『ねぇ、この写真はどうする?フレームは持って帰りたいケド、さすがに写真は持って帰れないの』

あれから3日経った。
今日は週末、とうとう最後の日を迎えてしまった。

ベッドの枕元には様々な飾りが置いてあったが、その中でもフォトフレームは眞知子サマのお気に入りだった。

大小様々なカタチのフレームが4つあるのだが、私はデジカメの画像をフレームに合わせてプリントアウトして、綺麗に見えるようにレイアウトしていた。

『データはアタシも持ってるから、リンがこの写真を記念に持っててヨ♡』

―――確かに。
これから仮にも夫婦がやり直すンなら、こンな写真は不要ですナ・・・

眞知子サマの旦那サンは、最後まで私の存在を詮索しなかったようだ。
ハナシを聞いていると、嫉妬心で家を出たのではなく、他人に抱かれ続けている(で、あろう)オンナと一つ屋根の下に住むのが、自分が下に思われているようで我慢ならなかったらしい。

今回は身辺を全てリセットする条件で旦那サンを迎えるワケだから、変なモノを持ち帰るワケにはいかない。

「ゴメンなさい。
何もかも失った私が、この写真を引き継ぐにはツラ過ぎると思います。
申し訳ありませんケド、今ココで切り裂いても良いですか?」

眞知子サマは瞬きをせずにしばらく私を見つめていたが、観念した表情で目を閉じ、そして小さく頷いた。


『コレはあそこの水族館だったネ。
コッチは○○○ランド、コレは○○海水浴場、そしてコレは○○山へハイキングに行ったトキの写真ネ♡』

この2年くらいで、2人はいろんなトコロに出掛け、そして写真にその楽しい思い出も封じ込めていた。

そして・・・・・・

眞知子サマと私は、泣きながらさっきの写真を破いている。

―――こンなに辛い作業があるのだろうか・・・

まだ好き合っている2人が、楽しかった思い出を、美しい記憶を、自らの手で泣きながら切り裂いている。

―――コレで良いンだ。2人にはこのくらいの罰は必要なンだ・・・

私はともかく、眞知子サマはとりあえず家庭には戻るコトが出来る。
子供たちもひもじい思いや寂しい思いをしなくなれる。
何かを得るタメには、必ず何かを失わなけらばならない。
この世は全て等価交換なンだ・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

『じゃ、アタシはコレで帰るわネ。
ありがとう、リン。
短い間だったケド、とっても幸せだったワ。
サヨナラ・・・』

自分のクルマに荷物を積み終えた眞知子サマは、名残惜しそうに私を見つめていたが、私は涙のせいで眞知子サマの顔がよく見えなかった。

『元気でネ!
寝るトキは寝冷えに気をつけるのヨ。
リンはスグお腹壊すンだから。
それから、晩酌はホドホドにするのヨ。
それから・・・』

まるで遠くへ旅立つ子供に諭してるような口振りで少し笑えてきたが、こンな小言でも今は何より嬉しかった。

そして・・・

口を噤んだ眞知子サマはクルマに乗り込み、手を振りながら走り去っていった。
手は振り続けていたが、振り向くコトは無かった。

空は晴れ渡っていたが風はまだ冷たい、2月の終わりごろの出来事だった。

sky


想い出つまったこの部屋を 僕もでてゆこう
ドアにカギをおろした時 なぜか涙がこぼれた

君が育てたサボテンは 小さな花をつくった
春はもうすぐそこまで
恋は今終わった

この長い冬がおわるまでに
何かをみつけて生きよう
何かを信じて生きてゆこう
この冬がおわるまで

サボテンの花(福山雅治バージョン)
↑よかったらお聴きください。

Fin