わってしばらくしてから町で偶然先生に会ったんです。」
「でも僕は先生のことを覚えていなくて、、、」
「それで先生がその場で持っていたノートをちぎって名前を書いてくれたんです。」
「今度会った時にまた忘れていたら悪いから、ああして貼っているんです。」
「へ??それだけ??」
俺は全く拍子抜けだった。
「何だと思ったんですか??」
「いや、、喧嘩の仕返しの果たし状かな、、、と、、」
二人して大爆笑したのは言うまでもない。。。





