「あ、リンくん!こっちこっち!」
小さい声で叫ンでいるのは、常連客のノンちゃんコト、ノボルくんだ。
彼と岩田クン、それから高井サンの3人はどうやら眞知子サマに憧れている独身男性で、眞知子サマが出勤する週3回は必ず店に来ている。
憧れていると言っても口説いたりはせずに、終始にこやかに遊んで帰るので、眞知子サマにとっては優良な客のようだ。
「どうしたン?そンな小声で・・・」
「シッ!アイツが来てるンだよ」
「アイツ?誰のコト?」
ノンちゃんは私の顔を見たまま、親指を立てて、後ろ向きで奥のボックス席を指した。
どこかで見たような顔が見える。
「ん?どっかで見た顔やなぁ」
「あ、そうか。リンくんも同じ学校だったネ。アイツだよ、アキラだよ!」
「おお!アイツか。なンでアイツがこの店に?」
アキラとは、私と同じ中学の同窓生で、昔はソコソコのワルだった。
自分より強い相手、強そうな相手には絶対に立ち向かわない、キモの小さい小悪党だったが、自分が優勢か、または優勢と思える相手には、情け容赦無く危害を加えるような卑劣漢でもあった。
ノンちゃんのハナシによると、2年前ぐらいから2~3ヶ月に一度やって来て、必ず常連客とトラブルを起こすらしい。
私は身長182だが、アキラは私よりまだ大きく184cmはあるだろう。
160を切る小男のノンちゃんは、口ごたえするのも恐ろしい相手だ、
しかし、それでもノンちゃんは顔を顰めながら、アキラのハナシを続けた。
「アキラはネ、リンくん。コトもあろうにボク達の前で麻耶サン(眞知子サマの源氏名)を口説くンだヨ!絶対に赦せない!」
ーーーホンなら、私と眞知子サマの関係が知られたら、私は常連客に殺されるなぁ(>_<)
私は一瞬、顔色が変わったと思うが、ノンちゃんは全く気づかず、尚も口角泡を飛ばしながら、アキラの悪行を語り続けた。
今夜は珍しく岩田クンと高井サンも来てないようで、さらに女性陣は奥のボックス席へつきっきりのため、ノンちゃんしかいないカウンターにいる私は、かなりの時間 聞き役に回った。
しかし、終電の時間になると、まるで潮が引いていくようにお客さんが帰ってしまい、店内は、カウンターには私とノンちゃん、奥のボックスにはアキラ1人ダケとなった。
このあと、血まみれの事件がおきるのだが、続きはまた次回まで・・・